「鬼滅の刃」の「刀鍛冶の里編」 「遊郭編」から1年待つのは長い?
人気アニメ「鬼滅の刃」のシリーズ最新作「刀鍛冶の里編」が2023年4月から放送され、一足先に2月からワールドツアーも上映されることが発表されました。今回の発表で気になる三つのポイントを挙げてみます。
◇「刀鍛冶の里編」来年4月放送
「鬼滅の刃」シリーズは、週刊少年ジャンプ(集英社)で2016~2020年に連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんのマンガが原作です。人を食う鬼を倒す「鬼殺隊」になった竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼になった妹を元に戻そうと奮闘します。
テレビアニメの人気、原作マンガの完結を経て、2020年に公開されたアニメ映画「無限列車編」は、興行収入が400億円を突破し、最高記録(それまでは千と千尋の神隠しの316億円)を更新。当時のフィーバーは、テレビの昼の情報番組でも取り上げられるほどでした。
新作「刀鍛冶の里編」は、2021年12月~2022年2月に放送された「遊郭編」の続きです。炭治郎が刀を作り直すために「刀鍛冶の里」を訪れ、強力な鬼との激闘が展開されます。完結済みの原作マンガのコミックスに沿って言えば、“前半”を終えて“後半”に入るあたりでしょうか。
そして今回、発表された内容は以下の通りです。
・「刀鍛冶の里編」は、2023年4月からフジテレビ系で放送(第1話は、1時間スペシャル)
・ワールドツアーを2月から上映(80以上の国・地域)する。内容は「遊郭編」の10・11話、「刀鍛冶の里」編の1話。
・日本の上映は、2月4日から418館(通常377館、IMAX41館)。前売券の発売は12月24日。東京での舞台あいさつは2月4日・5日。
・舞台あいさつはロス、パリ、ベルリン、メキシコシティ、ソウル、台北でも実施する。3月から全米1700館以上で公開。
◇沈静化する熱の食い止め・巻き返しは
最初のポイントは、2023年4月という放送時期のタイミングについて、世間とのズレが少なからずあることです。正確に言うと、アニメの事情を知るアニメファンの視点と、アニメを知らないライト層では、熱量に差があるように感じました。
アニメ「鬼滅の刃」の売りの一つは、映像の圧倒的な質の高さにあります。特に戦闘シーンは、普段アニメを見ないような人でも驚くほどのレベルです。ですが、普段アニメを見ない人々から、何度かこんな質問をされました。
「鬼滅の刃は、人気がこんなにあるのに、なぜすぐ続きを放送しないの?」
アニメファンであれば、苦笑してしまうでしょう。アニメファンは、「高品質の作品は、制作に時間がかかる」とよく理解しています。アニメ業界の視点でいえば、よく1年で放送・公開にこぎつけたと感心させられます。
なぜなら、アニメの制作現場は、クリエーターへの要求も高く、時間に追われてギリギリのスケジュールであるのが普通です。深夜アニメでも、1クール(3カ月)放送してから一度終わらせ、続編を3か月後、半年後に放送するのは、作品の質を維持するためです。
しかしそれは制作側の事情で、ファンに「関係ない」と言われるとそうです。人間の欲求として、素晴らしい作品を見れば「次がすぐ見たい」となるのは、ある意味本能でもあります。一方で、毎週放送されるテレビアニメもあるわけで、さらに昔のアニメは、原作マンガの連載に追いついてしまい、アニメにオリジナルが差し込まれたりしていました。そう考えると、誤解してしまうこともありえるでしょう。
そのため「(続きを)1年待つのは長い」「間隔が空きすぎる」という考えをする人が一定数いるようで、同種の意見をネットでも見かけました。そして、アニメファン以外の人々に「事情をくみ取って」というのも、難しい話です。もちろん裏返せば、普段アニメを見ない層を「鬼滅の刃」が取り込んだ証で、社会現象になったコンテンツならではの悩みと言えます。
そして「鬼滅の刃」に対する温度も、以前ほどの熱量があるか……というと、沈静化の傾向にあります。
以前は「鬼滅の刃」が放送されると、ツイッターのトレンド上位は「鬼滅の刃」関連のワードで埋め尽くされ、放送後まで維持していました。ところが、10日に放送された「無限列車編」では、放送後に「煉獄さん」と「#鬼滅の刃無限列車編」でワン・ツーとなったものの、しばらくすると「#THE_W」に抜かれて首位を失いました。その後、再度首位を奪い返したものの、トレンド入りする関連ワードの数も控えめでした。また、「刀鍛冶の里編」の放送時期発表を受けて、各メディアが配信した記事ですが、一般メディアが記事を配信しなくなっていました。以前ならば、一般メディアもこぞって報じていたのに……。
どんな人気コンテンツでも、人気をピークで維持するのは不可能です。人気の“波”はあり、沈静化は想定内です。要は、いかに沈静化を食い止め、さらに巻き返しの可能性を持たせるかです。
◇19時や21時放送なら視聴率どうなる?
そのためには、今回発表されなかった放送時間は、巻き返しのカギの一つでしょう。
無難に「遊郭編」と同じ23時15分という選択もあります。しかし、結果とデータから言えば、もっと早い時間であれば、盛り上がりもあったはず……というのが正直なところです。他番組やコンテンツの内容の兼ね合いにもよりますが、19時や21時の放送で視聴率がどこまで取れるのかは、試してほしいところです。
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今やネット配信があり、若者のテレビ離れの傾向がある中、視聴率への意味合いは薄れています。しかし、それでも視聴率の高さは、話題作りのためには無視できません。結果が出ればメディアが色めき立ち、記事で好意的に評価されるでしょう。そうなると、再度の大ブームに追い風になる可能性もあるわけです。
繰り返しますが「鬼滅の刃」は、アニメを見ない層も含めて、老若男女を問わず、広い層に認知されています。ゆえに圧倒的なファン層を誇り、コアファンもしっかりしていますから、現時点で一定の成功は約束されています。だからこそ、さらに上を目指し、アニメ全体を盛り上げる役割を期待したいところです。
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◇ワールドツアー ビジネスの利点大きく
最後のポイントは、ワールドツアーの実施です。実に巧みな戦略でして、ファンにも喜ばれる上に、コンテンツの効率的な利用になっていて、ビジネスでのメリットが大きいといえます。80以上の国・地域というのは、日本にとどまらずより広い市場を開拓したい、制作側の意思の表れでしょう。
ビジネスでいうと、マンガやゲームは大ヒットをすれば大きな収益を得ることができますが、無料で放送されるテレビアニメは、宣伝力がある一方で、高収益化に弱点を抱えています。そこをうまくフォローしています。
ワールドツアーで上映するコンテンツの選択(組み合わせ)も見事です。「遊郭編」で最も評価されたクライマックスに加え、「刀鍛冶の里編」の先行公開です。ファンに批判される要素が少なく、放送前の話題作りにも一役買ってくれそうです。
また、館数の多さも期待の表れでしょう。さらに1時間スペシャルの第1話を2カ月前倒しで公開するということは、制作面でも順調と言えそうです。
来年に放送される「刀鍛冶の里編」が、どんな盛り上がりを見せるのか。これまでの実績やPVを見ても、1年待つに値する内容であるのは間違いなく、「全集中」したいところです。