シリアとイラクへのトルコの激しい攻撃がロシアの爆撃を誘発する
トルコは11月19日深夜、シリア北部とイラク北部に対して激しい軍事攻撃を開始した。
「鉤爪」作戦
「鉤爪」作戦と名づけられたこの軍事侵攻は、13日にイスタンブールで発生した爆破テロへの報復と位置づけられている。この爆破テロでは、シリア出身のクルド人(シリア人、あるいはクルド人の名誉のためにより厳密に言うのであれば、クルド民族主義者)のアフラーム・バシールを名乗る女性が容疑者として逮捕された。
バシール容疑者は、取り調べに対して、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)のメンバーであることを自供、またその後の取り調べで、彼女がシリア北部のアレッポ県マンビジュ市で「指示」を受け、トルコ占領下のいわゆる「オリーブの枝」地域の中心都市である同県のアフリーン市を経由し、トルコに潜入、犯行に至ったことが明らかになったとされた。
マンビジュ市は、PKKの系譜を汲む民主統一党(PYD)が指導する自治政体の北・東シリア自治局が支配する都市である。PYDは、イスラーム国に対する「テロとの戦い」を口実としてシリア領内に違法に部隊を駐留させている米国の軍事的後ろ盾を得て、シリア北部および東部の広範な地域を実効支配している。
トルコ軍は、19日深夜から20日未明にかけて、この北・東シリア自治局とシリア政府が共同統治するハサカ県、ラッカ県、アレッポ県北部の各所に激しい爆撃と砲撃を加えた。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、一連の攻撃による死者は少なくとも35人、負傷者・行方不明者も30人以上に及んだ。死者の内訳は以下の通り:
●人民防衛隊(YPG)(PYDの民兵)戦闘員5人
●女性防衛隊(YPG)(PYDの民兵)戦闘員1人
●シリア民主軍(YPG主体の武装組織)戦闘員および北・東シリア自治局内務治安部隊(アサーイシュ)隊員8人
●メディア関係者1人
●シリア軍兵士16人
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は21日、カタールから帰国途中の機内で記者らに対して、作戦にかかわる部隊が協議を行い、それに応じた措置が講じられるとしたうえで、「航空作戦に限られない」と強調した。
また、これまでに無人航空機(ドローン)を含む戦闘機約70機が作戦に参加し、イラク領内140キロの地域で45の標的を、シリア領内20キロの地域で44の標的を破壊したと戦果を強調した。
これに対して、YPGの傘下組織であるアフリーン解放軍団は20日、トルコ南部のキリス県の国境の町オンジュプナルの警察分所を越境砲撃し、警官4人を殺害、8人を負傷させた。また、トルコ占領下のいわゆる「ユーフラテスの盾」地域内のダービク村(アレッポ県)に設置されているトルコ軍基地に対しても砲撃を加え、兵士多数を死傷させた。21日にもガジアンテップ県の国境の町カルカムシュが越境砲撃を受けて、3人が死亡した。この攻撃もYPG、シリア民主軍、あるいはアフリーン解放軍団によるものと見られる。
攻撃の手を緩める気配が見られないにもかかわらず、諸外国、なかでも欧米諸国や日本からはトルコを非難する声は上がっていない。
ロシアが爆撃を再開
こうしたなか、ロシアもシリアでの爆撃を再開した。
シリア人権監視団などによると、ロシアは21日、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構によって掌握されているイドリブ県バーブ・ハワー国境通行所一帯、サルマダー市一帯、バービスカー村一帯、国内避難民(IDPs)のテントが乱立するアティマ村近郊に少なくとも6回の爆撃を実施した。
ロシア軍はまた、シャーム解放機構が活動を続けるラタキア県ド山地方のカッバーナ村一帯に対しても爆撃を加えた。
トルコで活動する反体制系メディアのシリア・テレビは、ロシア軍爆撃による爆音が響くなか、不安そうな表情を見せて怯える子どもたちの映像を公開した。
しかし、ウクライナで続いているロシア軍の攻撃とは対照的に、ロシアの爆撃がトルコの攻撃と抱き合わせで行われていることへの関心は不思議なほどに低い。