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スーパー戦国時代~新旧交代と仁義なき進出

中村智彦神戸国際大学経済学部教授

 日本のスーパーマーケット業界では、近年、業界再編や新旧交代が顕著に進行しています。特に、イトーヨーカドーを運営するセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)の動向が注目されています。また、人口の減少が進む地方部から、さほどでもなく、地域によってはファミリー層の増加傾向が見られる関西地方への地域外スーパーの進出が増えています。

老舗イトーヨーカドーの撤退と新興ロピアの拡大

 セブン&アイは、2024年2月期の通期決算で営業利益が過去最高を達成した一方、総合スーパー(GMS)事業であるイトーヨーカドーの業績低迷が続いています。 これを受け、セブン&アイはイトーヨーカドーを含むスーパーマーケット事業の再編を進めています。

 また、セブン&アイは、海外企業からの買収提案とそれに対抗する創業家らの買収提案で話題になっています。日本のスーパーマーケットの老舗とも言えるセブン& アイは、大きな変革期に差し掛かっているようです。

 一方、話題になったのは、大量閉店するイトーヨーカドーの一部店舗7店の事業承継に関する契約を結んだ株式会社OICグループです。神奈川県に本社のあるOICグループが運営するスーパーがロピアです。ロピアは、全国で新規出店を進めており、存在感を強めています。

スーパーマーケット業界全体の再編と新旧交代

スーパーマーケット業界全体でも、再編や新旧交代が進みつつあります。スーパーマーケット業界の最大手であるイオンを巡っても、動きが活発になっています。2024年2月には、イオンとドラッグストア大手のウエルシアホールディングス、ツルハホールディングスの3社が資本業務提携を締結し、ウエルシアとツルハの経営統合に向けた協議を開始しています。 この統合により、2027年末までに売上規模2兆円超の巨大ドラッグストア企業が誕生する見込みとなています。

 さらに、イオングループでは、2024年3月に株式会社フジ、株式会社フジ・リテイリング、マックスバリュ西日本株式会社の経営統合を実施しました。これによって、統合後の株式会社フジは、中国・四国・兵庫エリア10県でフジ、フジグラン、マックスバリュ、マルナカ、ザ・ビッグなど合計514店舗を運営することになりました。こうした動きは、業界全体の競争激化や市場環境の変化に対応するための戦略的再編であると考えられます。

 急激な人口減少や地方経済の衰退から、地方部のスーパーマーケットの経営は厳しさをましており、地場資本やJA(農業協同組合)が運営する中小スーパーの廃業や倒産も増えています。

H2Oは、阪急オアシス、関西スーパー、イズミヤなどを傘下に置いている。(画像・筆者撮影)
H2Oは、阪急オアシス、関西スーパー、イズミヤなどを傘下に置いている。(画像・筆者撮影)

新興勢力が勢いを増す関西地方

 近年、関西地方のスーパーマーケット業界では、首都圏を拠点とする企業や他府県の企業の進出が活発化しています。特に、オーケー株式会社とトライアルホールディングス、そしてロピアの動向が注目されます。

 オーケーは、首都圏を中心に展開するディスカウント・スーパーマーケットチェーンです。同社は、2021年に関西スーパーマーケットの買収を巡って、H2Oリテイリングと対抗し話題になりました。結果は、、H2Oリテイリングが買収し、オーケーは関西進出の足掛かりを得ることはできなかった。しかし、同社は2024年11月26日、関西地方初となる「オーケー高井田店」を大阪府東大阪市に開店しました。同社は、今後の関西地方への積極的な出店を発表しています。

 一方、トライアルホールディングスは、全国に店舗を展開するディスカウントストアチェーンです。関西地方においても、大阪府、兵庫県、奈良県、滋賀県、和歌山県、三重県に複数の店舗を展開しています。スーパーとホームセンターを兼ね備えた大型店舗で、店舗運営にIoTやAIを積極的に導入するなど、高収益を武器に全国に積極的に出店を進めています。

 ロピアは2020年から関西地方への進出を開始しました。2024年6月時点で、関西エリアに15店舗を展開しています。ロピアは、精肉や鮮魚などの販売に特色があり、関西地方においても急速にその存在感を高めています。

 関西地方のある地場スーパーの経営者は、「これまでイオンなどの全国チェーンと、地場スーパーとで棲み分けが行われてきた感じがあったが、もう仁義なき戦いに突入している。新興勢力は、価格も品質も両面を兼ね備えて進出してくる。地域密着型といっても、実際は非常に厳しい」と言います。

北摂地域の自治体は、人口増加が続いている。
北摂地域の自治体は、人口増加が続いている。

なぜ関西地方なのか

 関西地方でも、特に大阪北部、北摂地方に多くのスーパーやドラッグストアが新規に出店しています。

 この北摂地方は、大阪市の北側に位置し、交通が至便であることや、新たなマンション開発などが進んでいる地域です。そのため、全国でも珍しくなっている人口増加地域となっているため、小売業にとっては着目すべきエリアとなっているのです。

 この中でも吹田市には、これまでも進出していた滋賀県の平和堂などに加え、和歌山県の松源が運営するマツゲンや、京都府のさとうフレッシュフロンティアが運営するフレッシュバザールグランドセンターも出店しています。

 既存のイオン系スーパーや地場スーパーなどもリニューアル工事や新規出店を行っており、ここにドラッグストアやホームセンターなどの出店も加わり、激戦区と化しています。

吹田市に進出したマツゲン。和歌山県に本社があり、大阪北部への出店は初だ。(画像・筆者撮影)
吹田市に進出したマツゲン。和歌山県に本社があり、大阪北部への出店は初だ。(画像・筆者撮影)

小売業の動向は、多くの人に影響する

 イトーヨーカドーを含むセブン&アイのスーパーマーケット事業の再編は、業界全体の新旧交代を象徴する動きとなっています。業界のプレーヤーが大きく変化しつつあります。

 一方、急速な人口減少が進む中で、流通各社は少しでも人口増加が見られる地域への進出を進めています。事業の選択と集中を進め、店舗の統廃合を進めるイトーヨーカドーの一方で、積極的な新規出店を進めることで競争力強化を図る新興勢力。今後も、消費者ニーズの多様化や市場環境の変化に対応するため、業界再編の動向が進むでしょう。

 しかし、競争が激化するほどの新規出店が進む北摂地域のようなところがある反面、人口減少が進み、採算性の低下からスーパーが撤退し、買い物難民問題が深刻になる地域も出ています。スーパーなどの小売業界の動向は、消費者である多く人たちに影響を与えるため、今後も目が離せない状況が続きそうです。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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