人気ラーメン職人が「ラーメン」ではなく「麻婆豆腐」を作る深い理由とは?
都立大学に麻婆豆腐専門店がオープン
5月29日、都立大学駅近くに一軒の麻婆豆腐専門店がオープンし、早くも行列を呼ぶ人気店になっている。店名は『伊蔵八 麻婆豆腐店』(東京都目黒区中根1-5-1)。テイクアウトが中心の営業だが、店内に数席のイートインスペースもある。
メニューは「麻婆豆腐」に「麻婆豆腐ライス」のほか、「麻婆茄子」「麻婆春雨」、さらにはオムレツ風の「麻婆エッグ」などの麻婆ずくめ。面白いのはアレンジメニューとして、「半熟玉子」や「とろけるチーズ」「豚焼き肉」などのトッピングが出来ること。これによって自分好みの麻婆豆腐がカスタマイズ出来るという仕掛けだ。
店主の小宮一哲(かずのり)さんは、実は知る人ぞ知る人気ラーメン職人。2005年に創業した『つけめんTETSU』は一躍人気店になり、つけ麺ブームを牽引した。2016年に会社を離れたあとも『あの小宮』『伊蔵八 中華そば』など、人気ラーメンブランドを次々と世に出してきた。そんな小宮さんが、なぜラーメンではなく麻婆豆腐なのだろうか。
「テイクアウトで美味しい」ものを提供したい
実はこの『伊蔵八 麻婆豆腐店』で出されている麻婆豆腐は、元々系列店の『伊蔵八 中華そば』で提供されていたものがベースになっている。最初はテイクアウトで販売されていたが、その後デリバリーにも参入し、好評だったため店内のメニューにも加わった。今回の実店舗はいわば「スピンオフ」のような形なのだ。
「コロナ禍により、店内飲食の売上が大幅に落ち込みました。その売上減を補うために、テイクアウトでの売上増を考えましたが、ラーメンは出したくなかったんです。常日頃より、自分自身で100点のラーメンを提供した上で、お客様に『美味しい』か『美味しくない』かの判断をして頂きたいと思っているので、テイクアウトでラーメンを食べて頂くとなると、温度の低下や麺が伸びるという課題がどうしても残ってしまいます。テイクアウトで美味しいものを作りたいと考えた中でたどり着いたのが『麻婆豆腐』でした」(伊蔵八 麻婆豆腐店 店主 小宮一哲さん)
コロナによって現出した店舗の『密感』
長引くコロナ禍によって飲食店は慣れないテイクアウトやデリバリーに取り組むこととなった。ラーメン店の場合、どうしてもお店で出すものと同じというわけにはいかない。そこでラーメン店では器を工夫したり、一度スープをレンジアップして貰ったり、スープのないまぜそばを提供したりと、店ごとに美味しく食べて貰えるよう苦労しているが、小宮さんはラーメンではない麻婆豆腐で勝負したのだ。
今回の実店舗は、以前小宮さんが手掛けるラーメン店だったところを改装し、テイクアウト主体の業態に変更した。なぜこれまでのラーメン店をやめてしまったのだろうか。
「前のラーメン店は利益も出ている店でしたが、広さが5坪しかない狭小店舗なのです。コロナ前のオープン当初は問題ありませんでしたが、コロナ禍になって『密感』をすごく感じてしまったので、それならばテイクアウトを主体とした業態に切り替えようと思いました。ラーメン屋はスープ作りのプロフェッショナルですから、今回は麻婆豆腐のためのスープ作りを行っています」(小宮さん)
やはり「客商売」をやっていきたい
コロナ禍がなければ生まれなかったであろう、ラーメン職人が本気で挑んだ麻婆豆腐。5月のオープン以来売り上げも好調というが、今後の店舗展開などはどう考えているのだろうか。
「しっかりと売り上げの推移を注視しながら、ニーズがあれば出店をしていきます。継続するしないの判断にコロナは関係ありません。あくまでも、世の中に必要とされるかされないか、という観点で判断していきたいと思っています」(小宮さん)
コロナ禍によって外食産業ではテイクアウトやデリバリーの市場が急速に拡大しているが、小宮さんはどう捉えているのだろうか。
「デリバリーやテイクアウトは今後も浸透していくと考えていますが、ゴーストレストランは淘汰されていくと思います。私自身は『客商売』をしたくて飲食業をやっていますので、今後も主体となるのは実店舗です。その中でテイクアウトやデリバリーに対応した商品を開発していきたいと思っています」(小宮さん)
※写真は筆者によるものです(出典があるものを除く)。
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