シリアのアル=カーイダと連携するトルコ軍が別のアル=カーイダ系組織の攻撃を初めて受け、兵士2人死亡
ロシア、トルコは初めて停戦違反が確認されなかったと発表
ロシア国防省は19日に声明を出し、イドリブ県の緊張緩和地帯(反体制派支配地)で過去24時間に停戦違反は確認されなかったと発表した。
トルコ側の監視チームも停戦違反を確認しなかった。
両国による停戦違反が確認されなかったのは、2017年5月のアスタナ4会議に基づき、緊張緩和地帯が設置されて以降初めて。
トルコ軍兵士が反体制派の攻撃で死亡
しかし、トルコ国防省はツイッターなどを通じて声明を出し、イドリブ県に駐留するトルコ軍部隊(車列)が19日、「一部過激派集団」のロケット弾攻撃を受け、兵士2人が死亡、1人が負傷したと発表した。
攻撃を受けたトルコ軍部隊はただちにロケット弾が発射された地域を砲撃したという。
トルコ軍兵士が反体制派の攻撃で死亡するのはこれが初めて。
ラタキア県フマイミーム航空基地のシリア駐留ロシア軍司令部に設置されている当事者和解調整センターのオレグ・ジュラフロフ・センター長(海軍少将)も声明を出し、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路で偵察任務に当たっていたトルコ軍部隊が、トルコに従わないテロ組織の一つの戦闘員から攻撃を受け、兵士2人が戦闘で死亡した、と発表した。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、トルコ軍の車列はムハムバル村近郊のM4高速道路を走行中に狙われ、仕掛け爆弾によると思われる爆発が2度にわたり発生したという。
トルコ軍が襲撃を受けたのを受け、国民解放戦線とシャーム解放機構の車列が現場に向かい、またトルコ軍部隊も現場一帯で爆発物の撤去作業を行ったという。
国民解放戦線はトルコの庇護を受ける武装連合体。シャーム解放機構はシリアのアル=カーイダ。両組織は「決戦」作戦司令室を主導し、シリア・ロシア軍と対峙している。
トルコ軍を狙ったのは誰か?
シリア人権監視団によると、トルコ軍を狙ったのは、新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構だと思われる。
フッラース・ディーン機構は、2018年2月にアブー・ハマーム・シャーミーなる人物が結成した組織。彼はアル=カーイダのメンバーとしてアフガニスタンやイラクでの戦歴を持ち、シャームの民のヌスラ戦線(現シャーム解放機構)のメンバーでもあった。だが、ヌスラ戦線がアル=カーイダとの関係を解消したことを不服として離反、アル=カーイダの「再興」をめざし、新組織を結成するにいたった(「ガラパゴス化するシリアのアル=カーイダ系組織」を参照)。
新興のアル=カーイダ系組織がシリア軍を攻撃したと発表
一方、「信者を煽れ」作戦司令室を名乗る組織が19日に声明を出し、イドリブ県ザーウィヤ山地方のファッティーラ村一帯にあるシリア軍拠点を攻撃し、シリア軍と親政権民兵15人以上を殺傷したと発表した。
「信者を煽れ」作戦司令室は、上述のフッラース・ディーン機構に加えて、アンサール・ディーン戦線、アンサール・タウヒード、アンサール・イスラーム集団といった新興のアル=カーイダ系組織が参加する武装連合体。
このほかにも、国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、トルコの支援を受ける「テロ組織」が、停戦合意に違反し、ハザーリーン村一帯のシリア軍拠点を攻撃したと報じた。
また、シリア人権監視団は、シリア軍がナージヤ村を砲撃、トルコ軍が応戦したと発表した。
トルコ軍とアル=カーイダの協力続く
「一部過激派集団」の攻撃を受けたトルコ軍だったが、「決戦」作戦司令室を主導するシャーム解放機構との連携は続けた。
シリア人権監視団によると、トルコ軍は、M4高速道路のナイラブ村とブサンクール村を結ぶ区間の沿線の14カ所に監視ポストを新たに設置した。
5日のロシア・トルコ首脳会談での停戦合意に基づき、ロシア軍との合同パトロールの安全を確保するのが狙い。
トルコ軍はまた、装甲車10輌からなるパトロール部隊をタルナバ村からムハムバル村を結ぶ区間で巡回させた。
監視ポストの設置とパトロール活動は、M4高速道路沿線での警備を続けるシャーム解放機構が「見守る」なかで実施された。
トルコ軍はまた、戦車、装甲車など約90輌をカフル・ルースィーン村に違法に設置されている国境通行所からシリアに新たに進入させるとともに、M4高速道路沿線のブサンクール村近郊に新たな拠点を設置した。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)