Yahoo!ニュース

衝撃の「イカゲーム」世界的大ヒットに学ぶ、日本ドラマ海外進出の正攻法

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Netflix)

「イカゲーム」という不思議なタイトルのドラマが、今、世界中で話題になっているのをご存じでしょうか。

Netflix限定配信ドラマのため、まだNetflixの会員数が500万人程度といわれている日本においては、それほど大きな話題にはなっていませんが、この韓国発のドラマは、いまや世界中ですさまじい勢いで話題になっているのです。

参考:「イカゲーム」がNetflix最高峰に迫る納得理由

米国の大作映画に匹敵する検索数の増加

世界No1ヒットと言われる映画はたくさんありますし、世界で話題と書いただけでは「大袈裟だな」と感じる方も多いかと思われるので、衝撃のグラフをご紹介しましょう。

(出典:Googleトレンド 青色「Avengers」黄色「Star Wars」緑色「Parasite」赤色「Squid Game」の検索数)
(出典:Googleトレンド 青色「Avengers」黄色「Star Wars」緑色「Parasite」赤色「Squid Game」の検索数)

赤色が、Googleで「Squid Game(イカゲームの英語のタイトル)」が検索された回数。見事に跳ね上がっているのが分かると思います。

そして、比較対象として並べたのは、「青色:アベンジャーズ」「黄色:スター・ウォーズ」「緑色:パラサイト」の世界での検索数。

「イカゲーム」の検索数は、昨年アカデミー賞を受賞して話題になった韓国映画「パラサイト 半地下の家族」の検索数をあっさり上回り、2019年の「スター・ウォーズ」完結編公開のタイミングの「スター・ウォーズ」の検索並に急増しているのです。

さらには、2018年に全世界歴代興行収入1位の記録を更新した「アベンジャーズ/エンドゲーム」公開時の「アベンジャーズ」の検索数にもせまる勢いです。

もちろん、「イカゲーム」はNetflix限定配信のテレビドラマシリーズですので、映画と単純比較はできませんが、いわゆる韓流ドラマが日本で流行ったというレベルの盛り上がりではないことが伝わるのでは無いかと思います。

世界83ヶ国で1位を記録

なにしろ、「イカゲーム」は9月17日に配信が開始された後、10月2日にはNetflixがサービスを提供する83ヶ国全てでランキングのトップ1位を獲得。

これまでインド発のコンテンツしか1位にならなかったインドでも「イカゲーム」が1位になったというのが業界では話題になっているようで、Netflixのテッド・サランドスCEOが「非英語圏作品の中でいちばんの大作になるかもしれない」と話していたほど。

今もNetflixの各国の1位や2位に並び続けています。

(出典:FlixPatrol)
(出典:FlixPatrol)

当然、この話題の拡がりはSNSを通じて世界中で盛り上がっているようですが、最も象徴的なのはTikTokでの拡散ぶり。

大量の関連動画がTikTokにはアップされているようで、ハッシュタグ「#squidgame」がついている動画の総視聴回数は現時点でなんと320億回超え。

いいねが1000万以上ついている動画を大量にみつけることができます。

(出典:TikTok #SquidGameタグ検索)
(出典:TikTok #SquidGameタグ検索)

さらには劇中で使用されている緑色のジャージと白い靴が飛ぶように売れているそうで、Vansの白いスリッポンの売上はなんと「7800%」も増加したそうです。

参考:『イカゲーム』人気でVansの白いスリッポンの売り上げが7800%も増加!ジャージも人気に

日本の「カイジ」や「ライアーゲーム」も参考に

実際のドラマの内容については、本記事では詳細に書きませんが、漫画「カイジ」や映画「ハンガー・ゲーム」をご存じの方からすれば、韓国版「カイジ」や韓国版「ハンガー・ゲーム」という説明が一番分かりやすいかも知れません。

実際に、「イカゲーム」のファン監督は、この作品を構想する際に、それらの作品に影響を受けたことをはっきり言及されています。

「2008年に作品(『イカゲーム』)を構想した時期は私が経済的にしんどい頃で、ほとんど漫画喫茶で暮らしていたような頃でした。その時に(日本の)『ライアーゲーム』や『賭博黙示録カイジ』も読んだし、米映画『ハンガー・ゲーム』も見ました。」

参考:米CNNも「本当に最高だ」と絶賛…韓国発Netflix『イカゲーム』、これまでの「デスゲーム」と何が違うのか

そういう意味で、最近、日本のテレビ業界の方々でよく話題になっているのが「なぜカイジはイカゲームになれなかったのか」という議論のようです。

同様の議論は、韓国の映画「パラサイト」がアカデミー賞を受賞したときにも日本映画界で議論されていましたし、韓国のアイドルグループ「BTS」がアメリカのビルボード・シングルチャート1位を獲得した際に日本音楽界で議論されていました。

当然、様々な要因があると思いますが、最大のポイントは「最初から世界市場を狙っているかどうか」に帰結するようです。

海外進出の際にゼロから作り直してきた日本

そういう意味で考えると、実は今回の「イカゲーム」の大ヒットは、日本ドラマの海外進出にとって、非常に良いニュースと捉えることもできます。

従来、日本のテレビドラマや映画は、海外進出する際に言語が「日本語」であることや役者が「日本人」であることがハンデだと考えられてきました。

日本でヒットした映画やテレビ番組も、基本的には海外進出する際に、ハリウッドの俳優で撮り直すのが必須と考えられていたように思います。

その結果、「ゴジラ」は最初にハリウッドで映画化された際には、全く別物になってしまったという騒動もありました。

一方、映画「呪怨」においては、日本版の監督である清水監督が、アメリカ版「呪怨」もメガホンを取るというケースもありました。

いずれにしても、日本の映画やドラマを海外進出する際には、海外に向けてゼロから作り直すのが日本の動画コンテンツの「成功の方程式」だと考えられてきたわけです。

英語以外のコンテンツが世界的にヒットする時代

しかし、Netflixのような動画配信サービスの普及もあり、韓国映画「パラサイト」がアカデミー賞を取ったあたりから、明らかにその「成功の方程式」は変わりました。

映画「パラサイト」も今回のドラマ「イカゲーム」も、多くの国で韓国語のまま字幕で楽しんでいるファンが増えていると聞きます。

従来、アメリカ人は字幕の映画は観ないというのが通説でしたが、それも明らかに変わりつつあります。

実際にNetflixにおいても、初期のサービスの人気を牽引するコンテンツの1つだったドラマ「ナルコス」という麻薬組織を描くシリーズはスペイン語が中心でしたし、「イカゲーム」にも影響を与えたとみられるドラマ「ペーパーハウス」はスペインの放送局が制作したスペイン語のテレビドラマシリーズ。

さらに、フランスオリジナルのドラマ「ルパン」は、Netflix全作品の中で2位の視聴数を誇っているそうです。

今回の「イカゲーム」の大ヒットにより、もはや目の肥えた世界の視聴者には、言語や登場人物の国籍よりも、作品自体の面白さの方が重要な時代に突入したことが証明されたと言えるでしょう。

実は、Netflixでこんまりさんのドキュメンタリーが大ヒットしたことを考えれば、日本のコンテンツも既にヒットしているということもできます。

参考:こんまりメソッドの世界的大ブレイクから考える日本のコンテンツの未来

もはや日本のコンテンツも、日本語で日本の役者のまま「正攻法」で海外に展開できる時代になっているのです。

日本のドラマも次々に海外進出に挑戦中

実は日本のドラマ制作現場も、すでにその挑戦を始めています。

すでにNetflixで配信されている日本のドラマでも、「全裸監督」や「今際の国のアリス」など海外のトップランキング入りするものが出てきています。

また、今年カンテレで放映された「大豆田とわ子と三人の元夫」は最初から海外市場まで見据えたドラマ作りとしての挑戦の第一弾だったそうです。

参考:「海外も見据えたドラマ作りに舵を切る」『大豆田とわ子と三人の元夫』佐野亜裕美Pの決断

さらには、本日放送が開始されるドラマ「日本沈没」をはじめとしたTBSの新作ドラマは、テレビ配信と同時にNetflixで世界配信されることが発表されています。

参考:TBS日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』をNetflixでも配信 地上波放送開始の3時間後に

アニメ「鬼滅の刃」もNetflixなどの動画配信サービス経由で全世界に配信されたことにより、アメリカでの劇場版「鬼滅の刃」の観客動員に成功していました。

当然、ドラマにおいてもそういった効果が今後出てくることが期待できます。

参考:映画「鬼滅の刃」の海外での大ヒットで考える、日本アニメの新しいヒットの方程式

今回「イカゲーム」が韓国の役者を中心とした韓国語のドラマで世界制覇に成功したことを考えれば、日本の役者を中心とした日本語のドラマが、「イカゲーム」同様に世界で受け入れられる可能性は大きく拡がっていると考えられるわけです。

実は「イカゲーム」のファン監督が、2008年ごろに、このドラマの脚本を売り込んだ際には、韓国の地元のスタジオはどこも相手にしてくれなかったという逸話もあるそうです。

日本にも、「イカゲーム」のように世界で認められる脚本が、きっと埋もれているはずです。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

徳力基彦の最近の記事