日本が「死の商人」にー安倍政権、武器輸出三原則撤廃を目指す
参院選後早々、安倍首相がやらかした。昨日22日、「武器輸出三原則の抜本的な見直しの議論を始める」と発表。報道によれば、安倍首相は武器輸出三原則自体の撤廃まで目論んでいるのだという。戦後、日本が他の国々の敬意を集めてきたのは、平和主義の下で経済発展したからだ。「戦争をしている国々に武器を売り、戦争被害をより悲惨ものとすることは平和国家としてあるまじきこと」という武器輸出三原則の理念を投げ捨て、今、日本は「死の商人」へとなり下がろうとしている。
◯武器輸出三原則とは?その法的根拠は?
武器輸出三原則は、1967年衆議院決算委員会で、当時の佐藤栄作首相の答弁により最初に定義付けられた。その定義は、
(1) 共産圏、(2)国連決議での武器禁輸国、(3)国際紛争の当事国あるいはその恐れのある国、という「三原則地域」に対する武器輸出を、輸出貿易管理令で承認しない
とするもの。1976年には、三木武夫首相が、
(1)三原則地域への輸出を認めない、
(2)それ以外の地域への輸出も慎む、
(3)武器製造関連設備の輸出も武器に準じて扱う
と表明、その内容が強化された。さらに1981年に「武器輸出問題等に関する決議」が衆参本会議で決議され、武器の輸出によって国際紛争等を助長することは、「平和国家としての立場」に反するとして、武器三原則の根拠が、日本国憲法であることが国会の総意として明確にされた。
「わが国は、日本国憲法の理念である平和国家としての立場をふまえ、(中略)よつて政府は、武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもつて対処すると共に制度上の改善を含め実効ある措置を講ずべきである。」-武器輸出問題等に関する決議
だから、安倍首相が目論む武器輸出三原則の撤廃は、憲法違反だと言える。同じ自民党でも以前の内閣はもっと節度と良識があった。だが、あの福島第一原発事故を経験してもなお、原発再稼働を推進し、他国にまで原発を輸出しようとすることに象徴されるように、安倍自民の政治は、命よりも一部の大企業の利益を優先する「強欲資本主義のための政治」だ。そうした安倍政権の姿勢は、今年3月、F‐35戦闘機を武器輸出三原則の例外としたことにも現れている。
◯「メイドインジャパン40%」のF-35がパレスチナの人々を殺す
今年3月1日の菅義偉内閣官房長官が発表した談話は、戦後の日本の安全保障政策の大きなターニングポイントとなった。米国が進める次世代型戦闘機F-35(画像上)の開発に関し、日本企業の参画を昨年12月の閣議決定に続き改めて認めた上、F‐35を武器輸出三原則の例外とすると決めたのだ。F-35は、レーダーに映りにくいステルス機能を持つマルチロール型(万能型)の戦闘機で、特に対地攻撃、つまり空爆を得意にしている。開発元のロッキード・マーチン社は「全部品の40%を日本産にする」と提案したとされ、三菱重工などが防衛省からF-35開発計画への参加企業として指定された。
問題は、日本産の部品を組み込んだF-35が、中東で戦争を繰り返すイスラエルにわたる可能性があることだ。米国を中心とする、F-35の国際共同開発・管理は、「ALGS」という枠組みの中で行われる。この「ALGS」体制下では、日本も含む開発参加国の製造したF-35の部品や機体パーツは米国の一元管理の下に置かれ、必要に応じて米国が自由に使っていく。日本製の部品の使用先について、日本が口を挟むことはできないのだ。イスラエルも、ALGSに参加しており、F‐35を納入予定であることから、日本産部品を組み込んだ半メイドイン・ジャパンのF‐35がイスラエルにわたることは、大いにあり得ることなのである。実際、菅内閣官房長官もその可能性を認めている。
「既に、F35というのは、イスラエルが、日本が入る前にユーザー国でありますから、同システム(ALGSのこと)の性格上、国内企業が製造したF35の部品の一部がイスラエルに移転される可能性というのは排除されるものではありません」-2013年5月31日衆院内閣員会 赤嶺政賢議員の質問に対して
◯イスラエルに日本製部品を組み込んだF‐35戦闘機がわたることの意味
現代においては、たとえ戦争でも何をしても許されるわけではない。非戦闘員への攻撃、医療活動の妨害、市民生活のライフラインの破壊などは、全てジュネーブ諸条約やハーグ陸戦規定などの国際人道法によって禁止され、違反は戦争犯罪として国際刑事裁判所での処罰の対象となりうる。だが、イスラエルは米国の支持を背景に、国際人道法違反を繰り返している。とりわけ、2008年末から2009年頭のパレスチナ・ガザ地区への侵攻「鋳られた鉛」作戦は酷いものだった。猛空爆から逃れようと、人々が集まった国連の避難所も空爆され、多数の市民が死傷。国連の食料庫や医薬品庫までも攻撃され、焼き払われた。救急車も爆撃、工場や農地も破壊するという徹底ぶりだった。
昨年11月にも、イスラエル軍は、ガザ地区への猛爆撃を行った。ガザ中心部ガザ市の住宅に住むジャマール・ダワルさんは一家のほぼ全員を失った。殺された10人の内、4人が小さな子どもで、まだ1歳にもみたない幼児もいた。人権団体の猛抗議にイスラエル側もダワル家への空爆が誤爆であったことを認めたものの、軍関係者の責任追及はしないと開き直っている。
菅内閣官房長官は国会での答弁で「総合的に判断をして、日本製の部品がイスラエルへ移転をされても、それによって平和国家の基本理念に反するものではないという考え方であります」(2013年5月31日衆院内閣員会)と発言しているが、戦争の実態を全く見てない、恥知らずの詭弁だろう。
◯イスラエルVSイランの中東核戦争に利用される!?
F-35関連では、パレスチナ問題だけでなく、イランの核開発疑惑へのイスラエルの動向も気になる。イランが実用可能な核兵器を持つのではないか、開発前にイランを攻撃するべきではないか―イスラエルの政治家達がイランに攻撃を加えたがっていることは公然の事実だ。対テロ戦争で疲弊した米国が乗り気でないものの、今後の展開によってはイスラエルによる単独攻撃も全くあり得ない訳ではない。過去、イラクの原子力関連施設やシリアへの「化学兵器工場」への電撃的な空爆を行なっているだけに、イスラエルがステルス性能の高いF-35を利用して、イランへの空爆を行うことも考えられる。しかも、米国は110億ドルを投じて戦術核兵器の改良を計画、F-35 にも改良された戦術核が搭載されるという。あまり考えたくないことだが、今後の展開によっては、中東での核戦争に日本も加担してしまう恐れもあるのだ。
◯武器輸出三原則は対米支援のため?
安倍政権が武器輸出の撤廃することは、「対米支援」となる。対テロ戦争の膨大な戦費により米国の財政収支は悪化、聖域だった軍事費の削減も余儀なくされている。こうした米国の財政事情も、同国の「ジャパン・ハンドラー」らによる武器輸出三原則撤廃要求の背景にあるのだろう。リチャード・アーミテージ元米国務副長官、ジョゼフ・ナイ元米国防次官補が昨年8月にまとめた政策提言書・通称「第3次アーミテージ・ナイレポート」には、以下のような記述があるのだ。
“米国と日本の経済事情と防衛予算の増大が非現実的であることを考慮すれば、防衛産業のより密接な連携が必要である。日本の「武器輸出三原則」の変更が武器輸出と技術協力に関する政策の窓を押し広げている”
とりわけ、F-35は金食い虫だ。元々「米軍史上最大」と評されていたF-35の開発費は、相次ぐトラブルによる開発の遅れから高騰し続け、当初の2300億ドル(約23兆円)から7割増しの3957億ドル(約39兆円)に跳ね上がった。開発費だけでなく今後の維持管理費も膨大だ。今年3月、米国国防総省は衝撃的な報告書を提出した。「F-35はステルス性能のメンテナンスに莫大な維持費がかかり、米軍が取得する2443機全てを30年使用すると仮定した場合、維持費は1兆ドル(約100兆円)を超える」と試算されているのである。だから、日本がF-35共同開発に加われば、膨大な開発費の分担を米国から求められるのは時間の問題だろう。
◯税金を使って軍事産業を支援
安倍政権が武器輸出三原則の撤廃を目指す背景には、国内軍事産業の働きかけもある。
今回、F-35の部品生産、機体組立の参画企業として、三菱重工が選定されたが、同社の取締役相談役である佃和夫氏は2010年に経団連・防衛生産委員会の委員長として、「新たな防衛計画の大綱に向けた提言」を取りまとめている。同提言では、武器・兵器の国際共同開発に日本企業が参加できるよう、武器輸出三原則の見直しを求めていた。
1967年の武器輸出三原則および1976年の武器輸出に関する政府統一見解(以下、「武器輸出三原則等」)により、わが国ではこれまで一部の例外を除き、武器輸出および武器技術供与が実質的に全面禁止とされてきた。(中略)そこで、武器輸出および武器技術供与によって同盟国間の連携の強化や紛争の防止が可能と なり、国際安全保障や平和維持に貢献する側面があることに注目して、欧米諸国などとの国際共同研究開発に積極的に取り組めるようにすべきである。
防衛省は13年度予算案でF35の部品製造や機体組立などを担う国内企業の支援費用として830億円を計上。今年3月19日付けの産経新聞によれば、愛知県に新設される三菱重工のF-35組立てライン設置にも数百億円の支援を行うという。だが、東日本大震災や原発事故による被害者の救済も未だ充分に行えておらず、消費税増税や社会保障費の削減などが予定されている中、憲法上も問題のあるF‐35の共同開発に多額の税金を投じるべきなのだろうか?
◯「米国やイスラエルに武器を売らないで」-ガザの少女の訴え
今年4月、パレスチナ・ガザ地区を訪れた際、4年ぶりにザイナブ・サムニさんに再会した。彼女は、4年前のイスラエル軍によるガザ侵攻での集団虐殺事件「サムニ家の虐殺」の生存者だ。親戚同士で集団農場を経営していたサムニ家は09年1月、イスラエル軍に包囲され、非戦闘員であることを訴えたにもかかわらず、約30人が殺害された。その中には、ザイナブさんの両親も含まれる。「イスラエル兵の投げ込んだ爆弾で、パパは首から上が吹き飛び、ママはお腹が裂け、内蔵を飛び出させて死んだわ…」(ザイナブさん)。日本が武器輸出三原則の例外としてF-35共同開発に関わろうとしていることを話すと、ザイナブさんはこう訴えた。「米国やイスラエルに兵器を売らないで下さい。その兵器が私達を殺します。日本の人々がいい人達だと、私は信じています」と。
是非、本稿読者の皆さんにも考えてもらいたい。米国や一部の大企業の利益のために、税金を使ってまで、日本の平和国家としての理念を捨てても良いかどうかを。
(了)