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令和元年度「子どもの事故防止週間」実施に寄せて

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
消費者庁ホームページより

 来週7月22日から28日まで、「子どもの事故防止週間」が実施される。実施主体は「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議」(関係府省庁が緊密に連携して子どもの事故防止に取り組むことを目的に、2016年6月に設置された。連絡会議を構成する府省庁は、内閣府、警察庁、消費者庁、総務省消防庁、文部科学省、厚生労働省、 農林水産省、経済産業省、国土交通省、海上保安庁。以下、「連絡会議」とする)である。

今年のテーマ「お出かけや外での遊びの際には安全対策を」

 この「連絡会議」のホームページには今年の事故防止週間のテーマが示され、テーマに沿ったポスターも掲載されている。合わせて会見も開かれたようで、ニュース映像になっていた(「日テレニュース24」より)。

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令和元年度「子どもの事故防止週間」ポスター(消費者庁ホームページより)

 

 ポスターには、海水浴、釣り、チャイルドシート、ペダルなし二輪車の4点のイラストが描かれている。海水浴のイラストは、いわゆる「フロート」に乗った子どもが沖に流されそうになって保護者が慌てている様子が示されているが、初めてこのイラストを見たとき、強い違和感を覚えた。このようなフロートは時としてあっという間に沖に流されてしまうことがある。ライフジャケットも着用させず、ロープも持たせていない状態のイラストを「事故防止週間」のポスターに載せることに違和感を感じたのである。

 その後、フロート使用中の注意喚起と上記の会見を見て、このフロートのイラストは連絡会議が推奨する遊び方ではなく、「こんなことが起きるかもしれませんよ」という警告だったということがわかった。同じポスターに掲載されている他の3点はいずれも連絡会議が推奨する「良い事例」を示したイラストだったので、海水浴のイラストも同じだろうと思い込んだのである。

 意図を理解してからあらためて海水浴のイラストを見てみた。ライフジャケットを着用させていない、ロープも持たせていない、保護者が手の届かないところにいる・・・といったことは、「警告」なので仕方がないかもしれない。しかしイラストに添えられた「海、川、プールなどでは子どもから目を離さないで!」というコメントには同意しかねる。海、川、プールなどにおける子どもの溺れを予防するためにもっとも有効なのは、身体に合ったサイズのライフジャケットを正しく着用させることである。奇しくもこのイラストが示しているように、目を離さなくても子どもはあっという間に沖に流されたり、水中に沈んだりする。「目を離さない」は予防策としてほとんど意味がないのである。

ライフジャケットの着用促進を

 7月17日に消費者庁、海上保安庁、国民生活センターが連名で「海水浴での「フロート使用中の事故」に気を付けましょう!」と題するニュースリリースを発表している。そこには「事故を防止するためのアドバイス」として

・保護者はフロートに乗った子どもから目を離さない、手を離さないよう にしましょう。

・ライフジャケットを正しく着用させましょう。

と書かれている。せっかく大事なことを書いているのだから、保護者など一般の人が見る可能性の低いニュースリリースではなく、ポスターのコメントにそれを書いてはいかがか。

 そしてもう一点。ライフジャケットは使用頻度の低さもあり、なかなか普及が進まない。子どもの命を守るという意味ではチャイルドシートや自転車用ヘルメットに勝るとも劣らない重要なデバイスであるが、法制化されていないのが実情である。国は「ライフジャケットを正しく着用させましょう」と呼びかけるだけではなく、実際に子ども達が着用できる仕組みを整えるべきだ。法制化が難しいのであれば、補助金でもよい。まずは実効性のある施策を打ち、「正しく着用させましょう」という呼びかけはあくまで補完的に行うべきである。

 この夏こそは子ども達が水の事故に遭わないように・・・という思いは誰もが持っているはずだ。国がそれを形にするならば、Safe Kids Japanも全面的に協力する。共に一歩前に進もうではないか。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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