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やっとココまで来た:「政府・新成長戦略に統合型リゾート」

木曽崇国際カジノ研究所・所長

IR推進法案の審議入りを巡って、ギリギリの攻防戦が続く国会ですが、一方の政府側から以下のようなニュースが飛び込んでまいりました。以下、FNNニュースからの転載。

政府新成長戦略に、カジノなど含んだ統合型リゾートも

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00270512.html

FNNが入手した新たな成長戦略の案には、カジノなどを含んだ、統合型リゾートについて、「『観光振興』や『産業振興』に資することが期待できる」と、意義を強調したうえで、「統合型リゾートに関する国民的な議論をふまえ、関係省庁において、検討を進める」と明記されている。[...]

実は、ここ最近の政府による我が国のIR導入に対するスタンスは、「議連が中心となって法案をまとめ、国会に提出したと承知している。国会として適切な審議を行なって欲しい」という非常に消極的なものでした。

これは未だ誤解が非常に多い難しい部分なのですが、現在、衆院に提出されているIR推進法案は我が国でカジノを合法化させる法案「ではありません」。IR推進法は、カジノを合法化させる法律を「準備することを政府に義務付ける」法案であり、IR推進法の成立の後に政府から提出される二つ目の法案(IR実施法)をもって、我が国で真の意味でカジノが合法化されることとなります。

すなわち段取りとしては「IR推進法の成立→政府が次の実施法を準備&提出→実施法が成立」というプロセスが前提となっているわけで、先にご紹介したここ最近の政府の答弁である「議連が中心となって法案をまとめ、国会に提出したと承知している。国会として適切な審議を行なって欲しい」というのは、「国会側で一つ目の法律が成立すれば政府としては動きます」という「消極的賛成」といっても良いスタンスの表れであったといえるでしょう。

そして、そのような政府によるスタンスの元で争われてきたのが、今期国会中に衆院委員会にてIR推進法案の審議が始められるかどうかという点。この辺りの攻防に関してはロイターが詳しく報じていますね。

カジノ法案審議入りは週内見送り、民主が条件提示

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0EN0XE20140612

カジノ運営を合法化するための統合型リゾート施設を推進する法案(IR推進法案)の審議入りは、週内は見送られ、最短で18日に行われる見通しになった。当初、週内にも審議入りする予定だったが、慎重な議論を求める民主党が複数の条件を出したことなどが背景にある。

12日開催した理事懇談会で民主党は、同法案の審議に際し、官房長官や国家公安委員長のほか主要閣僚の出席を求めるなど、複数の条件を提示した。カジノ推進派の議員はこれを持ち帰り、17日開催の理事懇談会で審議入りの可否を決定する。[...]

共産、社民あたりは当然最後まで審議入りに反対するのでしょうが、民主党としては「条件付きで審議入りに賛成」というスタンスを表明しました。某ルートからは、与党パートナーとして自民党に慎重姿勢を示してきた公明党も「今期での審議入りに関しては認める」というスタンスであるという話も漏れ聴こえています。せめて、何とか審議入りだけは実現して欲しいものです。

今年の通常国会は22日終了であり、閉会まですでに10日を切っています。今期国会でIR推進法の審議がスタートしたとしても、どのみち法案の成立は不可能です。では、なぜ推進派が何としても今期国会中に審議入りさせようと動いているかというと、その背景には色々込み入った事情があります。

国会で審議される法案には優先順位というものが存在しており、先に提出された法案が必ずしも先行して審議されるものではありません。昨年の12月にはすでに提出されていたIR推進法案が、今の今まで審議されてこなかったのはまさにそれが理由であり、IR推進法案よりも優先順位が高い法律が沢山提出されていたからに他なりません。

そして、殆ど時間が残っていない今期の国会に、推進派がなんとか法案審議の冒頭だけでも押し込もうとしているのも、このIR推進法案の優先順位を上げるためなんですね。今期の終わりに法案の趣旨説明だけでもやっておけば、次の国会では少なくとも他の審議入りをしていない法案よりも優先度が高い法案として押し出すことが出来ます。この秋の臨時国会の開始と共に速やかに法案審議を始められるように、推進派としては何とか今期中に一歩でも先んじておきたい。一方の反対派は、その意図が判っているので何とか阻止したい。そのせめぎあいが、現在、衆院内閣委員会理事懇談会にて熱く繰り広げられているわけです。

…という流れで動いていたところに、冒頭で紹介した政府新成長戦略に統合型リゾートの導入が入るというという一報が飛び込んできました。すなわち、これまで国会でのIR推進法の成立を待ってから政府が動くという段取りであったものが、それを待たずして政府側の主導で検討が開始される可能性が示唆されているわけで、大きく期待できる動きといって良いでしょう。

政府は、新成長戦略を今月の27日の閣議で決定することを目指しています。まずは、それを固唾を呑んで見守りたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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