Yahoo!ニュース

「がん」当事者と向き合い気づいた言葉の重み。そして言葉の深層まで表現する服飾ブランドとの出合いへ

水上賢治映画ライター
「うつろいの時をまとう」より

 ドキュメンタリー映画「うつろいの時をまとう」は、堀畑裕之と関口真希子のデザイナー・ユニットによる服飾ブランド「matohu(まとふ)」に焦点を当てている。

 ひとつのファッション・ブランドの世界に迫った作品であることは間違いない。

 ここ数年を振り返っただけでも、世界的ファッション・ブランドや有名デザイナーを題材にしたドキュメンタリー映画が数多く存在する。

 ただ、本作は、おそらくそれらの多くのファッション・ブランドを追った作品とはまったく違った世界を見せてくれる。

 確かに、matohuのデザイナー、堀畑裕之と関口真希子の目指すもの作りや、その服の魅力が中心にはなっている。

 だが、本作はもっと根源的な世界とでもいおうか。

 「matohu」というファッション・ブランドから、たとえばタイトルに含まれている「うつろい」とはいったいどういうことなのか?

 「うつろい」にわたしたちは何を感じ、何を見ているのか?

 そういった日本の美や言葉の奥にある意味にまで思いを馳せる作品になっている。

 いったい、「matohu」に何を見て、作品を通して何を見出そうとしたのか?

 手掛けた三宅流監督に訊く。(全五回/第二回)

「うつろいの時をまとう」より
「うつろいの時をまとう」より

言葉を押し出していくことに対して恐れや抵抗感みたいなものがなくなった

 前回(第一回はこちら)、前作「がんになる前に知っておくこと」が作品を作る上で、言葉について深く考える機会になり、「うつろいの時をまとう」もまた「『言葉』が作品において重要な要素になっていった」と語った三宅監督。

 三宅監督のキャリアを振り返ると、「躍る旅人 ─能楽師・津村禮次郎の肖像」をはじめ、伝統芸能をテーマにした作品の印象が強い。

 そして、それらの作品は、個人の見解ではあるが、言葉というより、身体をもってなにかを表現する人と向き合い、その身体が発するものをとらえている。

 決して、言葉を軽視しているわけではない。ただ、言葉よりもその人物の身体が物語るものに力点が置かれている気がする。

 そう考えると、前作「がんになる前に知っておくこと」から「うつろいの時をまとう」は、大きな変化に見える。

「自分の中で大転換があって、意図的に『言葉』を注視したわけではないんですけど……。

 ただ、作品で、言葉を前面に押し出していくことに対して恐れや抵抗感みたいなものがなくなったかもしれないですね。

 正直、インタビューを編集でつなげて構成していくといったことに、以前は抵抗感がありました。

 もちろんインタビューをして、本人の語ったことをまとめてきちんと伝えることは大切です。

 でも、インタビューばかりで言葉だらけの構成は、映像表現という意味ではどうなのかという考えがありました。

 で、これまでの作品は、そのことをあまり考えなくてもよかったといいますか。

 圧倒的に身体が語ってくれる方ばかりだったので、その身体が物語ることと自分はとことん向き合えばよかった。

 身体が物語ることをきちんと表現できれば、それで作品を成立させることができた。

 ただ、『がんになる前に知っておくこと』で、いろいろな方にご登場いただいて、それぞれの立場からがんとの向き合い方について語っていただきましたけど、言葉の可能性を見出したというか、気づかされたといいますか。

 僕の中で、みなさんのお話というのはすごく『身体性を伴った言葉だな』と感じたんです。

 単なる情報や説明ではない。ものすごく身体性を伴ってこちらの心に響いてくる言葉だった。

 口先ではないというか。その人の身体からそのまま出てきたまじりっけのない純粋な言葉に感じられた。

 だから、この言葉をきちんと押し出せば、単なるインタビューの羅列のような作品にはならないと思えた。

 それで、言葉を前面に据えた作品に踏み切れたところがあったと思います。

 そこから、今回の『うつろいの時をまとう』となって、堀畑さんと関口さんと向き合ったとき、彼らの言葉というのも身体性を伴っていることを感じました。

 たとえば、あるデザインについて語ってもらったとします。すると、説明や情報にならない。

 自身のデザイン哲学やこれまでのキャリアまで実感のある、身体性をおびた言葉が返ってくる。

 それで、自然と『言葉』を大切にすることになっていきました。

 それは、最終的なサウンド面の仕上げの部分にもつながっていて。二人の声質にけっこう気を遣ったんです。

 二人の声がこちらが五感で感じられるぐらい響いてくる仕上げにしているところがあります」

「がんになる前に知っておくこと」の前から着手していました

 では、ここからは作品について聞いていく。

 はじめに「がんになる前に知っておくこと」を経て、次の構想として「うつろいの時をまとう」をすでに考えていたのだろうか?

「いや、実はそこがけっこう時系列が入り組んでいるんです。

 実は、『躍る旅人─能楽師・津村禮次郎の肖像』の後に、記憶が定かではないんですけど、確か『うつろいの時をまとう』の方を先に着手し始めたんです。

 ただ、同じころ、プロデューサーの上原拓治さんから『がんになる前に知っておくこと』の企画の話が入って。

 結果としては『がんになる前に知っておくこと』が先に完成して公開してとなったんですけど、制作過程としてはほぼ同時に進行していったところがありました。

 ですから、作品の構想は『うつろいの時をまとう』が先にありました」

(※第三回に続く)

【「うつろいの時をまとう」三宅流監督インタビュー第一回】

「うつろいの時をまとう」より
「うつろいの時をまとう」より

「うつろいの時をまとう」

監督:三宅流  

撮影:加藤孝信  整音・音響効果:高木創  

音楽:渋谷牧人  プロデューサー:藤田功一

出演:堀畑裕之(matohu)、関口真希子(matohu)、赤木明登、

津村禮次郎、大高翔ほか

公式HP:http://tokiwomatohu.com

シモキタエキマエシネマK2にて東京凱旋・2週間限定上映決定

5/17(金)〜30(木)@シモキタエキマエシネマK2

写真はすべて(C)GROUP GENDAI FILMS CO., LTD.

<上映後アフタートーク(予定)>

5/17(金) 三宅流(監督)

5/18(土) 三宅流(監督)×matohu(堀畑裕之・関口真希子)

5/19(日) 三宅流(監督)×津村禮次郎(能楽師) ×

宮本英治(文化ファッションテキスタイル研究所・所長)

5/22(水) 三宅流(監督)×佐々木誠(映画監督)

5/25(土) 三宅流(監督)×伊島薫(写真家)

5/26(日) 三宅流(監督)×文月悠光(詩人)

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事