ピンチをチャンスに。ワクワクがとまらない福岡の超人気パン店「アマムダコタン」の東京進出。
2018年にオープンするや、惣菜パンや菓子パンといったベーカリーにおける固定概念を翻す創作パンで行列の絶えない超人気店となった福岡のベーカリー、「アマムダコタン(AMAM DACOTAN)」が2021年10月1日、東京に進出、表参道(東京都港区北青山3-7-6)にグランドオープンした。
運営するのは料理人の平子良太さん(株式会社ヒラコンシェ)。ドライフラワーの販売事業も手がける多才なシェフだ。石や木、植物を設えた店内で、彼の空間プロデュース力の半端なさを感じる。それはただのパン売り場ではなく、レストランのように、あるいはテーマパークのように、空間自体が訪れる人の気分を楽しく盛り上げる装置となっているのだ。「おいしそう!と、どれだけ思ってもらえるかにかけています。お皿の大きさなど、めちゃくちゃ考えていますよ」。平子さんは魅せ方について、語ってくれた。
パンはそもそも料理を盛る「うつわ」という機能を持っていたのではなかったか。料理人が営むベーカリーの魅力は、本格的な料理やデザートの一端をパンにのせて気軽に味わえるということでもある。
美しく整列した彩り豊かなサンドイッチには、惣菜の域を軽く超えた「料理」が溢れんばかりに挟まれている。自家製サルシッチャ(イタリア風ソーセージ)に赤キャベツのコールスロー、グリル野菜を盛った「ダコタンバーガー」をはじめ、チキンのローストとかぼちゃをナッツソースで和えたものを五穀のフォカッチャに挟んだサンドイッチなど、「これは何?」「どんな味がするのだろう?」とまずはビジュアルに食欲を刺激される。フォトジェニックだが、「映え」のためだけではなく、すべてはおいしさのために、料理人のセンスに基づいてバランスよく計算され、構築されているのだ。
サンドイッチはどこを食べてもパンと具を一緒に感じられるようになっている。パンは福岡随一の人気店「パンストック」の指導を受け、長時間発酵、高加水の製法で、国産小麦を用いて数名のベーカーによって焼かれている。モチモチとしていながら、さっくり歯切れがよく、保水性も感じられ、セミハードのパンでも口中の水分を取られてしまうことはない。旨味のある生地は、それだけで食べてもおいしいに違いない。とはいえ、この店に入って、シンプルなパンだけを買って出てくることなど、しばらくはできそうにないが。
スイーツ系でも「見たことがない」魅力的なビジュアルが並ぶ。口どけの良いブリオッシュのような生地に極限までクリームを挟んだイタリアンスイーツ「マリトッツォ」も、この店のそれは、季節のフルーツやナッツ、プリンなどで装飾を施し、遊び心満載で、バリエーションに富んでいる。
実はアマムダコタンは、昨今のマリトッツォブームの火付け役とも言われている。昨年、新型コロナウィルス感染防止のため、お客が密になるピークの時間帯を分散させようと考えた平子さんは、午後のおやつの時間の看板商品としてマリトッツォを登場させたのだった。これが大ヒットし、ブームを巻き起こした。
問題点にポジティブに向き合い、おいしいパンに変えてしまうのが、平子さんの魔法だ。もうひとつ注目したいのが、フードロス対策でつくられた「サステナブレッド」と呼ばれるラインナップ。ライトグリーンのプライスカードがその目印だ。「パンペルデュ(フレンチトースト)」、「ボストック」、ガトーショコラさながらの「ガトーブレッド」など、余ったパンを廃棄せず、二次加工したものなのだが、そのようには見えないばかりか美しいし、おいし過ぎるということで、これもまた人気商品になっている。
オープンキッチンからは、こうしたパンが次々とつくられるライブ感が伝わってくる。「東京出店はスタッフの子たちの働く場を作るためでもありました。やる気のある子たちが、頑張れる場所。みんなが楽しくなるといいなと思っています」。平子さんも楽しそうに笑っていた。
パンに挟むものやのせるものだけではない、ニュースな話題が満載のアマムダコタンの東京進出。東京でも大ヒットの予感がする。