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紅白歌合戦 誰がパフォーマンス時間を長く与えられたのか 4分越えていたNHK推し10組

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

いつも紅白歌合戦は急いている

紅白歌合戦は、いつ見ても時間がなさそうだ。

2022年の紅白は、特にそう見えた。

お笑い芸人がずいぶんたくさん画面に出ているなとはおもったが、ほとんど喋らせてもらえない。

芸人に喋らせて予定を少しでも超えたら、目も当てられないからだろう。

それぐらいかっちりスケジュールが組まれているようで、想像するだけで大変そうである。想像しないほうがいい。

大泉洋を抑える役割を果たした橋本環奈

でも、大泉洋を抑えるのに今年は橋本環奈を起用していて、その登用のみごとさにしばし感心していた。

運動部の真面目なマネージャーか、クラスのメガネ副委員長のようで、はしゃごうとする大泉君をテキパキ仕切っていて、頼もしかった。

橋本環奈はああいう役割がすごく合う。

歌手は歌唱後は喋らせてもらえない

歌い終わったら、間髪を入れず「ありがとうございました」と入ってすぐに次に移るのが橋本環奈、櫻井翔、たまに大泉洋の役どころであった。

歌手も歌唱後はほぼ喋らせてもらえない。(そのぶん歌唱前に喋る)

歌い終わりは、後奏のあるうちに「どうもありがとう!」「よいお年を!」というのが精一杯であった。

パフォーマンス時間は前半は2分ちょっと

歌手のパフォーマンス時間は、前半はだいたい2分少々であった。

まいどのことながら、すごく短い。

シロウトだって2分ちょっとでカラオケ交代させられたら、えっと絶句して不満を抱く人が多いのではないだろうか。

でも、紅白歌手は黙って頭を下げるばかりだ。

あなたも紅白歌手をめざそう。

前半と後半の時間配分は偏っている

紅白歌合戦は前半後半に分けられている。

前半が午後7時20分に始まって8時55分まで。

ニュースがあって後半は9時から11時45分まで。

前半は95分、後半は165分。

でも出場歌手数は前半23組、後半29組。

だから前半はおそろしく急いでいた。みんな2分ちょっとでお願いします、巻きの巻き巻きで、という感じである。

審査員はついぞ固まって紹介されなかった

そもそもオープニング、司会の3人は自己紹介もしないまま、SixTONESが歌い始めたのは開始1分20秒後だった。

かなり生き急いでいる。

審査員ももちろん紹介されていない。

というか、審査員は最後まで揃って紹介されることがなかった。

(郷ひろみ歌唱のあとに名前はテロップで10人紹介されたが、そのときでも名前を呼ばれたのは三人だけであった。羽生結弦くんが黒柳さんにマイクを渡してあげて微笑ましかったけど)

昔とはずいぶん違ってきているようだ。

いまはもう「紅」と「白」の対決という部分は、できれば無視したいくらいに薄められているのだろう。

途中集計でどっちが勝っているか、という発表もない。

紅と白が実は競っているのだ、ということはあまり触れられなかった。

審査員は何を審査しているかがきちんと示されない

だから「審査員」とは何を審査しているのだ、ということを示さなくなっているみたいだった。

白が勝つのか、紅が勝つのか、ことしは紅ですよ、いえいえ白ですよ、いや緑黄じゃないですかね、そんな色ありませんよ、いやじつはこちらに緑黄色社会さんが、というような無駄なやりとりもなくなった。

まあいいんだけど、そういう気分ながら「合戦」と銘打っているのは、どこかで何かが決定的に苦しくなるから、どうにかしたほうがいいとおもうけど、まあ、よけいなお世話だね。

郷ひろみはあれだけ走ってパフォーマンスに3分使っていない

始まってしばらく、みんな歌唱時間は2分ちょっとであった。

最初の8組のパフォーマンス時間を並べてみる。

(以下、歌唱時間は個人計測によるもの。計測しかたによっては1秒程度の誤差は出ます)

SixTONES 2分18秒

天童よしみ 2分04秒

緑黄色社会 2分02秒

郷ひろみ  2分44秒(あんなに走ったのに)

なにわ男子 2分05秒

水森かおり 2分19秒(謎解きだったのに)

LE SSERAFIM 2分21秒

Saucy Dog 2分15秒

歌い始めてからお湯を入れてたら年越し蕎麦は出来上がらない

だれも3分以上歌っていない。

誰かが歌い始めたところで、カップ麺の年越しそばにお湯を入れても、歌い終わったときにはまだ食べられない。

きつねうどんにしてしまったら(5分ってのも多いから)、2曲ぶん終わってもまだ食べ始めないほうがいい。(カップ麺は書いてある時間を各自確認しましょう)

2023年を控えて、駆け抜けるように紅白は始まったのであった。

前半で3分越えたのは1組だけ

前半で3分を越えたのは、世界の終わりだけ。(ちゃんとした表記はSEKAI NO OWARIです)

ただ後半になると「企画もの」が登場してきて、ここで時間を使うのだ。

(前半の「企画」は「THE LAST ROCKSTARS」1つだけ)

「企画もの」は紅組にも白組にも属さないため、そのパフォーマンスは紅と白の「合戦」に影響はない。

けん玉127人は144秒と少しでやりきっていた

後半最初は、ワンピースの世界から「ウタ」ちゃんが出てきて2分53秒、次いでキングヌー(King Gnu)が3分45秒、少しずつ長くなっていく。

ただその次は「けん玉」の三山ひろしで、世界記録を狙っているわりには歌唱時間は2分24秒と短かった。

つまり144秒で127人連続けん玉をやらせていたのだ。

けん玉の人たちが巻いてくれたおかげか、大泉洋と橋本環奈が向かい合ってピノキオ世界を歌いだして始まった「ディズニースペシャルメドレー」はたっぷり時間がとってあった。

6分50秒だ。

複数のパフォーマーが出演し、最後はディズニーシーのメデティレニアンハーバーでMISIAがたっぷり歌って贅沢な時間でした。

「企画もの」には時間がたっぷり使われる

後半には「企画」が立て続けに展開する。

また、時間をたっぷり使うパフォーマーも多くなっていった。

7時8時台はテンポ良く、9時10時11時台は少しゆっくりと聞かせる。

紅白歌合戦はそういう構成になっている。

もっとも時間をもらっていたのは桑田佳祐の一味

では2022年紅白では、だれが多く時間をもらっていたのか。

パフォーマンス時間が長かった順を並べてみる。

複数曲を歌ったり、メドレーだったりする場合は、最初の歌い出しから、最後の曲を歌いきるまでの時間を計っている。途中のMC的なタイムをふくめて、その時間帯はそのグループのものだからだ。

桑田佳祐が寸劇じみた喋りで歌っているのも入れてある。

では2022年紅白歌合戦。時間の長かったパフォーマンス順。

1;10分00秒 桑田佳祐 feat. 佐野元春,世良公則,Char,野口五郎★

2;7分09秒 VAUNDY(バウンディ)

3;6分50秒 ディズニースペシャルメドレー ★

4;5分56秒 安全地帯★

5:5分32秒 松任谷由実 with 荒井由実★

6;5分31秒 MISIA

7;4分43秒 福山雅治

8;4分17秒 あいみょん

9;4分09秒 藤井風

10;4分00秒 星野源

(★印は「企画」もの)

これが2022年にNHKが大事にした歌唱およびパフォーマンスである。

VAUNDYはソロで歌った部分が3分40秒、後半、milet(ミレイ)とAimer(エメ)と幾田りらを加えて4人で歌った部分は3分14秒、通しだと7分を越えていた。(ただ、前半部分は白組の歌手、後半は紅組の歌手に分けられていた)

また純烈が出ていた時間を一本と見ると4分を越えて長いのだが、実質、純烈パートと有吉&ダチョウ倶楽部パートに分かれていたので、純烈が1分32秒、有吉が2分37秒と別々にランキングしている。

長いほうから数えて11組目はもう3分台になるわけで、あとは3分台がそこそこと(14組)と2分台がずらっと(24組)並ぶことになる。

1分台はNiziUの1分52秒と、純烈の1分32秒の2つあった。

NHKの推しは「VAUNDY、あいみょん、藤井風、星野源」

5分以上の企画ものが4つあって、これで28分を越えている。

また最終歌唱の「MISIAと福山雅治」は二人合わせて10分、という時間配分だったようだ。

それを差っ引くと、NHKが時間的に優遇していたのは、まずVAUNDY(バウンディ)、あとは、あいみょん、藤井風、星野源ということになる。

この4人が、いまのNHK一押しということではないだろうか。

VAUNDY、あいみょん、藤井風、星野源だ。

2022年、NHKとして「幅広く聞かれる歌手」として認めていたのはこの4歌手だったとおもわれる。

60歳台のパフォーマンスが長いという日本の実情

ただ「企画ものとして平和に歌っている歌手」と「白組や紅組の戦士として歌っている歌手」の違いは、いちいち司会者が区分けてくれていない。

見ているほうは、区別せず、同じように見てしまう。

その場合、企画モノ4本で28分というのは、かなり長く感じる。

(NiziUの15本ぶんである)。

桑田佳祐、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎、安全地帯、松任谷由実という一団で30分近かったのだ。

みんな1950年代生まれの歌手たちで、60歳台である。

その世代がもっとも幅を利かせていた紅白歌合戦だったと言えるだろう。

歌手集団として見ると、年齢層はかなり高めである。

たぶん、日本の実像を反映しているのだ。しかたない。

でも、紅白見ていて楽しいのは、若い歌手でも出演者はいつも嬉しそうにしているところである。

そういう姿を見ていると、年末向けの番組だなとおもう。

リアルタイムで見ないとほぼ意味を持たないところも、紅白の不思議な魅力だろう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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