首相の膝の上に子ども!?ノルウェー与党にとって1年で最も大事な総会レポート
ノルウェーの各政党では、1年に1度、党の重要な政策や方針を決定する最も重要な総会が開催される。
今年は9月に国政選挙を控えていることもあり、各政党の総会は大きな注目を浴びる。総会には、全国各地の代表、議員が大集合し、3~4日間、週末に開催される。
高い税金を払うノルウェー国民は政治への関心が高い。総会が続く時期は、多少祭りのような雰囲気となる。アーナ・ソールバルグ首相が率いる保守党の総会の様子を、写真を中心にレポートする。
保守党は1884年からの古い歴史をもつ。ノルウェーでは政権交代が頻繁に起こり、保守党率いる右翼連立か、労働党率いる左翼連立となる。大政党がボスとなるが、それでは国会で大多数を維持できないため、小政党とチームを組む。
保守党の党首であるアーナ・ソールバルグ首相は、政策や思想が異なる4党をまとめる「お母さん」役。それぞれが個性的なので、毎年の国家予算をまとめる時にはお母さんは大変だ。
政権交代が頻繁なノルウェーでは、各政党が年中必死になって、他党との違いを国民にアピールする。最も名指しされる政党=「我々が危惧するライバル」と認めることになるため、政治家のスピーチに報道陣は耳を傾ける。
今年は労働党、そして中央党が批判の対象となっていた。支持率が上昇中の中央党は、野生オオカミ駆除派=農民や地方に住む人々を味方につけている。
ノルウェーでは、100頭もいない野生オオカミの駆除について、大きな議論が起こっており、なんと国政選挙の目玉のひとつとなりそうだ。
詳しくは「闇が深いオオカミ議論/68頭のみの野生の70%を射殺へ。ノルウェー国会が許可、波紋を広げる」
「ノルウェーで歓迎されない野生オオカミ 殺処分で国民や政治家が喧嘩中」
首相の膝の上に男の子が?
おや、と気になる光景があった。首相の膝の上に男の子が座っており、タブレットでゲームをして遊んでいる。
「この子も写真に入ってしまいますが、大丈夫ですか?」と首相に尋ねたところ、「大丈夫、大丈夫。党員の息子なのよ」とにっこり。
実は、これまでいろいろな政党の総会を取材してきたが、政治家たちの膝の上に子どもがちょこんと座っていることはよくある。総会は週末に開催されるため、家で子どもと過ごす時間が制限されるので、会場に連れてくるのだ。
政治家ママが働きやすいように配慮
会場の後方では、党員のヒルデさんがベビーカーを押していた。「総会に参加しなければいけなかったけれど、赤ちゃんをどうしようか迷っていたの。党に聞いたら、連れてきていいって言うので本当に助かりました。しかも、夫も同行して手配されたホテルに宿泊していいって。おかげで私は総会に集中できています」。
翌日、会場の後ろでベビーカーを押している夫の姿が。写真を撮っていいか尋ねたところ、「え、僕でいいの?党員じゃなくて、子守りしているだけだよ」と驚いていた。女性が政治に参加しやすい環境を整える党、当たり前のように育児をする夫の姿は、ノルウェーらしい光景だ。
会場で投票権を持つ党員361人中、女性は163人。
母党に大きな影響を与える、青年部の凄さとは
筆者が政党を取材する際に一番気になっているのが、実は「青年部」。中学生、高校生などの若者によって構成されている青年部は、すごい存在力をもっており、現地の報道陣も頻繁に意見を聞いている。
コネや財力がない一般市民も政治家になれる国だが、青年部を通過していると、将来的に党のリーダー、時には首相や大臣になることが多い。どの党でも、党首が座る一列目に青年部がいるのも普通の光景だ。
会場で投票権がある361人中、30~45人が青年部所属。保守党の青年部は1922年に設立され、大人たちの政策委員会にも必ず青年部メンバーが含まれる。今年の総会で投票権を持つ最も若い人は、17才!
「母党の政策発展、選挙運動、党員のリクルートなど、広範囲において青年部は非常に重要な存在です」と保守党総秘書のエンゲセットさんは答える。
LGBTI政策を提案する「オープン保守党」という委員会は、昨年できたばかり。「第三の性の導入」や「同性愛者の献血容認へ」など、新しい法案を党に提案。「保守党」という党名だが、LGBTIや男女平等政策などにおいては、まったく保守的ではないのが保守党。
ベント・ホイエ保健・ケアサービス大臣は、党の男性と同性婚をしており、6才から法律上の性別変更を手術なしで可能にするなど、斬新な行動が有名。
別記事「ノルウェーの政治家は、性的少数者の人権を守ろうと、こんなにも必死だ。右翼・左翼は関係ない」
スウェーデンからも応援が駆け付ける
党の総会といえば、大物ゲストが誰かも注目が集まる。その一人がスウェーデンの穏健党、アンナ・シンベリ・バトラ党首。「スウェーデンの次の首相です」と保守党は紹介。こうして北欧各国で団結を強める戦略はよくみられる。
意見が衝突しても、議論と多数決で民主的に解決
同じ保守党でも、自治体ごとに考えや課題は異なるため、意見が衝突することはよくある。総会は、議論と多数決で党の方針を決める場所。ナンバープレートをあげて、賛成か反対か、意思表示をする。首相や大臣たちの意向とは反対に、地方議員たちの票が上回り、政権としては困る政策が可決されることも。
党員たちや報道陣が気にするのは、首相が「賛成」と「反対」のどちらのカードをあげるか。首相の番号は1番なので、「1」の数字にみんな釘付け。
各党の次期党首が誰になるかも、人々が気にするところ。首相のお気に入りはだれか、現地メディアはよく特集を組む。
日本では大きな注目を浴びることはあまりない政党の総会だが、ノルウェーではまるで芸能ニュースかのように重要事項。
なぜノルウェーの政治には女性、若者、移民など、さまざまな人々の姿が多いか、その基盤を理解するためにも総会の様子はよい資料となる。
今年の選挙でソールバルグ党首は首相の座を守ることができるか?右翼・左翼のどちらが勝利しそうかは、まだ先が読めない。
別記事「ノルウェーでは選挙中、小学生が宿題で政治家に問う。「あなたの政党は難民のために何をするの?」」
Photo&Text: Asaki Abumi