長く厳しい冬を越えて、今年もボストンに野球が戻ってきた。
観測史上最高の積雪を記録したボストンに、ようやく待望の春が来た
ボストンにようやく野球が戻ってきた。4月13日。開幕から敵地での2カードを4勝2敗とア・リーグ東地区1位タイの順調なスタートを切ったレッドソックスが、ナショナルズを相手に本拠地フェンウェイパークでの地元開幕戦を迎えた。
試合に先立って行われたセレモニーでは、両軍のスタッフ、選手が整列。昨年10月に死去したメニーノ・ボストン前市長と2月に他界した元三塁ベースコーチ、ウェンデル・キム氏への黙祷が行われた後、今季のスーパーボウルを制したNFLニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブラディーQBが始球式を務めた。試合開始3時の気温は今季最高の21度に上昇した。満場の37203人が詰め掛けた球場には春の日差しが眩しく降り注ぎ、半袖姿も数多くみられた。
「ホームに戻ってくるのは、いつだって気分がいい。地元ファンの大歓声ほど気持ちのいいものはない。今年のニューイングランド地方の冬はいつになく長かった。地域の人々にとっては厳しい季節だったが、今日、こんな素晴らしい天候に恵まれて開幕戦を迎えて、気候的にも精神的にも新しい気持ちになれるだろう」と、試合前の記者会見でファレル監督はしみじみと言った。
栄光のワールドチャンピオンから屈辱の東地区最下位に転落した昨シーズン。9月28日に行われたシーズン最終戦(対ヤンキース戦)から実に197日が経過していた。その間、ファンの落胆と失望に追い打ちをかけるように、昨冬のボストンは記録的な大雪と寒波に見舞われた。年が明けてからは3日に1度のペースで雪が降り続け、ウェザーチャンネル公式サイトによると、ボストン市内の積雪量は107・6インチを記録した95〜96年の記録を塗り替え、3月29日の時点で110・6インチの観測史上最高記録を達成。大リーグ開幕後となる4月8日にも雪が降る異常気象だった。
積雪だけでなく2月は大寒波で日中の最高気温が氷点下という日々が何日も続いた。学校では積雪や厳寒による学級閉鎖が続き、光熱費が庶民の生活を圧迫。積雪による屋根の破損や壁への浸水など家屋に被害を受けた人も多い。
今年の大リーグは通常より1週間開幕が遅かった上に、開幕2カードを敵地で迎える日程だったため、実質4月中旬の開幕となった。13日の地元開幕は1999年以来となる遅い日付。暦上では春になった後もコートが手放せない日が続いた今年のボストンは、チャールズリバー沿いの桜並木も蕾さえないが、「プレーボール!」の掛け声を聞くと、野球好きの街はにわかに活気付く。地元開幕を待っていたかのような気温の上昇がシーズン到来を祝福しているようだ。球場には、ソーセージの焼ける香ばしい香りが漂い、ピーナツ売りの声が響き渡る。これがなくては、ボストンの春は始まらない。
上原復帰、田沢好投。新しいチームの顔ぶれが揃った。
試合は序盤からレッドソックスが圧倒した。初回に中堅手のベッツが味方ブルペンに悠々入りそうな本塁打をジャンピングキャッチ。先制点を防いで大歓声を浴びると先頭打者で四球を選んだその裏、主砲オルティスの打席で二盗。相手守備が右翼寄りに極端なシフトを敷いたために三塁が空っぽになっていることを確認すると一気に三塁を陥れるスーパープレーをみせた。大リーグで史上11人目という1プレー2盗塁の荒技で先制のホームを踏み、二回には3ラン本塁打。新しいスター誕生を予感させる暴れぶりだった。8回攻撃の前に定番の「スイートキャロライン」が流れると人々は慣れ親しんだメロディを大合唱。最後は二番手でマウンドに上がった田沢純一投手が1回3三振を奪う好投で試合を締めた。キャンプ中に左太もも裏を痛めて開幕を故障者リスト入りして迎えた守護神の上原浩治投手も戦列復帰。出番こそなかったが、ブルペンで待機した。9−4の快勝でチームは単独首位浮上。幸先良い地元開幕勝利に、試合後のクラブハウスのムードも明るかった。
「地元の開幕戦ってのは、本当に楽しいもんだ。今年から初めてボストンにきた選手が球場の凄い盛り上がりにびっくりしていたので、俺は言ってやったよ。ここでは毎試合こんな感じだから、早く慣れるしかないよってね」
六回にセンターバックスクリーンへの特大今季2号ソロを放った主砲オルティスが可笑しそうに笑った。Baseball is back in town. 季節が巡ってボストンに本物の春がやってきた。