Yahoo!ニュース

血糖値が心配なら食前にナッツ。恐ろしい「血糖値スパイク」も抑えて一石二鳥【ちょっと意外な最新論文】。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

唐突ですが食事の時「糖質」は気にしていますか?体重が気になる人や、健康診断で血糖値を注意された人なら気になるでしょう。ちなみに空腹時血糖値が「126mg/dL以上」になったら、糖尿病の疑いが高いとされています [日本糖尿病学会のガイドライン (7頁)] 。

血糖を下げる方法はいろいろと紹介されていますが、今回は最新の方法をご紹介します。それは「食前のアーモンド」摂取です。これだけで血糖値は5mg/dL以上下がります。報告したのはインド糖尿病協会のSeema Gulati博士。2月2日(2023年)に「欧州臨床栄養雑誌」サイトで公開された研究をご紹介します [文献1]。少し細かくなりますが、ぜひお付き合いください。

「ランダム化比較試験」という信頼性の高い方法で検証

研究対象となったのはインドに住む糖尿病高リスク(糖尿病予備群)の60人。食事の30分前にアーモンド20g(約20個)を食べるグループ(食前アーモンド群)と食べないグループ(対照群)に振り分けられました。「振り分け」には「ランダム化」というくじ引き類似の手法が用いられています。このような「ランダム化比較試験」は医学研究として最も信頼性の高い方法です。

その上で、連続して血糖値を記録できる機器を装着した上で3日間を、食事も含め自由に過ごすようにしてもらいました。なお3日経過後は群を入れ替え、同じように3日間過ごしてもらっています(なので最終的には60名 vs. 60名の比較)。

1日のほとんどの時間帯で120mg/dL未満。「血糖値スパイク」も抑制

すると対照群では就寝時間を除きほとんどの時間帯で「120mg/dL以上」。130mg/dLを上回る時間帯もありました。しかし「食前アーモンド」群では「対照」群に比べ、1日平均の血糖値は「7mg/dL」低下し、24時間ほとんどの時間帯で「120mg/dL未満」に保たれていました。糖尿病が疑われるのは「126mg/dL以上」(先述)なので、かなり良好な数字です。

さらに「食前アーモンド」群では食後の「血糖値スパイク」が大幅に抑えれられていました。「血糖値スパイク」とは食事をした後に血糖値が一過性に跳ね上がる状態を指し、これがあると糖尿病でなくとも、心筋梗塞や脳卒中などの心臓血管系疾患で死亡するリスクが上昇することが知られています [文献2] 。

「血糖低下」の3パターン。

このように「食前アーモンド」による血糖低下作用が明らかになったのですが、「血糖値が下がる」場合、その仕組みは大きく分けて3つあります。

一番有名なのは「インスリンによる体細胞への糖取り込みを増やす」というもの。インスリンの働きの1つは血糖の「行商」。つまり血液の中に余分な糖があると体内の細胞のドアを叩いて回り「糖が余っていますよ」と売り込みます。それで細胞が「ありがとう。もらっておくよ」となれば糖質は血中から細胞内に取り込まれ、めでたく血糖は下がります。

でもこの方法では糖が体内に貯まるので、体重は基本的に増えてしまいます

対照的なのが、「さっさと糖を捨ててしまう」というやり方。これには2通りあって、1つは「腸からの糖質吸収抑制」、つまり便として捨ててしまい血中に糖を入れないというやり方です。もう1つは「血中に入った糖を腎臓から尿中に捨ててしまう」という方法。

この方法なら、血糖値を下げても体重は増えません

アーモンドが糖質吸収を抑制の可能性。体重減少を報告する研究も

ではアーモンドはどちらの仕組みで血糖を下げるのでしょう。今回ご紹介した論文では「食前アーモンド」後、インスリンは増加(血中濃度上昇)していませんでした。では「さっさと糖を捨ててしまう」のでしょうか?

正確なメカニズムについてのコメントは困難」としながらもGulati博士は、いくつかの可能性を指摘しています。そしてその中には「腸からの糖質吸収抑制」もありました。アーモンドに含まれる脂質が糖吸収を抑制するという論文がすでに出されているためです [文献3] 。

だとすれば「食前アーモンド」が糖質の吸収抑制を介して、体重を減らす可能性も否定できません。ただ残念ながら今回の研究では、体重データは報告されていません。しかし複数のランダム化試験データを併合した結果(メタ解析)では、食前ではありませんがアーモンドを食べると腹囲径とBMI(肥満度の指標)が減ると報告されています [文献4] 。

おしまいに

いかがでしたか?

食事の前にアーモンドを食べるだけで血糖値の上昇が抑えられ、うまくすれば痩せるかもしれないという医学データのご紹介でした。アーモンド20個がつらければ、食べられる数から始めてみましょう。塩をとりすぎると血圧が上がるので素焼きを選んだほうがいいかもしれません

今回ご紹介した論文の要約はすべて無料で読めます(全文無料の論文もあり)。英語で書かれていますが無料翻訳サイトのDeeplを使えば簡単に翻訳できます。なおアーモンドを扱う企業・個人との利害関係は一切ありません。

血糖・糖尿病については

という論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください!

今回ご紹介した論文

  1. 食前アーモンドで血糖値は下がり血糖値スパイクも抑制
  2. 血糖値スパイクがあると糖尿病でなくても心筋梗塞や脳卒中などで死亡するリスクが上昇
  3. アーモンドに含まれる脂質が糖吸収を抑制
  4. アーモンドを食べると腹囲径と肥満度が減る

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

黒澤恵(Kei Kurosawa)の最近の記事