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「鬼滅の刃」 「無限城編」は劇場3部作 求められる大成功

河村鳴紘サブカル専門ライター
アニメ「鬼滅の刃」の公式サイト

 人気アニメ「鬼滅の刃」シリーズの新作「無限城編」が劇場3部作、アニメ映画になることが1日、発表されました。公開時期は未発表ですが、現時点のポイントを挙げてみます。

 アニメ「鬼滅の刃」は、週刊少年ジャンプ(集英社)で2016~2020年に連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんのマンガが原作。人を食う鬼を倒す「鬼殺隊」になった少年・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼になった妹を人に戻そうと奮闘するダークファンタジーです。2020年に公開されたアニメ映画「無限列車編」は、興行収入が400億円を突破するなど社会的なブームとなりました。

 「無限城編」は、5~6月に放送された「柱稽古編」の続きです。原作マンガでは、敵の本拠地・無限城での壮絶な戦いが描かれました。

◇アニメ映画化 ネット予想の“本命”

 「無限城編」のアニメ映画化は、ネットの予想としては“本命”で、3部作も想定内でした。「上弦の月」との戦いの連続で、激しい戦闘シーンが続きますから、映像のクオリティーも必要で、かつ尺の調整がしやすい利点があります。何より「無限城編」は、主人公たちに因縁のある猗窩座(あかざ)との戦いが待ち受けます。興収400億円を突破したアニメ映画「無限列車編」の“続き”ととらえれば、同じ「映画」になることは分かりやすいでしょう。

 そしてアニメ映画にすることで、収益面でメリットがあり、興行収入という分かりやすい指標が出せるのもポイントです。「遊郭編」「刀鍛冶の里編」「柱稽古編」の各編は、テレビアニメとなりましたが、23時台という遅い放送時間にもかかわらず、同時刻帯の番組よりも良い視聴率を稼ぎ出していました。

 しかし放送時間の関係上、録画再生に流れやすく、ネット配信もあり、その結果、メディアからは記事にされづらくなっていました。今度は興収が示されて他作品との比較が容易。可視化される分「鬼滅の刃」の圧倒的なパワーが示せる期待があります。

◇「無限列車編」がハードルに

 ただし、前回の映画「無限列車編」の興収(400億円超)という、とんでもない高いハードルもあります。仮に半分の200億円だとしても、化け物のような数字ですが、人によっては「半分」と思われる怖さがあります。

 「無限列車編」のときには、新型コロナウイルスの影響を受けて、スクリーン数を独占した事情がありました。今回はその“追い風”はないものの、「名探偵コナン」や「ワンピース」など、興収100億円を突破するアニメ映画が続々生まれています。また「鬼滅の刃」は海外展開にも力を入れていたので、そちらの成果にも期待したいところです。

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 「鬼滅の刃」が高興収、高視聴率をたたき出し、社会現象になったということは、普段はアニメを見ない一般層にも届いたということです。作品の認知度調査でも「鬼滅の刃」は高い数字を維持しています。どんな作品でも人気をピークのまま維持するのは無理ですから、今回のアニメ映画化で、離脱した人たちをうまく捕まえられるかも大切になります。

 「鬼滅の刃」についてヒヤリングを続けていますが、アニメに興味のない人は、移り気です。「アニメになるのが遅い」「原作マンガも読んだし、中身は知っているからもういい」などという声があるのは確かです。しかし、この手のライト層は、話題にさえなれば影響されて再び飛びつくもの。そこを「食ってこそ」社会現象になったアニメではないでしょうか。

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◇背負うものが大きく

 アニメ「鬼滅の刃」は、テレビはもちろん、ネット配信にも力を入れ、消費者の接触点を増やすことでこれだけの作品になりました。「無限城編」のアニメ映画第1弾に向けて、作品の内容(クオリティー)について、これまでの実績を考えると心配不要でしょう。

 むしろどうやって盛り上げて、より多くの人を映画館に向けさせるのか。映画館のスクリーン数の確保もそうですが、アニメをよく知らない消費者、一般メディアに対して、「鬼滅の刃のパワーはやはりすごい」という分かりやすい“指標”をどうやってさりげなく提示するか。そういうことを念頭に入れての販促を仕掛けても良いかもしれません。

 既に多くの固定ファンがついていますし、「柱稽古編」を見たような人は、ある程度放っておいても映画館へ足を運びます。つまり、アニメ映画の一定水準の成功は既に約束されているわけです。

 となれば、アニメ業界をけん引するような力、話題性作りも含めて、ソニーグループの決算にも再び言及されるぐらい、大きな成功を収めてこそでしょう。今はテレビ局もアニメに積極的な投資をしているように、業界関係者はもちろん、多くのビジネスマンがアニメのビジネスに目をつけており、「鬼滅の刃」の与える影響力は大きなものがあります。背負うものは大きく、ぜひとも大きな成功を……と願う次第です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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