死と隣り合わせの学校現場の事実 #先生死ぬかも
昨夜から「#先生死ぬかも」というハッシュタグがTwitterでトレンド入りするなど、話題になっています。呼びかけたジャーナリストのたかまつななさんは、「そのぐらい先生方が大変なんです。声をあげましょう。コロナで教育にあまり予算まわらず、私は悲しいです。。学校の先生方が疲弊しています。。」と述べています。
わたしは、ここ数年、先生方の過労死、過労自死などをたくさん取材、調査してきました。国や教育委員会、学校等に研修に出かけたり、アドバイザーを務めたりして、働き方改革や業務改善に向けた働きかけを続けています。今回の呼びかけは、コロナ禍のなか、教職員の業務負担はますます増えていて、いつ過労死や精神疾患(うつ病など)が起きてもおかしくないほどの状態であることを問題提起したものです。わたしもこの見立てと同じ危機感をもっています(※)。
(※)関連記事:妹尾昌俊「このままでは、メンタルを病む先生は確実に増える 【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(3)】」
実は、毎年のように先生たちは実際に過労死等で亡くなっています。その意味では、先生死ぬ「かも」ではありません。拙著『教師崩壊』(PHP新書)などでも紹介していますが、きょうは、この実態をなるべく多くの方と共有したく、解説します。
■26歳、熱血教師の過労死
2011年6月6日(月)午前1時頃、堺市立中学校に勤務する26歳の前田大仁(ひろひと)さんが1人暮らしの自宅アパートで突然亡くなりました。採用2年目の若すぎる死、虚血性心疾患でした。
「出会えてよかったと思ってもらえる教員になりたい」。亡くなる直前の春、前田さんは、堺市教委の教員募集ポスターやパンフレットに取り上げられ、思いを語っていました。
前田さんの死後、授業のプリントやほぼ毎週発行していた「学級通信」が家族に戻されました。プリントには写真や自筆のイラストをふんだんに盛り込まれていました。「温かみが伝わる」と前田さんは手書きにこだわっていました。
前田さんは、経験のないバレー部の顧問を務めていましたが、部員に的確な指導をしたいと専門書を読み込み、休日にはバレー教室に通っていました。
倒れる前までの6か月間の時間外勤務は月60~70時間前後と過労死認定基準に満たない時間しか認められませんでしたが、「相当程度の自宅作業を行っていたことが推認される」として、地方公務員災害補償基金(労災、ここでは公務員なので、公務災害の認定をする機関)は、2014年に公務上の過労死として認定しました。
教育方法などを相談されていた姉はこう話しています。「弟は熱血教師だった。使命感と責任感が強かったため、担任と顧問の両方を任されたのかも知れないが、わずか2年目の未熟な教師でもあったと思う。学校全体でサポートしてもらえていたら、死を避けられたかもしれない」。
(※)松丸正「運動部顧問の教師、長時間勤務の下での過労死」『季刊教育法』2016年6月、朝日新聞2015年3月5日をもとに作成。
■新人から大きな負担、精神的に追い詰められ、自死するケースも
福井県若狭町立中学校の新任教師、嶋田友生さん(男性、27歳)は採用されてから半年後の2014年の10月、自分の車内で練炭自殺しました。
嶋田さんは採用される前に講師経験がありましたが、報道によると、講師時の中学校と当時の勤務校との授業スタイルや指導方法の違いに悩んでいた様子でした。
嶋田さんは1年生の学級担任や社会と体育の教科指導をしながら、野球部の副顧問として指導にあたっていました。週末も野球部の練習などがあり、休みは月2、3日ほどしかありませんでした。使用していたパソコンなどの記録から、4〜6月の時間外業務は月128〜161時間に上ると見られています。6月に精神疾患を発症したと見られており、2016年に公務災害と認定されました。
嶋田さんは中学時代から日記を欠かさず付けていました。この年の5月13日には「今、欲しいものはと問われれば、睡眠時間」、「地獄だ。いつになったらこの生活も終るのだろう」と綴られており、この時点で相当追い詰められていたことが窺えます。嶋田さんの父親は、「校長を退職した指導教員によるパワハラもあったのではないか。息子の日記にも、思いきり絞られた、との記述もある」と述べています。
日記の最後には「疲れました。迷惑をかけてしまいすみません」と書かれていました。
2019年6月、福井地裁は、嶋田さんが亡くなったのは、校長が過重な勤務を軽減するなどの措置を取らなかったためだとして(専門用語になりますが、安全配慮義務を怠ったことを認め)、県と町に約6500万円の支払いを命じる判決を出しました(控訴はしなかったため、結審)。
公務災害(民間でいう労災)が認められても、あるいは賠償金が支払われても、前田先生も、嶋田先生も戻ってはきません。
■ほぼ毎年、教員の過労死等は実際に起きている
次のデータは、厚生労働省の「平成30年版過労死等防止対策白書」に掲載されている、公立学校教員の過労死、過労自死等の事案の例です。これは、公務災害認定されたもので平成22年1月から27年3月のものを抽出しています。
公務災害として認定されないケースや申請もしないケースもありますから(ご遺族が悲しみのあまり、また負担が大きいので)、こちらにリストアップされているのは、実際の過労死等の一部、「氷山の一角」です。また、これらとは別に精神疾患のかたもたくさんいます。
28人分掲載されていますね。固有名詞は書かれていませんが、この一人ひとりにお名前があり、人生があったわけです。前田先生や嶋田先生のように、教師という職業に希望と志をもって就職し、がんばってこられた方も多いだろうと思います。
わたしがとても悲しく、重く感じるのは、たいへん似通った過労死や過労自殺が立て続けに起きているという事実です。
●新人なのに重い責任を負わされたまま、周囲のサポートが少なかった。
●それどこか、校長や指導者役が新人等を精神的に追い詰めてしまうケースもあった。
●保護者等からの理不尽な要求や、特別な支援が必要な子へのケアで、悩み苦しむケースもある。
●本稿で事案の紹介は省いたが(詳しくは文末の参考文献を参照)、ベテラン教員の過労死等の事案も多く発生している。スポーツマンの体育の先生らも倒れている。
●部活動に加えて、授業準備、事務、学級運営など多重債務者のごとく、さまざまな仕事が重くのしかかった結果、長時間労働になり、体や心を壊すほどになっている。
■国は、過労死等の件数すら把握していない
実際、毎年400~500人の教員が死亡しています。文部科学省「学校教員統計調査」によれば、平成27年度中に死亡した教員数は、小学校179人、中学校108人、高校151人で合計438人です。ただし、これは過労死等とは限らず、病死や事故死も含まれます。精神疾患のため退職した教員も小学校335人、中学校222人、高校130人で合計687人います。
わたしは国の審議会(中央教育審議会)で確認しましたが、文部科学省ですら、教職員の過労死等の件数はまったく把握していません。基礎的な事実確認もなく、よい政策を立てたり、予算をとったりできるとは思えないのですが・・・。
文科省だけを批判するのは、少々酷かもしれません。通常、過労死等やメンタルヘルスを所管するのは厚生労働省です(先ほど紹介した、過労死白書を出しているのも厚労省です)。ただし、公立学校の教員の場合は、公務員なので公務災害に関することや、民間でいう労基署にあたる労働基準監督機関である人事委員会等のあり方は、総務省の所管です。
そして、学校の教職員の健康管理(服務監督)や校長等の任用などは、各自治体の教育委員会が担っており、分権化されています。文科省ももちろん関わりますが。そして、学校の働き方改革や教職員定数に関わる全国的な制度や環境整備は、文科省の役割です。
ややこしいですよね・・・。つまり、公立学校の教職員の過労死等(精神疾患を含む)の所管は、厚労省、総務省、文科省とそれぞれで重なっているような、重なっていないような状態で、分担しており、縦割り行政でいうと、隙間。ともすれば、なすりつけができてしまう領域なのです。各省がんばってくださっているところも多々あると思いますが、少なくとも、過労死等の実態把握、それから労働基準監督のあり方については、管見のかぎり、縦割りの弊害か、前進しているようには見えません。
「先生が亡くなって気の毒だ、かわいそう」で済ませてはいけないと思います。
いい加減、わたしたちは、尊い命が失われたことの教訓を学ばなければならない、と思います。
次回の記事では、教師の過労死等の教育に与える影響について、解説します。
⇒
先生が忙しすぎるのは、子どものためにもならない #先生死ぬかも
※この記事は拙著『教師崩壊』(PHP新書)の一部を抜粋、編集して作成しました。
(参考文献)学校の実態や過労死等の事案について知りたい場合
樋口修資ほか・教職員の働き方改革推進プロジェクト編
『学校をブラックから解放する 教員の長時間労働の解消とワーク・ライフ・バランスの実現』
妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』
妹尾昌俊『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』
妹尾昌俊『先生がつぶれる学校、先生がいきる学校―働き方改革とモチベーション・マネジメント』
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