任天堂、米国でも対パルワールド訴訟を着々と準備か
今年の9月に「任天堂は米国でもパルワールドを訴えられるのか?」という記事を書いています。任天堂がパルワールドの運営企業(株式会社ポケットペア)に対して日本での特許権侵害訴訟と同等の訴訟を米国で仕掛けるべく特許の準備を着々と進めているという件です。日本の訴訟で使用された特許権と同系列の特許出願2件が米国で審査中です。
1件目は、公開番号US20240286040A1の出願です。日本の特許7545191号に類似しており、キャラクターにプレイヤーが乗って空を移動するアイデアを中心とした特許出願です。
こちらには、米国特許法112条(記載要件)と103条(進歩性)によるNon-Final Rejection(非最終拒絶)が出ていました。審査官インタビューが行なわれた後に、クレームの補正が行なわれましたが、12月4日付で、再度103条(進歩性)を理由としたFinal Rejection(最終拒絶)が出ています(審査官インタビューまでやったのにこうなるのは珍しいと思います)。おそらく、継続審査要求(RCE)により遅かれ早かれ特許化されると思われますが、訴訟において意味のあるような権利範囲を維持できるかどうかは不透明です。
2件目は、公開番号US20240278129A1の出願です。日本の特許7528390号に類似しており、戦闘中に戦闘キャラクターをモンスターに投げて戦闘させるアイデアを中心にした特許出願です。
この出願に対しては米国特許法101条(特許適格性)を理由としてNon-Final Rejectionが通知されていました。抽象的アイデアは特許できないという規定ですが、ソフトウェア関連特許の場合、どこからどこまでが抽象的アイデアになるかの予測可能性が低く「審査官ガチャ」的要素が強いです(前回の記事で101条の「審査官ガチャ」ぶりに触れたところ、他の弁理士先生や知財部の方から「そうだそうだ」という複数の賛同のご意見をメール等でいただきました)。実際、この2件の特許出願の英文クレームの構成はよく似ている(同じ特許事務所が担当しています)にもかかわらず、審査官によって、片や特許適格性がないと言われ、片や特許適格性がまったく問題にされないということを見れば「審査官ガチャ」ぶりは明らかかと思います。
こちらは結構手こずるかと思っていましたが、クレーム補正により12月11日付けであっさり特許査定が出ています(特許US12179111)。クレームにある程度実装寄りの限定を加え、かつ、従来のゲームと比較した優位性を主張することで、特許適格性の問題がクリアーされました。パルワールドという侵害被疑物件を睨みながらのいわゆる「嵌め込み」での補正なので充足性も問題ないのではと思います。
この出願の審査官インタビューの結果は「抽象的アイデアは特許化しない」という当たり前の結論で具体的な成果がなかったようなのでちょっと意外でした。範囲が広すぎて特許査定するのは躊躇するが新規性・進歩性を否定する適切な先行文献が見つからない(あるいは探している時間がない)のでまずは特許適格性で拒絶するというようなことをやっているのではと「邪推」したくなってしまいます。
いずれにせよ、任天堂は、日本の特許権に相当する米国特許権を少なくとも1件は得られることになりましたので、米国での訴訟も十分に考えられる状況になったと思います。米国では、陪審員裁判となる可能性が高いですし、懲罰的賠償制度もありますのでどうなるかは興味深いところです。