なぜ、こんなに判りにくいのか?~Go To トラベルキャンペーンの使い方6箇条
・なぜ、こんなに使いにくいのか
Go To トラベルキャンペーンが7月から始まっているが、評判は芳しくない。片方で感染者数は最高を更新と騒いでいて、片方で旅行に出かけましょうと言われても、どうしろというのかと思うのが普通だろう。
そして、前回に書いたように、実際に50%引きになるのは、9月以降の予定。いつになるのか、依然として定かではなく、当面は35%引きだ。
しかし、さて実際に「出かけてみよう」と思って、今、話題のGo To トラベルキャンペーンで35%引きを利用しようとすると、「なぜ、こんなに使いにくいのか」と文句が言いたくなる。
・自分で組むなら、旅行代理店よりネット予約?
愛知県に住む会社員のAさんは、夏休みに夫婦で長野県の友人を訪ねることにした。名古屋から、東京を経由して軽井沢、上田と連泊する計画を立てた。事前にネットでGo Toトラベルキャンペーンを調べ、キャンペーンに参加していると表示が出ているホテルを二か所選び、旅行代理店に出かけた。
「ちゃんとGo Toトラベルのホームページを確認して、ホテルだけを自分でネット予約すると交通費は対象外になるからということで、わざわざ旅行代理店に行ったんですよ。観光庁のホームページを見ると、旅行代理店で手配してもらえば、交通費も宿泊費も対象になると書かれていますから。」
ところが、旅行代理店を数軒回って、どこでも同じことが言われたそうだ。「旅行代理店が組んだパッケージじゃないとダメだってことなんです。キャンペーンに参加しているホテルと、JRを組み合わせて、旅行代理店で作ってくれるのかと思ったら、それはダメなんだと。その上、なぜか長野方面に行くなら、東京経由の新幹線利用はダメで、中央線経由だけだと言うんです」という。
さらに、「旅行代理店の担当者の人たちも、いろいろな条件が後から追加されて、自分たちもよく判らないのですと言ってました。暑い中出かけて無駄骨でしたが、旅行代理店の人たちもうんざりと言う感じで、気の毒に思いました。」
・予約サイトによって違うやり方と条件
さて、それではネットの旅行予約サイトで、鉄道や航空便の手配とホテルとを一緒にすれば、キャンペーンの割引が適用されるかというと、そう簡単にはいかない。
関西地方の会社経営者のBさんは、出張で東北地方に出かける必要ができたので、キャンペーンを利用しようと考えた。いつも利用している楽天トラベルのホテル予約サイトで、航空券も併せて予約しようとしたが、問題が発生した。
「得意先を訪問するために、青森空港に飛び、一日目は青森に泊まり、二日目は弘前でと思ったのですが、これができない。」
このホテル予約サイトの説明をよく読むと、下記のように書かれている。
「※国内ツアーの場合、すべての日程において同一の宿泊施設の場合のみクーポンが適用となりますので、ご注意ください。」
不思議に思ったAさんが、航空会社のサイトから予約を入れようとすると、1泊目と2泊目に違うホテルでも予約可能だ。念のためにと大手旅行代理店のネットサイトを見ると、こちらもできる。「いつも、だいたい同じサイトしか利用しないじゃないですか、ポイントとかあるし。今回もお得そうだったのですが、キャンペーンの割引を利用するには、いくつかのサイトを比較してみないとだめですね」というが、Bさんの結論だ。
・予約サイトによっても割引率や方法が微妙に違う
キャンペーンの割引率は35%のはずなのだが、実際にはポイント割引やそれぞれの旅行代理店独自の割引などで支払額に差が出る。例えば、日本旅行では、滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県 、大阪府の居住者が公式ホームページから予約する場合に、旅行対象エリアが滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県 、大阪府、三重県だった場合、「近場割」と称してさらに3%の割引を加え、合計38%の割引率としている。他の旅行代理店や予約サイトでも、35%にプラスして、様々な割引やポイント還元を付けている。
さらに、ホテルや旅館によっては、自社の公式ホームページでの料金が最安値というところもある。
Cさんは定年退職後、毎年、同じホテルに避暑に出かけるのを楽しみにしている。ホテル側から、最安値になるのは、公式ホームページからだと言われており、今年も予約を入れた。「予約を入れたら、担当者が電話をくれて、Go To トラベルキャンペーン割引券を持ってくれば、フロントで35%値引きしますと言ってくれたんだ。」さっそく、そのホテルのページの説明を読むと、まず公式ホームページで予約し、その上でホテルが契約している予約サイトにアクセスし、予約番号を入力して、「Go To トラベルキャンペーン割引券」をプリントアウトする。そして、その割引券を宿泊するホテルに持参すると、初めて35%引きになるという、複雑な手続きを求めている。「説明を読んでいくだけで、疲れてしまって、結局、大学生の孫に手伝ってもらってやっと、登録と割引券をプリントアウトしましたよ。」
さらに、サイトの中には価格を確認するためには、会員登録をしなくてはいけない場合も多い。高齢者や、あまりネット予約に慣れていない人にとっては、面倒なことだ。
・大手ホテルチェーンでも、準備中のところもある
全国のホテルや旅館のうち、7月末までにキャンペーン参加の手続きを終えたのは、3割程度だろうと言われている。ホテルの予約サイトには、キャンペーン参加の表示も出ているので、そこから選ぶのが簡単だ。しかし、この後、ホテルや旅館が手続きを行い、登録されれば、7月22日まで遡って、35%が還付される可能性がある。
その場合、利用者が自分で還付請求をしなくてはいけないので、宿泊したホテルや旅館の領収書や宿泊証明書が必要になる。ちゃんともらっておこう。
実は、こうした手続きが必要な中には大手チェーンもあるので注意が必要だ。例えば、東横インは、今月末までは、チェックインの時に申し出て、還付請求を行う時に必要な書類をもらい、保管しておき、後日、自分で還付申請をする必要がある。
・Go To トラベルキャンペーンの使い方6箇条(8月19日現在)
(1)一番簡単なのは旅行代理店でパッケージ旅行を購入する方法
Aさんが数軒の旅行代理店を回っての結論は、いくつかのパッケージになっているものでないと、ほとんどの旅行代理店で扱ってくれない。
むしろ新幹線利用ならばJR東海ツアーズなどの鉄道会社系の旅行代理店、航空便を利用ならば日本航空、全日空など航空会社の公式ホームページからなら、往復の交通手段とホテルを自由に組み合わせることができる。旅行代理店によっては、店舗ではできないが、ネットサイトからはできるというところもあるようだ。また、先に書いたように組み合わせはできるが、同じホテルに連泊でないとできないといった条件が付けられている場合もある。
あまり細かな注文は付けないし、メジャーな観光地でホテルも旅行代理店のおすすめのところで充分という人は、旅行代理店でGo Toトラベルキャンペーン適用のパッケージ旅行を購入するのが、一番簡単だろう。
(2)ホテル予約サイトも比較が必要
ホテルだけをキャンペーン利用で予約する際にも、どこのサイトが一番、お得なのか、比較が必要だ。それぞれが独自の割引制度やポイント付与などを行っていたり、ホテルや旅館によって直接オフィシャルページで予約するのが一番安くなる場合もあるからだ。
「たかが数百円か、差が出ても数千円でしょ。気にしないよ」という人もいるだろうが、家族4人で二泊、三泊となれば、それなりの差が出るので、予約サイトやホテルや旅館の公式ホームページもじっくり比較する必要があるだろう。
(3)未登録や登録手続き中のホテルや旅館に宿泊した場合には、領収書と宿泊証明書を忘れずに
宿泊時は未登録でも、後々に登録されれば、還付対象となる。徐々にだが登録する施設も増加しているので、あきらめずにとりあえず領収書と宿泊証明書はもらっておこう。
(4)還付手続きを忘れないように
旅行時には、まだ登録が行われておらず、還付手続きが必要な場合、これから定められている期間中に利用者自らが手続きをする必要がある。その手続き方法は、まだ明らかになっていない部分も多いが、例えば日本航空の場合、次のようになっている。
日本航空の支店やネットでGo Toトラベルキャンペーン割引前の価格で予約、購入したJALダイナミックパッケージなどは、8月20日から9月23日の期間に日本航空のホームページから申し込む必要がある。旅行代理店で購入した場合は、それぞれの旅行代理店に手続き方法を問い合わせる必要がある。
せっかく還付してもらえるものも、期限を忘れて手続きをしなくては、手元に戻らない。
(5)交通費分はJR各社や航空会社の割引を利用した方が安い場合も
事前に予約する必要があるが、JR東日本などは新幹線や在来線特急の50%引きを行っている。ネット予約で乗車日20日前まで、座席数限定という条件はあるが、大幅な値引きを受けられる。同様に、他のJR各社や航空各社などでも割引料金を打ち出しており、こうした割引制度を併用することで、往復の交通機関の料金を安く抑えることも可能だ。
宿泊と交通機関をセットにして、Go Toトラベル割引を利用するべきか、宿泊だけをGo Toトラベル割引で、交通機関はそれぞれの割引制度を利用するべきか、こちらもひと手間調べた方が良いようだ。
(6)観光庁が詳細条件を日々変えている
旅行代理店の担当者が、「毎日のように条件などが変わっていて、私たちも困っている」というほど、観光庁のGo Toトラベルの適用条件は、変わっている。
9月「以降」とされている15%相当の地域共通クーポンについても、詳細は発表されていない。一方、府県によっては、独自の旅行促進の補助制度をすでに実施していたり、実施を予定しているところもある。利用者側からすれば、不便なこと極まりないのだが、情報を小まめに調べて、どのように変化しているのかを注意しておいた方が良いだろう。
・腹立たしいが
「休業のまま廃業する旅館も多いのではないでしょうかね」と東北地方の旅館経営者は、そう言う。「落ち着いたら、ぜひ伺います、頑張ってくださいという言葉はありがたいし、励みにしたいのですが、そこまでうちの経営は持つのか、本当にぎりぎりです。」
「新型コロナが流行しているのに、どうするんだというお叱りの声もある。しかし、地方の、さして産業もない観光で活性化を図ってきたところは、壊滅してしまう。インバウンドも来ない。お祭りも中止。最大限、感染予防をして、Go Toトラベルキャンペーンでなんとかお客に来てほしいというのは、切実な思いだ。」関西地方のある自治体の職員はそう話す。
こうした悲痛な声を聞くと、とりあえず近場への小旅行に行ける人から行くことも重要だと思える。Go Toトラベルキャンペーンの判りにくさ、利用しにくさは、非常に腹立たしいばかりだ。しかし、結果的に中間マージンを稼ぐところだけが成功で、旅行業界にはわずかな恩恵しかなったというのでは、もっと腹立たしい。
観光庁は、期間の延長なり、近場旅行での利用はしやすいようにするなり、鉄道やバスといった公共交通機関でも利用しやすいような形に変えるなど、実情に合わせて、制度を見直すべきだろう。
しかし、どうも政府の様々な対応を見ても、そういう臨機応変な対応は期待薄だ。そうである以上、「旅行に行ってみても良いな」という人たちは、多少の手間も旅の楽しみと開き直り、Go Toトラベルキャンペーンを最大限に利用すればよいのではないか。もちろん、旅行する側も感染対策を厳重にしてというのが、大前提だ。
新型コロナ感染拡大の下での旅行は、それぞれのご意見はあるだろうし、しかし、このままの状況では地方の経済が立ちいかなくなる可能性も大だ。今、地方の観光産業を潰してしまえば、アフターコロナで観光が再び脚光を浴びても、立ち直ることすらできなくなる。もはや政府がどうのではなく、観光業者も観光客も、それぞれの判断で動くしかない段階にきているようだ。
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