なぜ「中古ゲームソフトのニセモノ」が蔓延? その実態は
昭和の時代から、人気を集めたゲームはアーケード、家庭用、PCなどプラットフォームを問わずコピー、海賊版が出回るのが常であり、残念ながらその傾向は今も変わることがない。
さらに近年は、データをコピーしたROMに適当な外装を施しただけの粗悪なものだけでなく、カートリッジやパッケージも本物そっくりに作られた中古ゲームソフトのニセモノが、インターネットの通販・オークションサイトや中古ゲームショップを通じてかなりの数が出回っている。精巧に作られたニセモノのなかには、ゲームショップの店員、すなわちプロの目を欺くものもあるのだ。
実は、ニセ中古ゲームソフトの流通は今に始まった話ではない。筆者が知る限りでは20年ほど前から存在するが、過去にこの問題がメディアで報じられた例はほとんどない。そこで本稿では、ニセ中古ゲームソフトが世に出回る驚くべき実態と、ニセモノの流通によって生じる諸問題をご紹介する。
プレミアソフトを狙い撃ち 海外からもニセモノが流入
そもそも、なぜ今人気を集める新作ではなく、中古ソフトのニセモノが新規に製造され、市場に出回るのか? 答えは単純明快で、ニセモノの製造者と、それを仕入れて転売する人間が儲かり、ニセモノとわかっていながら買うマニアたちが存在するからだ。
「eBayやアリババなど、海外のサイトからニセモノを購入して、日本向けに転売して儲けている人がかなりいると思います」
と話すのは、東京の秋葉原にあるゲームショップ、アキハバラ@BEEPで広報を務める丸山満氏。ニセモノの製造者は、ネット上や製造段階で不正に出回った、または本物から吸い出したROMデータを利用してソフトを作り出品し、それを見付けては転売するマニアが、いわばブローカーの役割を果たしていることになる。
普段、中古ゲームソフトで遊ぶ習慣のない人にはピンとこないだろうが、タイトルによっては今から20年も30年も前に発売されたソフトが、びっくりするほどのプレミア価格で日々取引されているのだ。
ごく一部の中古ソフトにプレミア価格が付くのは、製造本数が極端に少なかったり、熱心なファンの間で高い評価を得ているなどの理由がある。さらに昨今では、テレビ番組や実況動画などで、にわかに話題になったタイトルの値段が急騰することもあるようだ。
また、筆者の知人で元ゲームショップ店員のウォークイン氏(仮名)によると、「スマホなどに移植されたタイトルの中古ソフトが高騰することもあります」という。以前に拙稿「貴重な基板は『御神体』 進まぬアーケードゲームのアーカイブ化、問題点は?」でも紹介したように、古いタイトルの移植版が発売されると「本物が欲しい」という新たな需要が生まれるからだろう。
そしてニセモノが出回るタイトルは、その大半が中古市場でプレミア価格が付くものばかりだ。つまり、ニセモノの作り手は製造技術だけなく、中古市場の相場にも精通しており、明らかに金儲けを目的としているのだ。
「以前に、中国から日本のとあるゲームショップの通販サイトに、プレミア価格の付いた同じタイトルのソフトを何本も爆買いしたケースがあったという話も聞いています」(ウォークイン氏)
なぜ、日本の市場でプレミア価格が付いた中古ソフトを、海外の客(?)がピンポイントで狙いを定めて買い付けたのだろうか……。
精巧に作られたニセモノが流通する驚きの事実
ウォークイン氏によると「ここ3、4年ほどの間は、ス―パーファミコン用ソフトのニセモノが増えていますね」とのこと。
今でもスーパーファミコン用ソフトのニセモノが作られているのも驚きだが、それ以上に驚かされるのは、最近はパッケージやマニュアルなどの同梱物も本物そっくりに作られた、精巧なニセモノが増えていることだ。
「最近は偽造する技術がかなり上がっていますね」(ウォークイン氏)
「昔は印刷が雑なものばかりで、すぐにニセモノとわかりましたが、今は判別がとても難しくなっています」(丸山氏)
以下の写真は、アキハバラ@BEEPに持ち込まれたスーパーファミコン用ソフトのニセモノだ。筆者も一時期はスーパーファミコンでかなり遊んだつもりだが、これがニセモノだとはまったくわからなかった。いったい誰が作ったのかは不明だが、その技術力には舌を巻く。
ニセモノを見破るために電子顕微鏡を導入
中古ソフトの買い取り、あるいは仕入れるにあたり、誤ってニセモノをつかまされないようにするために、店舗ではどのような対策を取っているのだろうか?
「当店では、査定の専門チームが日々商品をチェックし、本物とニセモノのどこが違うのかも常に研究しています。本物とニセモノの区別ができる、目利きのあるスタッフの存在は欠かせません」(丸山氏)
丸山氏によると、もし査定の段階でニセモノが見付かった場合は、買い取らずに客に返却しているそうだ。しかし、精巧なニセモノが出回る昨今は、もはや査定スタッフの純粋な「目」だけでは追えないところまできている。
「今ではカートリッジを分解して、中身を確認しないと判別が難しいニセモノも出回っているんです。新たに見付かったニセモノは、電子顕微鏡を使って解剖してから処分するようにしています」(丸山氏)
もし誤ってニセモノを買い取った場合は、ゲームショップ側のまる損となってしまう。なぜなら、客がニセモノだとあらかじめ知ったうえでソフトを売りに来たのかどうかを証明するのが極めて難しく、返金対応や詐欺罪での立件がしにくいからだ。
また、ニセモノが多く出回ると本物のソフトの価格が下がってしまうこともあるので、査定スタッフの目利きの有無は、店舗の死活問題に即つながるのだ。
ウォークイン氏によれば、「数年前に、査定をしっかりできるスタッフがいないゲームショップが、ニセモノを転売するマニアの標的にされ、大量にニセモノをつかまされたことがあります」というのだから恐ろしい。
「以前に私が勤めていた店では、10万円を超える商品の買い取りはお断りしていました。もし万が一、買い取ったソフトがニセモノだった場合は責任がたいへん大きくなりますので、スタッフを守るための対策ですね」(ウォークイン氏)
ニセモノがすべての人を不幸にする
では、我々が通販サイトやゲームショップで、うっかりニセモノ中古ソフトを買わされないようにするためには、どのような対策を取ればいいのだろうか? 丸山氏もウォークイン氏も「査定、アフターケアがしっかりした、信用できる店を見付けて買うことです」と口をそろえる。
ウォークイン氏によれば、近年は「ネット上での個人取引でないと、本物がなかなか出てこなくなりました」という。時間の経過とともに、「本物の」中古ソフトを店頭で買える機会が減っているのも、ニセモノの需要が生まれる原因のひとつになっているのは確かだろう。
丸山氏が「今はコロナの影響で通販のお客様が多くなっていますので、より徹底した査定をしなければと思っております」と話すように、コロナ禍で客が店頭でソフトを見たり触ったりする機会が限られている以上、客も店舗側もよりいっそうの注意が求められるのも頭が痛いところだ。
ニセモノをつかまされるリスクを常にはらんだ不健全な市場のままでは、ゲームショップやユーザーが損をするだけでなく、中古市場とは直接関係ないゲームメーカーのイメージ悪化にもつながるだろう。そんな今の状況は、すべてのゲーム業界関係者、ファンにとって不幸以外の何物でもない。
ニセモノを市場から排除しなければ、やがてユーザーやメディアの間では、ゲームの中身をまともに見たり評価しようとせず、ただ市場価格の高低だけをネタにしたり、ニセモノも含めたコレクションを自慢し合うような、悪い意味での骨董品化が進んでしまうかもしれない。もしそんな未来になったらビジネス面だけでなく、文化的にもたいへん悲しいことだ。
今後も拙稿では、ニセモノ中古ゲームソフトが流通する実態や問題点を、繰り返しお伝えしていきたいと思う。