糖尿病治療薬に認知症リスクの差?ボケたくなければ知っておこう【最新エビデンス】
認知症は「予防」が何より大切
一定の歳になると「認知症」が気になりませんか?厚生労働省によれば、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予想されています(厚労省サイト)。
認知症は発症すると、現在の医学では逆戻りできません。だから何より「予防」が大切になります。認知症のリスクを知って、早めに対応したいものです。
2型糖尿病では認知症リスクが1.6倍に
そこで今回は「糖尿病」と「認知症予防」についての最新論文を紹介します。と言うのも、2型糖尿病の人では認知症になりやすい可能性が指摘されているからです。
ご存じでしたか?全世界の230万人を解析したデータの結果、2型糖尿病の患者さんは糖尿病ではない人に比べ、認知症の発症リスクが1.6倍に上昇していました(論文1)。この研究が載ったのは「糖尿病治療」(Diabetes Care)という米国糖尿病学会が発行している学術誌。糖尿病の臨床研究に関しては世界のトップクラスです。
ちなみに日本における2型糖尿病の患者さんの数は、およそ1,000万人と推計されています(厚生労働省調査)。
血糖低下薬により認知症抑制作用に差がある可能性
さて糖尿病治療では、血糖値を正常に近づけます。その際、生活習慣だけで血糖値が下がりきらないと血糖低下薬が処方されます。この血糖低下薬、種類によって認知症を予防する作用に差があるかもしれません。それが今回ご紹介する研究です。学術誌「英国医学雑誌(BMJ)」の糖尿病版に10月11日付で公開されました(論文2)。ちなみにBMJ本体は、臨床医学一般の分野では世界で4本の指に入る学術誌です(信頼性の高い論文が掲載されている)。
血糖低下薬のおさらい
研究の紹介に入る前に、そこで取り上げられた血糖低下薬の説明を手短にしておきましょう。
・「メトホルミン」:長らく、欧米で2型糖尿病にまず使うべき薬(第一選択薬)とされてきました。血糖を下げるだけでなく、糖尿病に関連した死亡を抑制する作用が、UKPDS [ユー・ケイ・ピー・ディー・エス] 34と呼ばれる臨床試験で確認されているためです。
・「グリタゾン薬」:「チアゾリジン薬」と呼ばれることもあります。。インスリン刺激に対応じて細胞が糖を取り込む働きを促進し、その結果、血中の糖濃度(血糖値)が低下します。
・「SU剤」:「スルホニル尿素薬」の通称です。古くから使われている薬で、一時期は最も広く使われていました。。すい臓からのインスリン分泌を促進します。
(現在日本で多く使われているDPP-4阻害薬 [インスリン分解を抑制] やGLP-1受容体作動薬[同前]、SGLT2阻害薬 [余分な糖を尿中に排出]は、上記3剤に比べ使われている数が少ないため、今回の解析には含まれていません)
グリタゾン薬で認知症抑制、SU剤では逆にリスク増
さて本題です。今回ご紹介する研究は米国で実施され、60歳以上の退役軍人56万人が解析されました。全員2型糖尿病と診断され、メトホルミンとグリタゾン薬、そしてSU剤のいずれかを、新たに飲み始めた人たちです。
すると2年後、メトホルミンを飲み始めた人に比べ、グリタゾン薬を開始した人たちでは、認知症になるリスクが相対的に35%減っていました(0.65倍)。年齢やさまざまな治療薬など認知症への影響を、統計学を駆使して除外して比べた結果です。一方、SU剤を始めた人の認知症リスクは、メトホルミンに比べ1.14倍に増えていました。
興味深いことに、グリタゾン薬はアルツハイマー型認知症を発症するリスクも、メトホルミンに比べ相対的に23%減らしていました(SU剤では増減なし)。アルツハイマー型は認知症の中で最も患者さんが多いタイプで、脳が変性や萎縮を伴うのが特徴です。現時点で治療薬は存在せず、進行を遅らせるのが精一杯な疾患だけに、予防は非常に重要です。
メトホルミンの認知症予防作用は生活習慣改善と同等
このようにグリタゾン薬とSU剤は、メトホルミンに比べ認知症発症の抑制作用に差があるようです。
そしてメトホルミンによる認知症抑制作用は、血糖低下薬を使わない「生活習慣改善(食事指導)」と差のないことが分かっています。認知機能を良くも悪くもしないということですね。まだ論文にはなっていませんが、9月にスウェーデンで開催された欧州糖尿病学会において、英国オックスフォード大学のWilliam Whiteley氏が報告しました。2型糖尿病患者さん1,500人以上を45年間近く観察した結果です。
まとめ
いかがでしたか?血糖低下薬の種類によって認知症予防作用に差のある可能性が伝わったでしょうか?もっともドクターは、患者さんの認知症リスクだけを考えて血糖低下薬を選んでいるわけではありません。心臓や腎臓、そして目や脚などのことも考えて処方してくれているはずです。
でも気になるようならドクターに質問してみませんか?今回の論文は、下の米国国立医学図書館サイトで要約が読めます(無料)。英語ですが翻訳サイトDeeplにコピペすれば、日本語でも読めます。トライしてみませんか?
また認知症についてはこちらの記事でもご案内しています。ぜひご一読を!