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「中古ゲームソフトのニセモノ」は許さない 真贋をチェックする査定現場は

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
中古品を査定するBEEPの小村方伸氏(※筆者撮影。以下同)

今年2月に、拙稿「なぜ『中古ゲームソフトのニセモノ』が蔓延? その実態は」でご紹介したように、近年は本物そっくりに偽造された中古ゲームソフトが市場に多数出回っている。

そんな状況にあって、中古ゲームを扱うゲームショップでは、日々どのようにして客が持ち込んだ商品を査定し、真贋(しんがん)をチェックしているのだろうか? 埼玉県羽生市にある中古PC・ゲーム専門店、BEEPの出張買取班リーダー小村方(こむらかた)伸氏に話を聞いた。

本社の倉庫には、全国のユーザーから送られてきた膨大な数の買い取り商品が積まれていた
本社の倉庫には、全国のユーザーから送られてきた膨大な数の買い取り商品が積まれていた

情報を日々どん欲に収拾 一人前になるまで1年かかる査定業務

本社の倉庫にうず高く積まれた商品の数とともに、筆者がまず驚かされたのは小村方氏のゲームの知識量だ。

「主にネットで、日々情報を集めながら研究しています。元々ゲームに関するサイトを見るのが好きなので、暇さえあれば動画サイトやSNSをよく見ています」という小村方氏は、BEEPで査定の仕事を始めて今年で5年目となる。まだ20代の青年でありながら、5歳のときからスーパーファミコンやゲームボーイなどを遊んだ経験を持ち、生まれる前に発売されたファミコン用ソフトやアーケードゲームにまで精通しているのだからすごい。

では、ニセモノ中古ソフトに関する情報はどうやって集めているのだろうか?

「実際に持ち込まれたニセモノは、写真を撮影するなどしてデータ化し、スタッフ間での情報共有も欠かさずに行っています」(小村方氏)

小村方氏によると、近年ニセモノが多いのはスーパーファミコンのほかPCエンジン、メガドライブのプレミア価格が付いた中古ソフトとのこと。オークションサイトでも、「海外製になります」などと出品者が説明したニセモノがよく出回っているそうだ。

ほかにも現在では、メーカーがキャンペーン賞品として限定生産した非売品や、未発売ソフトのROMデータを不正に入手してパッケージ化し、正規品であるかのように装ったニセモノも流通しているので、査定スタッフに求められる情報は実に多岐にわたる。

「本物が手元にあれば比較しながらチェックできますが、本物がない高精度のニセモノに関しては、説明書の日本語表記におかしな箇所があるのを自力で発見したり、動画サイトで情報を得ることもあります。未開封のまま持ち込まれたソフトは見分けがつかないことがありますので、その場合は査定不可能であることをお客様に説明してご返却しています」(小村方氏)

特にプレミア価格が付いていたり真贋の判別が難しいソフトは、分解して中身をチェックすることもあるというのだから、ソフト1本の査定をするだけでも実に手間が掛かる。

「やはり値段が高い商品の査定は慎重になりますね。分解するのは、もうすっかりクセになっています(笑)」(小村方氏)

査定に万全を期す場合は、特殊なドライバーを使用してカセットを分解する
査定に万全を期す場合は、特殊なドライバーを使用してカセットを分解する

分解して、中に入っている基板や部品がメーカー純正品かどうかなどをチェックする(※写真のソフトは本物)
分解して、中に入っている基板や部品がメーカー純正品かどうかなどをチェックする(※写真のソフトは本物)

なおBEEPでは、小村方氏のほかにも2名の査定スタッフがおり、それぞれが得意分野を担当する形で業務を行っている。同店ではアーケードゲームの基板や筐体(きょうたい)を取り扱っていることもあり、元ゲームセンター店員でハードにも詳しいスタッフもいるそうだ。

小村方氏によると、査定スタッフとして一本立ちするまでには約1年かかるという。同店ではアーケードゲームのほかにも、中古PCやLSIゲームなども扱うので「中身の構造や仕様も叩き込まれますね」(同氏)

1年がかりで実務を覚える必要がある以上、いくらゲームが好きだからといっても、誰でも簡単にできる仕事とは言えないだろう。豊富な知識を持ち、日々の研究を怠らない精鋭たちの眼力によって、ゲームショップの収益が支えられているのだ。

ニセモノをつかみたくなければ、日々の情報収集を欠かさずに

前述した拙稿でも触れたように、ニセモノ中古ソフトの作り手はプレミア価格が付いたものに絞って偽造しており、明らかに金儲けを目的としている。

ニセモノが大量に出回ると本物のソフトも値崩れを起こし、最悪の場合は買い取り自体が不可能になってしまうので、BEEPのように中古品を扱うショップでは査定スタッフの存在は欠かせない。今や高いものでは何と100万円を超えるソフトもあるので、その責任は重大だ。

「日々プレッシャーはありますが、なぜ仕事を続けられているかと言えばゲームが好きだからですね。私にとって今の仕事は趣味の延長であり、仕事でゲームがいじれて楽しいことがモチベーションになっています。普段からいろいろ知識を身に着け、後で何かの役に立ったらいいなあと」(小村方氏)

今後もテレビ番組や動画サイトなどをきっかけに、中古ゲームソフトに興味を持つ若いユーザーはどんどん現れることだろう。そんなビギナー向けに、小村方氏から貴重なアドバイスをいただいたのでご紹介しておく。

「ニセモノを避ける方法はやはり、正しい知識を身に着けることですね。ただ、今はダウンロードして遊べる移植版が増えていますので、最初のうちは無理に実機を探さなくてもいいと思います。最近のレトロゲームの配信をしているVtuberとかを見ていると『移植版です』とか『クラシックミニ版(のファミリーコンピュータ)を使っています』と言っている人もよく見掛けますしね。

 それでも実機に手を出したいのであれば『自分で調べろ! もうそれしかない!』と言いたいですね。ネット上には情報があふれていますが、実際に手にする機会は少なくなっていますので、お店に出掛けて繰り返し見たりしながら覚えるようにしてほしいです。裸ソフトをたくさん見ていくうちに、だんだん気付けるようになると思いますよ。

 市場は常に動いていて、今は裸ソフトでも、年を追うごとに値段が上がっています。情報を常にアップデートする必要がありますので、これから始める人は大変なタイミングだなあと感じます」(小村方氏)

かなり昔に作られた、粗悪なゲームボーイのニセモノ中古ソフト。この程度のレベルのものをひと目でニセモノとわからないうちは、プレミア価格のソフトに手を出すのは今や危険な時代だ
かなり昔に作られた、粗悪なゲームボーイのニセモノ中古ソフト。この程度のレベルのものをひと目でニセモノとわからないうちは、プレミア価格のソフトに手を出すのは今や危険な時代だ

古いものほど時間が経てば入手が難しくなるのは当たり前ゆえ、中古ゲームソフトの相場が上がるのはしかたがないことだ。

だが、もしニセモノが市場からなくなり、査定スタッフの負担が軽減されれば、その分だけ他のサービスに労力を割けることになり、相場が下落するとは言えないまでも、上がり幅はおそらく今よりも緩やかになるだろう。これからは、もし中古ソフトを少しでも安く買いたいと思うのであれば、今後はオークションサイトなどでニセモノ、あるいは怪しいと思ったものには手を出さず、ニゼモノを製造、流通させている連中を儲けさせないようにすることが肝要と思われる。

また、市場からニセモノを早く排除しなければ、いずれは文化面でも悪い影響が出てくるのではないかと懸念される。

例えば、中古ゲームソフトを使った実況配信をしたユーザーが、もしニセモノをそれと知らずに使用して「レトロゲーム実況やります!」などと番組を公開したら、後でとんだ赤っ恥をかくことになってしまう。だが、本物そっくりの精巧なニセモノが出回る状況にあっては、配信者の勉強不足ばかりを責めるのはあまりに酷な話だ。

これから中古ゲームソフトで遊んだり、コレクションを始めたいと考えている皆さんは、ぜひ小村方氏のアドバイスを参考にしていただきたい。

BEEPの小村方伸氏
BEEPの小村方伸氏

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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