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日本の言葉の奥にある意味までも表現する。日本の服飾ブランド「matohu(まとう)」と出合って

水上賢治映画ライター
「うつろいの時をまとう」より

 ドキュメンタリー映画「うつろいの時をまとう」は、堀畑裕之と関口真希子のデザイナー・ユニットによる服飾ブランド「matohu(まとう)」に焦点を当てている。

 ひとつのファッション・ブランドの世界に迫った作品であることは間違いない。

 ここ数年を振り返っただけでも、世界的ファッション・ブランドや有名デザイナーを題材にしたドキュメンタリー映画が数多く存在する。

 ただ、本作は、おそらくそれらの多くのファッション・ブランドを追った作品とはまったく違った世界を見せてくれる。

 確かに、matohuのデザイナー、堀畑裕之と関口真希子の目指すもの作りや、その服の魅力が中心にはなっている。

 だが、本作はもっと根源的な世界とでもいおうか。

 「matohu」というファッション・ブランドから、たとえばタイトルに含まれている「うつろい」とはいったいどういうことなのか?

 「うつろい」にわたしたちは何を感じ、何を見ているのか?

 そういった日本の美や言葉の奥にある意味にまで思いを馳せる作品になっている。

 いったい、「matohu」に何を見て、作品を通して何を見いだそうとしたのか?

 手掛けた三宅流監督に訊く。全五回

前作「がんになる前に知っておくこと」について

 今回の「うつろいの時をまとう」の話に入る前に、三宅監督の前作に当たる「がんになる前に知っておくこと」を振り返っておきたい。

 三宅監督は、実験映画の制作を経て、これまで主に伝統芸能をテーマにした作品を発表している。

 ただ、前作「がんになる前に知っておくこと」に関しては、プロデューサーの個人的な思いから始まったプロジェクトに賛同して監督として参加するような、これまでとはちょっと違う形で手掛けた作品となった。

 この経験はどういうものになっただろうか?

「そうですね、『がんになる前に知っておくこと』に関しては、プロデューサーの上原(拓治)さんの個人的な動機がはじまりで。そこで僕に声をかけてくださった。

 ただ、振り返ると、これまでとの違いはそこだけで、細かいことを抜くとそこからはほぼいつもの自分の作品作りと違うことはなかったんです。

 まず、僕自身の作品作りにおいては、探求心が大切といいますか。

 2015年の『躍る旅人 ─能楽師・津村禮次郎の肖像』をはじめとして発表してきた作品は、たとえば、この人のことを『もっと知りたい』とか、『能の世界をもっと深く思考してみたい』とか、『自分の知らないことを知りたい』と思うことからスタートしている。

 そして、自分が知っていく過程が、そのまま作品になっているところがあるんです。

 ですから、『がんになる前に知っておくこと』は自分で見つけた対象ではなかった。でも、上原さんから『がんについて』というテーマをきいたときに、当時、ほとんどがんについて知っていることはなくて、もっと知りたいと思いました。

 なので、いただいた話ではあるんですけど、自分が興味をもってもっと知りたいと思える題材だった。だから、出発点はいつもと違うんですけど、作品作りの過程はいつもとさほどかわりなかった。

 振り返ると、そういう感覚だったかなと思います」

「うつろいの時をまとう」より
「うつろいの時をまとう」より

『がんになる前に知っておくこと』に関しては、自分の表現を追求する前に、

作品の使命として絶対的に伝えないといけないことがあった

 だが、作品作りについてはちょっといままでと違ったところがあったという。

「自分自身からスタートした作品作りとなると、やはり自分の表現を追求するところが当然ある。

 ただ、『がんになる前に知っておくこと』に関しては、自分の表現を追求する前に、作品の使命としてやはり絶対的に伝えないといけないことがある。

 がんについていろいろとみなさんに知ってほしいわけですから。そこは外せない。

 なので、その伝えなければならないことが第一にあるんですけど、その中でも単にインタビューをつなげたような形ではなく、自分なりの表現はきちんとしたい。

 そこで自分なりのルールを作ることにしました。自分のやりたいことを前面に出すことはしないんですけど、やりたくないことは絶対にやらないと決めた。

 そうしたことで、がんの現実やがんサバイバーの方々の声をわざと感動的に描くということもなければ、わざとシリアスに描くこともない。

 バランスの良い距離感でがんについて知ることができる作品になればなと思いました。

 ですから、作品作りにおいてはちょっとこれまでと違うアプローチをしたところがありました」

『言葉』が作品において重要な要素になっていった

 そして、この経験が今回の作品においてはひじょうに大きな力になったと明かす。

「『がんになる前に知っておくこと』は、圧倒的に『言葉』の映画なんですよね。

 ドキュメンタリー映画で『言葉』とすると、『情報』や『説明』に置き換えて考えられてしまいがちなんですけど、そうではない。

 ある発言や、その言葉の意味することが、作品の重要な要素になっていて、作品自体の大きな力になっている。

 そういうこちらの心にも身体にも訴えかけてくる言葉であったり、発言であったり、声というもので『がんになる前に知っておくこと』は構成されている。

 テキストに書き起して提示しただけではそうならない、五感をともなったような感触のある言葉として収めることができた。

 なので、作品を作る上で、否応なく言葉について深く考える機会になりました。

 そして、その経験は、奇しくも今回の『うつろいの時をまとう』にもつながっていくことになりました。

 当初は、あまり考えていませんでしたけど、『うつろいの時をまとう』もまた『言葉』が作品において重要な要素になっていったんです」

(※第二回に続く)

「うつろいの時をまとう」

監督:三宅流  

撮影:加藤孝信  整音・音響効果:高木創  

音楽:渋谷牧人  プロデューサー:藤田功一

出演:堀畑裕之(matohu)、関口真希子(matohu)、赤木明登、

津村禮次郎、大高翔ほか

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

公式HP:http://tokiwomatohu.com

写真はすべて(C)GROUP GENDAI FILMS CO., LTD.

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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