Yahoo!ニュース

「エヴァ」「呪術廻戦」「ワンピース」 アニメ映画の興収100億円突破続々 なぜ

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ONE PIECE FILM RED」の公式サイト

 「ONE PIECE FILM RED」の興行収入(興収)が100億円に達しました。近年は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」や「劇場版 呪術廻戦 0」が同じく大台(100億円)を突破するなど、アニメ映画の興収が好調です。100億円を突破するアニメ映画といえば、スタジオジブリとディズニー、新海誠監督の作品でした。なぜアニメ映画は好調なのでしょうか。

◇無視できぬコロナの影響

 アニメ映画の快進撃を考えると、新型コロナウイルスの影響を無視できません。2020年に世界的に流行した新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、外出自粛の流れから、次々と公開予定の映画が延期される事態になり、映画館は大打撃を受けました。映画が見られなくなり、巨大なスクリーンで感動を共有しあう映画の魅力を再認識したのです。人間は失って初めて、その価値を強く認識することがあります。

 そして本格的な再開のタイミングで、登場したのが「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(2020年10月公開)です。「鬼滅の刃」は、原作マンガが人気絶頂で2020年春に完結。「鬼滅ロス」がある中で同作は、ライバル映画不在もあって、映画のスクリーン数が独占状態になりました。初週から驚異的な興収を稼ぎ出し、ニュース一般メディアに報道されて一般層の目に触れ、さらに観客を呼び込む流れになりました。

 当時、今後抜けない記録という扱いだったアニメ映画「千と千尋の神隠し」(2001年公開)の興行収入約317億円を抜き、最終的には400億円を突破。「鬼滅の刃」のヒットは、アニメ映画のビジネスに、大きな可能性があることを証明しました。同時にアニメ映画を見る行動も、人々の行動の選択肢に入ったことは推察できます。

 その流れは、次の有力作「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」(2021年3月公開)でも続きます。同作はアニメファン向けでしたが、最終作であることと、SNSを活用するなどして、過去シリーズ3作の興収を大きく上回りました。そうなると、有力アニメ映画であれば「100億円」を意識することになります。意識を持つことは、目標達成への第一歩です。またファンにとっても「興収100億円」の目標は分かりやすく、「100億円の男」などとキャッチーなワードで盛り上げやすい側面もありそうです。SNSで話題にするほど広告的な効果はあるので、ファンも応援のしがいがあるでしょう。

◇質の高い特典も後押し

 映画の興収を伸ばすには、ファンのすそ野を広げることも大事ですが、同時にコアファン……リピーターも大事です。アニメ映画の観客増の“武器”になったのは、何度も鑑賞に耐えられるコンテンツの質も重要。しかし、質の高い「来場者特典」も後押ししたと言えます。

 「鬼滅の刃」でも特典は何度も用意され、それを目当てに多くの人々が足を運びました。「シン・エヴァ」は最後に、ファン垂涎の冊子を用意して成功。大台突破へと結びつけました。

 ひと昔の特典は、微妙だったり、外れることもありました。たとえば「フィルム」などは、良いシーンが当たって喜ぶ人たちもいる一方で、そうでなければ失望するわけです。しかし今の来場者特典は、よく考えられており、外れ的な要素はありません。ひと昔前であれば「特典商法」という悪い意味合いがありましたが、その意味合いも薄れつつあります。

 そして映画産業の環境もあります。今の映画館は、複数のスクリーンを持ち、集客に有利な大型映画館「シネコン」が主力です。シネコンの特徴は、映画の公開を柔軟に運用でき、人気作品にスクリーンを多く割り当てられます。つまり、観客動員のイマイチな作品には不利に働く一方で、特定作品に人気が集中します。

 人気が集中して、興収が好調であれば、メディアの記事になり、SNSで拡散して、さらに観客動員が伸びる……という構図です。

◇ネット配信との差別化

 今やネットの動画配信サービスが充実しています。アニメ映画の公開から(場合によっては)数カ月待てば、そのコンテンツが配信されることもあるので、なぜ映画がここまで人気になるのか不思議といえばそうかもしれません。しかし、ネットの動画配信があるからこそ、映画のライブ感が際立つのも確かです。コンテンツを見るだけであれば、ネット配信だけでも構いません。しかし、その場にいて観客の雰囲気・反応を共有し、大スクリーンで盛り上がるのは映画であってこそです。

 またマンガやテレビアニメなどの人気コンテンツは長期展開しているので、ストーリーが長く、消費者にも相応の時間を要求する側面があります。しかしアニメ映画であれば原則、2時間で決着します。

 例えば「ワンピース」であれば、原作マンガのコミックスを100巻以上読むのは大変です。もちろん、全ての設定を知っていれば深く楽しめます。しかし、全部知らずとも、映画であれば話についていけますし、まずは2時間で終わり、共有体験もできます。お手軽に見て、ハマれば深く掘り下げていけばよい……というわけです。見た後で友達と感想を語り合うのも含めて、映画の魅力と言えます。

 コンテンツの出来が良いのは当然で、さらなる工夫が凝らされています。制作側も、コアファンを意識しながらも、初見はもちろん、一度コンテンツから離れた「復帰組」でも楽しめるような配慮が見受けられます。

 良質のコンテンツだからヒットするとは限りませんが、良質のコンテンツの方が可能性を秘めているのは確かです。「鬼滅の刃」の“功績”は、他のアニメ作品に良い影響を与え、今も“追い風”になっていると言えそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事