石破「秘密保護法反対デモはテロと同じ」発言が取り消せない理由
懸念した通りである。先日の記事で私は、“特定秘密保護法案の濫用を警戒させる最大の理由は、自民党の政治家達が、根本的に憲法や基本的人権というものを理解していない、ということにある”と書いた。図らずも、自民党の大幹部が私の主張を証明したようだ。報道にもあるように、石破茂自民党幹事長は自身のブログの先月29日付けの投稿で、
と書いていた。その後、批判を浴びて、昨日2日の投稿では、「自民党の責任者として、行き届かなかった点がありましたことをお詫び申し上げます」と書き込んだが、これはもはや取り消せば良いというレベルの発言ではない。石破幹事長の政治活動の根本部分が問われるような発言だからだ。さらに、お詫びしているはずの言葉に続くのが
という、再度デモを批判する主張。書き方を変えたところで、結局、本音の部分は変わらないのだ。国会前でのデモに「畏怖」を感じ、「平穏を妨げ」られているのは、一般の人々ではなく石破幹事長本人だろうが、いずれにしても同幹事長に、民主主義がどうこうと語る資格はない。民主主義社会において、デモは正当な政治的・社会的な表現活動であり、日本国憲法にも、第21条1項に「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と明記されている。国会議員とは、立法府、つまり国会で法律を審議し採決する、要するに法律をつくるのが仕事である。そしてそれらの法律は全て最高法規である憲法に沿うものでなくてはいけない。それにもかかわらず、平然と憲法を否定するような主張をするなど、「法律の作り手」である国会議員として、著しく資質に欠くと言えるが、こうした石破幹事長の主張の根っこの部分には、「政府の都合で個人の権利を抑制しても良い」という発想があるのかも知れない。自民党が掲げている改憲草案が正にそういう内容であることも、既に書いた通りだ(関連記事)。
○石破幹事長は一体どの口で「民主主義」を語るのか?
偉そうに上から目線で語る前に、石破幹事長、そして特定秘密保護法案をゴリ押しする国会議員達は全員、そもそも民主主義とはなにか、法とはなにか、勉強し直すべきだろう。国会議員は立法の権限が与えられているが、権力の暴走を法によってコントロールするという「法の支配」の概念に照らせば、国会において法律をつくる際も、それは国民の意思を反映したものでなくてはならない。だからこそ、国会は単なる多数決の場ではなく、審議を重ね、法律を修正していく場でもあるのだ。特定秘密保護法案については、パブリックコメントとして寄せられた9万件の意見の実に8割以上が反対であったし、この間の世論調査を観ても反対意見が大多数だ。それなのに、アッサリと審議を打ち切り、数にモノを言わせての強行採決を行うなど、正に言語道断、あってはならないこと。だからこそ、国会前にあれだけ多くの人々が抗議すべく集まっているのだろう。そうした声に耳を傾けるのではなく「テロと変わらない」と揶揄する人間が、一体、どの口で「民主主義」を語るのか。
○安倍・自民政権は軍事独裁政治を目指すのか?
さて、問題は石破幹事長だけではない。憲法が最高法規ということは、これに反する法律は全て無効である。そういう意味では、特定秘密保護法案は、国民の知る権利を侵害するとして、違憲と判断され、無効とされるべきシロモノだ。しかしながら、内閣がつくる法案が憲法に反するものでないか、内容をチェックする内閣法制局の人事に安倍首相は手を出し、今年8月、同局の山本庸幸長官を退任させ、自らの息のかかった小松一郎元駐仏大使を新たな長官として据えた。「法の番人」である内閣法制局のトップを、首相が挿げ替えるなど極めて異例なことで、内閣法制局のチェック機能を破壊しかねない暴挙だった。この暴挙が無ければ、特定秘密法案も現在のような形で国会に提出されなかったのかも知れない。何よりも不気味なのは、安倍・自民政権は、歴代自民党政権もやらなかったような、無茶苦茶な手法を使ってくるということである。特定秘密保護法案しかり、武器輸出三原則の緩和しかり(関連記事)、安倍・自民政権は軍事独裁政治を目指しているのではないか、と勘繰りたくなる程だ。
○有権者も問われている
本当に、自民党の議員センセイ方の、無知・無恥・無茶にはクラクラさせられるばかりだ。だが、一方で民主主義や法学のド基礎も理解していない、本来は国会議員に値しないような人物に投票し、立法という絶大な権限を与えてしまったのも、また日本国民である。自戒も込めて書くが、日本の有権者は、もっと憲法や法律のそもそも論について、もっと学ぶべきなのだろう。そして、今からでもいい、政府や地元の選挙区の国会議員に対して有権者としての意見を伝えることが必要だ。もし、それでも強行採決されてしまったとしても、集団で裁判を起こし特定秘密保護法の違憲性を問う、特定秘密保護法に反対する政治家を次の選挙で当選させ、国会で特定秘密保護法を廃止させる、ということもできるはず。権力の横暴が我々国民を脅かすのならば、我々もまた黙っていてはいけないのである。