トムブラウンとの訴訟に見るアディダスの3本線商標への強気な姿勢について
「トム ブラウン、スリーストライプスの商標を巡る訴訟でアディダスに勝訴」という記事を読みました。トムブラウン(Thom Browne)とはお笑い芸人ではなくニューヨーク発の高級ブランドです(靴下が2万円くらいするらしいです)。アディダスがこのトムブラウンに対して、有名なスリーストライプスの商標権の侵害訴訟を提起したが陪審員が侵害はないと評決したという話です(まだ一審なので今後どうなるかはわかりません)。
トムブラウンとアディダスは全然似てない(そもそも商品ジャンルが違う)とお考えの方もいると思いますが、訴状から引用したタイトル画像を見ると、トムブラウンがスポーツウェア分野にも進出し、4本線、あるいは、トリコロールの3本線を商標として使用し始めたことをアディダスが問題にしたわけです。気持ちはわからないことはないですが、それでも、この訴訟の陪審員と同様に、私個人としても商標権侵害とするのはちょっと無理があるように思えます。
この件に限らず、今までにもアディダスは3本線商標の権利に関してはかなり強気でした。欧州において、靴の横やパンツの横だけではなく、場所や大きさに関係なく、あらゆる3本線を商標登録しようとして認められませんでした(関連過去記事)。日本において、丸紅フットウェアの2本線の登録商標に異議申立を請求して棄却されています(関連過去記事)。アディダスの3本線商標の周知性が極めて強く、ブランド価値が高いことに異論はないとしても、無理目の行動が多いと考える方もいるかもしれません。
一般に価値の高いブランドを有するグローバル企業がちょっと無理目の権利行使をするのはアディダスに限った話ではありません。たとえば、日本において、アップルがピコ太郎(エイベックス)のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)の登録商標が、”APPLE PENCIL”に類似しているとして異議申立した事件(請求棄却)(関連過去記事)などがありました。ピコ太郎とアップルを誤認混同する人はまずいないと思います。
これは、どうせ訴えても(請求しても)認められないであろうと黙認していると、肝心なときに権利行使が行いにくくなるからです。
最近の例で言うと、クリスチャンルブタンの赤底靴の事例があります。同社の靴の赤底は海外諸国では周知性を認められ、商標登録されていますが、日本では色彩商標の登録もできず(関連過去記事)、不正競争防止法による権利行使も認められていません(関連過去記事)。これは、日本においてルブタン以外にも赤底の靴がある程度流通しているにもかかわらず、ルブタン社が法的措置を取ってこなかったことが理由の1つになっています。
他にも、ギブソンが、欧州でギターのフライングVの形状の商標登録を取り消された事例(関連過去記事)、日本でレスポールギターの形状について不正競争防止法でフェルナンデスを訴えて敗訴した事例(関連過去記事)でも、ギブソン社が、市場の類似品を放置していたことが大きな理由になっています。
ということで、高い価値があるブランドを守りたいのであれば、仮に99%負けると思っていても権利行使(訴訟、異議申立等)を行い、知財を守るという意思を常に示しておくことが重要ということになります。その意味では、アディダスの行動は合理的です。