ラーメン「AFURI」対日本酒「雨降」の商標権争いの最新情報
今年の4月に「ラーメンAFURI、日本酒メーカーの商標登録無効審判審決取消訴訟で敗訴の意味」という記事を書いています。ラーメンチェーンのAFURI株式会社が日本酒メーカーの吉川醸造の商標登録「雨降」(第6409633号)に対して行なった無効審判の審決取消訴訟に敗訴した(無効にできなかった)という話です。
その記事中では、「AFURI社は最高裁に上告できますが事実上確定だと思います」と書いていましたが、その後、上告はされましたがやはり不受理となりこの判決は確定しました。その旨を吉川醸造がリリースとして発表しています。「AFURI」と「雨降」は商標として類似しない、「雨降」はAFURI社の業務との混同を招くことはないという結論になりましたが、妥当だと思います。ラーメンならまだしも日本酒市場においてAFURIという商標が周知・著名とは言い難いからです。
前回の記事にも書いたとおり、両社の争いの本丸は、AFURI社が吉川醸造の日本酒に雨降やAFURIの文字を使用することの差止と損害賠償を求めた(上記リリースによると売上の30%を要求したとのことです)商標権侵害訴訟です。こちらはまだ進行中ですが具体的状況はウェブ等ではわかりません。その商標権侵害訴訟の前提として、吉川醸造の”防具”の一つである「雨降」の商標登録を無効化しようとして失敗したのが今回の結果ということになります(吉川醸造完全勝利のようなニュアンスのXの投稿が見られますが不正確です)。
吉川醸造のリリースでは触れられていませんが、今回の商標権侵害訴訟に関連して、相手の”防具”や”武器”を無効化するための審判3件が特許庁に係属中です。この審判が確定するまで、商標権侵害訴訟の方は中止(待ち状態)になっているものと思われます。また、審決が出ても、不服のある側は知財高裁に審決取消訴訟を提起でき、さらに、知財高裁の判決にも不服があれば(今回のように)最高裁に上告できますので、すべてが確定して商標権侵害訴訟が再開するまでにはかなりの時間がかかるでしょう。
1件目および2件目の審判は、吉川醸造が請求したAFURI社の登録商標「AFURI」(6245408号)および「AFURI/阿夫利」(6609896号)の無効審判です。いわば”武器”を無効化するための審判です。審判も審決が出るまでは外部からは内容がほとんどわからないのですが、何を根拠に無効審判を請求しているのかは興味があるところです。
3件目の審判は、AFURI社が請求した吉川醸造の登録商標「雨降」(6409633号)の取消審判です。これは”防具”を無効化するための審判であり、上記の無効審判失敗に続く第2弾ということになります。今年の7月に請求されており、前回の記事執筆後の新情報となります。商標の取消審判には不使用取消、不正使用取消、代理人等による不正登録の取消の3種類がありますが、今回は不使用取消と代理人等による不正登録はあり得ないので、不正使用取消ということでしょう。不正使用取消は、登録商標の類似範囲において故意に出所混同を生ずる恐れがある使用をした場合等に請求できます(故意が要件であることに注意)。これは、吉川醸造が日本酒の瓶において「雨降」の登録商標そのままではなく、「雨降」の筆文字と「AFURI」を組み合わせたラベル(タイトル画像のような形態)を使用していることを理由とするものだと思います。
商標の不使用取消審判は日常茶飯事ですが、不正使用取消審判はそれほど頻繁ではありません。よく知られた事例としては、"Champ Euro"なる商標登録を有していた会社が有名なChampionのマークに寄せた形態で使用(下図参照)したため、Championの権利者に不正使用取消審判を請求され、商標登録が取り消された審決(取消2012-300441)があります(不正使用が禁止されるだけではなく元になった商標登録まで取り消される点に注意下さい)。
この事例は故意で誤認混同を狙ったことが明らかですが、今回の件もそうかというと、上述のとおり、AFURIが日本酒の分野で周知・著名とは言えないことにより、立証はそう容易ではないのではと思います。
なお、吉川醸造は、「雨降」と「AFURI」を組み合わせた商標(タイトル画像参照)も出願(商願2023-032269)していますが、前記のAFURI商標登録(6245408号)に対する無効審判確定まで審査が待ち状態になっています。この出願の審査が再開され、もし無事登録となれば吉川醸造は(過去の損害賠償の話は別として)今後の商標使用についてはかなり安泰となります。