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前代未聞の2万4千円もする極上の卵かけご飯は何が違うのか?

東龍グルメジャーナリスト
グランドハイアット東京「旬房特製 極上卵かけご飯」/著者撮影

人気の卵かけご飯

卵かけご飯は好きですか。

卵かけご飯は、温かいご飯に生卵を割ってかけ、それに醤油などの調味料を加えたものです。

日本独自の料理であり、TKGと略されて呼ばれるなど、愛好家も少なくありません。専門店がオープンしたり、専用の醤油が販売されたりと、立派な日本の食文化となっています。

卵かけご飯の魅力は何といっても、手軽さと安さ、そして、豊富なバリエーションでしょう。

ちょっと探しただけでもたくさんのレシピが見つかります。醤油ではなくオイスターソースをかけたり、チーズをトッピングしたり、バターを添えたり、納豆やシラスを加えたり、さらには、蒸したり焼いたりして、もはや卵かけご飯と思えないものも見かけられるほど。

実に様々な卵かけご飯がありますが、ここにきて前代未聞の卵かけご飯が登場しました。

それは、グランド ハイアット 東京の日本料理「旬房」で2019年10月1日から提供されている「旬房特製 極上卵かけご飯」。

なぜならば、2万4千円(税・サ別)もする超高級な卵かけご飯だからです。

これまでの概念を覆した「旬房特製 極上卵かけご飯」は、一体どういう卵かけご飯なのでしょうか。

贅沢な食材を使った「旬房特製 極上卵かけご飯」

グランド ハイアット 東京「旬房特製 極上卵かけご飯」/著者撮影
グランド ハイアット 東京「旬房特製 極上卵かけご飯」/著者撮影

「旬房特製 極上卵かけご飯」には次の素材が使われています。

旬房特製 極上卵かけご飯

  • 釜炊き「旬房米」2合分
  • 卵2個
  • 旬房オリジナルラベル 国産キャビア 1瓶(15グラム)
  • 料理長特製の卵かけご飯用出汁醤油

白米と卵に醤油という極めてシンプルな構成に、オリジナルのキャビアが添えられています。他の料理と一緒に食べるのはもちろん、お酒を楽しんだ後の〆の一品としても楽しめる卵かけご飯でしょう。

ラグジュアリーホテルだからこそできる極上の卵かけご飯であるといえますが、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

旬房米

旬房米/著者撮影
旬房米/著者撮影

卵かけご飯の命といえば、やはりご飯です。しかも、日本人はお米を主食としているので、その質には敏感。

「旬房特製 極上卵かけご飯」には、2016年から提供されているオリジナルの「旬房米」が使われています。

ホテルにオリジナルのお米があることは珍しく、しかも、副総料理長 日本料理統括 根笹卓也氏が自ら現地に赴き田植えと稲刈りに参加するほどのこだわりようです。

2015年に「旬房」で開催した山形フェアをきっかけにし、おりはた環境保全協議会と契約を結び、山形県特別栽培米「つや姫」を「旬房」独自の基準で厳選しています。

肥沃な土地を持つ山形県南陽市で、 有機肥料による土づくりを10年以上継続して取り組んでいる農家によって、通常よりも農薬や化学肥料を削減して栽培。お米のおいしさを測る食味値は一般的なお米よりも高い80点以上となっています。

オーダーを受けてから釜で炊き上げていることもポイントです。豊かな香りが立ち上がり、ふっくらつややかとしています。

純米大吟醸 旬房米/著者撮影
純米大吟醸 旬房米/著者撮影

「旬房米」を100%使った日本酒「純米大吟醸 旬房米」と「生酒 旬房米」も生産・販売されています。「旬房米」から作られた日本酒なので「旬房米」と相性がよいことは間違いありません。「旬房特製 極上卵かけご飯」とあわせて飲んでみれば、さらに奥深い食味を体験できるでしょう。

オリジナルラベル 国産キャビア

旬房オリジナルラベル 国産キャビア/著者撮影
旬房オリジナルラベル 国産キャビア/著者撮影

オリジナルの食材はお米だけではありません。キャビアも「旬房」だけの特別な食材となっているのです。

香川県に本社を置く「CAVIC(キャビック)」が生産している極上ブランドキャビア「瀬戸内キャビア」をベースにし、2019年秋に現地へ足を運んだ根笹氏が塩分などを監修しました。

数多く養殖されている中から根笹氏が厳選した「旬房」のためだけのチョウザメの卵であるキャビアは「旬房」の料理に合うように、塩分濃度などが調整されています。キャビアの味わいを壊さないようにシェルスプーンを提供するなど、実に本格的です。

この特別感溢れるオリジナルの国産キャビアが、1瓶15グラムもこの卵かけご飯と一緒に提供されていることも驚きでしょう。

キャビアは料理のアクセントとして少量だけ提供されることが多いですが、オリジナルの国産キャビアは品質も味も主役級。そのため豪快に味わってもらいたいと根笹氏が思い、まるごと1瓶付けることにしました。

オリジナルの国産キャビアには、どれくらいのコストがかかっているのでしょうか。

主なキャビアの種類は次の通り。大きければ大きいほど希少価値も値段も高くなります。

最大級のベルーガは1グラム30粒程度で3.5ミリから4.0ミリのオオチョウザメのキャビア、比較的見かけられるオシェトラは1グラム50粒程度で2.5ミリから3.5ミリのロシアチョウザメのキャビア、小ぶりなセヴルーガは1グラム70粒程度で1.2ミリから1.8ミリのホシチョウザメのキャビアです。

「旬房」のオリジナル国産キャビアにはベステル、つまり、日本の養殖でポピュラーなベステルチョウザメのキャビアが用いられています。2.5ミリから3ミリというやや大きめのサイズで、癖がなくて幅広い人々に受け入れられる食味。

国産のベステルであれば15グラム6000円以上、ブランドである瀬戸内キャビアであればもっと高価になることは間違いありません。

一般的に値段の3割が食材費とされていることを鑑みれば、2万4千円という価格は決して高くはないでしょう。

卵かけご飯で重要な役割を果たすのが卵。

「旬房特製 極上卵かけご飯」に使われているのは卵黄のみで、京都の卵専門店から仕入れています。雛鳥の時から与える飼料や水ににこだわっており、卵黄は箸で持ち上げても割れないくらい弾力があって濃厚な味わい。

飼料原料にパプリカが使用されていることによって、色味が濃くなり、特有の生臭みを抑えられ、鶏の健康維持にも効果があるといわれています。

この濃厚卵が「旬房米」にコクを与え、「旬房米」とオリジナルの国産キャビアをつなぐ、重要な役割を担っているのです。

出汁醤油

仕上げにかける出汁醤油も、「旬房特製 極上卵かけご飯」のためだけに生み出されたもの。

かつおだしと酒をブレンドした特製の出汁醤油で、キャビア本来の風味を生かすべく、塩気が強くなりすぎないように根笹氏が自らブレンドしています。

背景

グランド ハイアット 東京「旬房特製 極上卵かけご飯」/著者撮影
グランド ハイアット 東京「旬房特製 極上卵かけご飯」/著者撮影

「旬房特製 極上卵かけご飯」はこれまでの常識を覆すような、贅を極めた卵かけご飯ですが、どのような経緯で考案されたのでしょうか。

根笹氏は「カレーうどんなど、日本人になじみのあるユニークなメニューをこれまでも提供してきた。さらに新しいメニューを考えようとしていたところ、お客様からお酒を飲んだ後に食べる〆の料理が欲しいという要望をいただいた」ときっかけを話します。

「〆というとラーメンのイメージが強いが、和食料理を提供したかった。『旬房米』を活かせるものがないかと模索した結果、最高級の特別濃厚卵をかける卵かけご飯が生まれた」ということです。

当初は、お客様のリクエストがあった時に、隠れメニューとしてキャビアなしの卵かけご飯を提供していました。そこから、どのようにしてキャビアが加わることになったのでしょうか。

「さらにアクセントになる食材を探していたところ、瀬戸内キャビアに出会った。塩分濃度が2%程度と控えめで、『旬房米』や卵と絶妙なバランスで味わえる。山と海の最高級の卵をお客様に体験いただけるのは素晴らしいことなので、メニュー化に至った」と答えます。

順調に完成したように感じられますが、苦労したのはどこでしょうか。

「『旬房米』、卵、オリジナルの国産キャビア、出汁醤油と全ての食材にこだわりながらも、それぞれの味が引き立つように仕上げるのに時間を要した」と述べます。

ただ高級な食材を寄せ集めるだけではなく、各要素が際立つようにするのは非常に難しいことであったといえるでしょう。

地域活性化へ

「旬房特製 極上卵かけご飯」はお酒を楽しんだ後の〆の料理としても、大変好評を得ているようです。

根笹氏は「高品質で高級な食材は東京で十分手に入るが、本物の和食を提供するレストランとしては、できる限り生産地に訪れて生産者と話し、試食しながら食材を選ぶようにしている」といいます。

「そのため、流通量が少なく高単価になることも多いが、東京のホテルだからこそ仕入れられるという点も活かしつつ、地域活性化にもつなげられるようにしたい」と述べるように、グランド ハイアット 東京は今後も、日本各地と連携し食を通じた地域活性化への取り組みに力を入れるということです。

卵かけご飯の新たな可能性

卵かけご飯は世界でも稀有な日本だけの食文化であり、日本人にとってのファストフードであり、ソウルフードであるといっても過言ではありません。

手軽で手頃というのも魅力ですが、様々なアレンジができ、こういった高級料理として昇華できるのも大きな魅力でしょう。

日本の最高級食材を用いて、日本における食の極みを表現した「旬房特製 極上卵かけご飯」は、卵かけご飯の新たな可能性を提示したといえるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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