年内の活動を終えたなでしこジャパン。日本女子サッカーは2017年、新たなステージへ向かう(1)
【強豪・静岡学園とのトレーニングマッチ】
静岡県内でトレーニングキャンプを行った日本女子代表候補は、7日の午後、地元の静岡学園高校男子サッカー部とトレーニングマッチを行った。
30分のゲームを3本行い、結果は、12−0(1本目0-4/2本目0-3/3本目0-5)と大敗。
体格差のある海外の選手のパワーやスピードへの対策として、なでしこジャパンはこれまでにも男子高校チームや男子大学チームとトレーニングマッチを組んできた。
ワールドカップやオリンピックの前、国内合宿中など、チーム状況によって対戦相手も変わったが、今回のトレーニングマッチは、攻守における代表のチームコンセプトを共有することと、強い個に対する間合いの確認などが目的だった。
選手間の連携も未成熟な中で迎えた一戦だけに、このトレーニングマッチの結果で、チームの現状や今回の合宿の成果を結論づけることはできない。
今回対戦した静岡学園はパスサッカーのスタイルが有名であり、「強さ」だけでなく「技術」もある相手への対応を意識したマッチメイクとなった。だが、実際は、技術への対応以前に、体の入れ方を一歩間違えばケガをしてしまいそうなほど、体格とパワーに差があった。体が出来上がった男子高校生の強さは、アメリカやドイツの女子代表選手とも違った男子特有のパワーとスピードがあり、足の伸び方や初速も違う。
男子とのマッチメイクは、対戦相手の選び方がとても難しい。
過去にはU-20日本女子代表が静岡県内の強豪校と対戦して勝ったことがあり、なでしこジャパンが大学生の男子チーム相手に良い勝負をした例もある。相手によっては、欧米各国の強豪女子チームとの対戦を想定した理想的なシミュレーションになる。
だが、静岡学園といえば、「サッカー王国」静岡県内でもトップクラスの強豪(今年のインターハイでは全国ベスト8)で、キングカズこと三浦知良選手をはじめ、これまでに60名以上のJリーガーを輩出した名門だ。今年は170名近くの部員がいて、全国高校サッカー選手権の県予選では、ある高校に12-0で勝っている。今回のトレーニングマッチでも、女子選手をケガさせないように気を遣ったゲーム運びではなく、体の当て方もスピードも容赦がなかった。
【敗戦から得た収穫】
一方的に押し込まれた試合にはなったが、その中で得られた収穫もあった。
「局面で(対)人に強いな、という選手がいましたし、速いプレッシャーの中で局面を変えられる選手もいました。テクニックが荒いと感じる選手でも、体の強さを見せてくれたり、それぞれの良さがあるので、うまさと強さは両方求めていきたいと思います。」(高倉監督)
チームとしては、今回の合宿で取り組んだコンパクトな守備と、相手との間合いで簡単に飛び込まないことを意識しつつ、細かいラインコントロールの上げ下げで相手のFWを抑えた場面もあった。
この試合で唯一、3本連続でフル出場したのが、キャプテンマークを巻いた川村優理(ベガルタ仙台レディース)だ。所属チームではこれまでボランチとしてプレーし、代表でもボランチやサイドバックでプレーすることが多かったが、この試合は90分間、センターバックとしてプレーした。
「アピールの場でもありますし、相手がこうしてきたから自分たちがこうしよう、とか、もっとゲームの流れを考えながら対応できれば良かったと思います。」(川村)
そう反省を述べつつも、センターバックでプレーする楽しさに手応えを見せた。
「ラインコントロールで相手のFWの動き出しを制限できて、その分、前からボールを強く奪いに行けます。自分たちが優位に試合を進められるし、自分の良さも出せるので、やりがいと楽しさがありますね。」
3月に国内で行われたリオデジャネイロ・オリンピック・アジア予選にも出場した川村は、これまでは中堅の立場でプレーしていたが、今回の合宿ではリーダーの一人として、自覚を持って臨んでいた。オフザピッチでもムードメーカーとしてチームを盛り上げた。
【2017年、なでしこジャパンはサバイバルに突入する】
合宿は8日の午前中に終了し、解散となった。
4日間を通じてチームの雰囲気は良く、紅白戦などでは各選手の積極的なアピールも光った。
また、今回の合宿では、フィジカルコーチとして2011年のなでしこジャパンのワールドカップ優勝を支えた広瀬統一コーチの元、体幹やパワーアップのトレーニングを入念に取り入れていた点も印象深い。
攻守におけるチームのコンセプトを浸透させ、個々のパワーアップを並行して行いながら、なでしこジャパンは2019年のワールドカップを目指す。
高倉麻子監督の元、今年の5月に新生なでしこジャパンとして誕生したチームは、今年、アメリカとスウェーデンに遠征し、国内合宿も2度行ったが、今回の静岡合宿をもって年内の活動が終了した。
2016年、日本女子サッカー界はリオデジャネイロ・オリンピックのアジア予選敗退という屈辱を味わったが、良いニュースもあった。それは、U-17女子ワールドカップ準優勝と、U-20女子ワールドカップ3位という、育成年代の躍進と、新たな世代の台頭である。
そして、2017年、日本女子サッカーは新たなステージに進もうとしている。
なでしこリーグで活躍する国内組と海外組、そして、U-20ワールドカップを終えた新たな世代が加わり、なでしこジャパン入りへの競争もより激しさを増していく。
年内の国内の大会は、皇后杯のタイトルを残すのみとなった。
2016年の国内チャンピオンに輝くのはどのチームなのか、輝きを見せるのはどの選手なのか。
最後まで目が離せない。
http://www.jfa.jp/match/empressscup_2016/schedule_result/
(3)【選手コメント(トレーニングマッチ終了後/合宿終了後)】
に続く