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「早足歩き」を「習慣化」するだけで糖尿病を予防できる可能性。距離や歩行時間は無関係。20万人データ。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

心筋梗塞や脳梗塞のリスクを上げる糖尿病。できれば予防が一番

ご存じですか?日本人男性の5人に1人、女性は10人に1人が糖尿病、ないしは糖尿病予備群(by 厚労省)です [令和元年「国民健康・栄養調査」] 。

糖尿病になると心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症する危険性が2.5から5倍、脳の血管が詰まる「脳梗塞」も2から4倍、糖尿病でない人に比べ危険性が高まります。これは九州の久山町における観察から明らかになりました [文末文献1] 。

虚血性心疾患:心臓の壁を走る血管が狭くなったり詰まったりした結果、十分な血液を送れなくなった(虚血)状態。血液から十分な酸素や栄養を受け取れない心臓の細胞は傷んだり壊死したりして、結果として心臓が正常に働かなくなる。

なので糖尿病はできるなら発症したくない病気。なんとか予防したいものです。

そんなあなたに嬉しい研究成果が3月23日、「糖尿病・肥満・代謝」という学術誌に掲載されました。「早足で歩く習慣」があれば糖尿病になるリスクが減るというのです。著者は米国テキサス大学のDarren K. McGuire氏たち。簡単にご紹介します [文末文献2] 。

早歩きの人は糖尿病になりにくい

McGuire氏たちが今回解析したのは、「UKバイオバンク」という英国の観察研究に任意で参加した50万人中、糖尿病のない白人20万人弱です。観察開始時に聞き取り調査をした「歩行速度」と「その後の糖尿病発症」の関係を調べました。なお、観察開始時に見逃された糖尿病を「新規糖尿病」と数えてしまわないように、観察開始後2年間に糖尿病を発症した人も除外されています。

その結果、およそ5年半の間に2.3%が糖尿病になりました。

そして歩行速度別に糖尿病発症の危険性を比べると、女性では1Kmを「9分強」で歩く人に比べ、「10分弱から12分」かかる人では1.75倍、糖尿病になりやすくなっていました。「12分以上」かかる女性ではなんと2.5倍。

男性も同様で、1Km「9分強」に比べ「10分弱から12分」では1.6倍、「12分以上」では2.1倍、糖尿病を発症するリスクは高くなっていました

逆に言えば「1Kmを「9分強」で歩く人は「12分以上」かかる人に比べ、糖尿病になる可能性がおよそ半分になっていました。このリスク減少率の大きさには驚かされました。

歩行距離・時間とは無関係に「早歩き」で糖尿病発症の危険性は低

この研究で嬉しいのは、歩く「距離」や「時間」は問題にされていないという点です。つまり歩く距離や時間の長短とは無関係に「早足歩きで糖尿病リスクは減る」と考えられるのです。

この考えを裏打ちする研究も出ています。米国の女性看護師さん7万人を観察した結果、1週間の歩行時間が糖尿病発症に与える影響を統計学的に取り除いても、早足歩きの人は糖尿病になる確率が低くなっていました。こちらは米国医師会雑誌(JAMA [ジャマ])という臨床医学では4本の指に数えられる学術誌に掲載された論文です [文末文献3] 。信頼度は高いと考えて良いでしょう。

「早歩きできる人は糖尿病になりにくい」だけの話?

ただしこのような「観察研究」では「早歩き」が糖尿病を減らす「ファクター」なのか、あるいは糖尿病になりにくい人の特徴(マーカー)なのか、その点は明らかではありません。なので「早足歩きが糖尿病を防ぐ」ではなく「早足で歩ける人は糖尿病になりにくい」である可能性も否定できないのです。

でも、早足で歩いて損をするわけではありませんよね?「早足歩きが糖尿病を防ぐ」に賭けて生活習慣を見直しませんか?女性なら通勤途中だけウォーキングシューズを履く、だけでも良いでしょう。男性もちょっと奮発してでも歩きやすい靴を買いましょう。そして男女ともスマホを見ながらの「チンタラ歩き」はご法度。前を見て颯爽と歩きましょう。

実際に試してみると分かりますが、早足で歩こうと思うと自然と混んでいない経路を選ぶようになります。結果として少し遠回りして「歩数」も稼げるかもしれません。ぜひ、試してみてください!

なお糖尿病や血糖値については以下の論文紹介記事も書いています。こちらもぜひご覧ください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 糖尿病の人は心筋梗塞や脳梗塞のリスクが2〜5倍増加する【久山町研究】(日本語)。
  2. 早足で歩く人は糖尿病になるリスクが低い。(英語)
  3. 歩く時間の影響を取り除いても早足で糖尿病発症リスクは低。(英語)

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【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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