Yahoo!ニュース

テレビ局のアニメ 23時台放送の争いへ

河村鳴紘サブカル専門ライター
ビジネスで争うビジネスマンたちをイメージしたAI生成イラスト

 近年テレビ局がアニメビジネスに力を入れる中で、新たな動きが見られます。従来、アニメは午前0時を超える「深夜枠」で放送するのが普通でしたが、今や各局がそろって23時台に放送、競争する流れになりつつあります。なぜでしょうか。

◇アニメの扱い かつては“格下”

 従来、アニメといえば、「ドラえもん」や「名探偵コナン」などのごく一部の子供・ファミリー層作品を除けば、大半は深夜枠のことを意味しました。原作や出演している声優のファンを見込んだり、DVD(ブルーレイ・ディスク含む)を売るのが主流のビジネスモデルでした。

 しかし、映像ソフトが売れなくなる一方で、ネット配信サービスの拡大と共に海外で人気となります。そして新型コロナの巣ごもり需要の追い風などもあってアニメ「鬼滅の刃」の人気が爆発、アニメのコンテンツパワーが見直されたのです。そして、各局は23時台にアニメの話題作を相次いで投入する展開になっています。

【関連】テレビ局のアニメ“熱”を決算から見る 「フリーレン」「薬屋」はプッシュ 「鬼滅」はスルー

 フジテレビは2021年から、日曜23時15分に「鬼滅の刃」を編成し、人気ドラマに負けない総合視聴率をマークするなど結果を出しました。続いて、金曜23時40分からは「ドラゴンボールDAIMA」を放送。さらに来春から20年の歴史を持つ深夜アニメ枠「ノイタミナ」を23時台に移動させます。新生「ノイタミナ」第1弾は、東川篤哉さんの小説が原作で、ドラマも人気になった「謎解きはディナーのあとで」。力の入れようがうかがえます。

 日本テレビは、2023年から新アニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」(金曜23時)に設け、「葬送のフリーレン」がヒット。2025年1月から「薬屋のひとりごと」の第2期を放送します。フラアニは、老舗映画番組「金曜ロードショー」の後だけに、ライト層を取り込める強みもあります。

 テレビ朝日は、2024年秋からアニメ枠「IMAnimation」(土曜23時30分)を作り、第1弾に人気サッカーマンガが原作の「ブルーロック」を放送。今後放送予定の「ババンババンバンバンパイア」や「片田舎のおっさん、剣聖になる」なども人気のある原作ものです。

 TBSは、系列のCBCがアニメ枠「アガルアニメ」(日曜23時30分、全国28局ネット)を今年4月から放送。また系列の毎日放送は「土6(土曜18時)」「日5(日曜17時)」など、以前から夕方のアニメに力を入れていたのは、よく知られています。

 テレビ局の編成説明会で以前は、アニメに触れることがレアケース。深夜に放送されていたこともあり、”格下”に見られていた時代があったのです。元々、アニメに力を入れていたテレビ東京は別にして、なぜテレビ各局が、23時にそろってアニメを放送するようになったのでしょうか。

◇巨大な海外市場 SNSとの相性良く

 まず、ビジネスモデルの変化です。民放のテレビ番組は通常、番組スポンサーからの「広告費」が主な財源で誰もが無料で見られるのですが、マネタイズに制約がありました。テレビ優先なので、そもそもネットの配信に抵抗があったわけです。しかし今は状況は変わりました。アニメはテレビ放送に加え、今や世界規模での配信が見込める上、海外市場の大きさからリターンに期待できます。アニメの原作となる日本の「マンガ」は、世界で圧倒的な評価を得ていますし、他業種がアニメビジネスに目をつける時代です。この流れに乗らない手はありません。

【関連】伊藤忠が狙う「アニメ・IPで1000億円」構想の衝撃(東洋経済オンライン)

 また、視聴率に代わる「指標」として、SNSが欠かせない時代です。ネットの登場でエンタメが充実したこともあり、テレビの視聴率下がる一方ですが、視聴率をどう確保していくかが問われていました。テレビとSNSの相性は抜群で、テレビを視聴しながらSNSで感想を書き込むのは今や普通のこと。リアルタイム視聴(同時視聴)につながるのも歓迎されますし、反響があればネットでニュースにもなり、「TVer」などの見逃し配信につながるのも利点です。

【関連】「なぜTVerで配信しなきゃいけないの?」7年で各局のマインドに変化、視聴率に代わる新たな指標に(オリコン、2022年)

【関連】『TVerの研究』~民放の抱える課題と『TVer』のサービスに関して~(ACC、2016年)

 そして一定の視聴率が見込めるのであれば、深夜枠にする必要はありません。SNSの盛り上がりを考慮すると、少しでも早い時間帯に放送をするのは理にかなってますし、リスクの低い23時台で……となるわけです。

◇テレビ局ならではのビジネス描けるか

 ただし気になる点もあります。ここまで各局がそろって23時台のアニメに注力するのは、「横並び」「前例踏襲」とも言えます。一局ぐらいゴールデンタイムに投入して、業界を変えようとする意図が感じられるような大胆な編成ではありません。勢いのあるビジネスに見られる、ダイナミズムに欠けています。

 また、アニメ化で人気の見込めそうな大物原作の奪い合いが、今後はより激化することが予想されます。人気原作のアニメ化は、比較的ローリスクで魅力的でしょう。ただし“目利き”の力を含めた企画力が付くかは疑問符で、原作サイドに主導権を握られる可能性もあります。今や多くのプラットフォームがある時代です。

 課題はあれど、テレビ局の23時台のアニメを巡っての競争が始まったわけです。そしてアニメが人気になり、収益が出るほどアニメの枠は増えるでしょうし、今は放送の曜日がずれていても、直接対決をして激しさを増すことは推察できます。

 今やネット配信でアニメを見るのが普通になり、以前のようなテレビの圧倒的な存在感・利点が薄れる中で、テレビならではの強みを打ち出せるのか。何より、テレビ局だからこそ生み出せるビジネススキームを描き、アニメで社会的なヒットを世に送り出せるのか注目です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事