「人的資本」時代における社員教育の盲点とは?
■社員教育「慣れ」していない企業は要注意!
「社員教育が必要だとはわかりますが、投資対効果はあるんですか?」
最近、このように言われることが増えた。
人的資本の開示が、いよいよ2023年度からスタートする。有価証券報告書の記載が義務化されるのである。
おかげで研修ビジネス業界は活況だ。早晩、研修講師の人手不足は深刻化するとも言われるほどだ。
いっぽう弊害もある。社員教育「慣れ」していない企業の経営者は「投資対効果」に疑問を感じているからだ。
「社員教育なんかやっても、効果を感じたことがない」
「すぐに効果を求めるものではありません。社員教育を福利厚生と同じように捉えてはいかがですか?」
「なんで福利厚生と同じなんですか? 意味がわからない」
こんなやり取りをする毎日だ。
理解はできる。
会社に貢献するような力が身につくのなら、会社も積極的に教育投資をするだろう。どの会社の経営者も
「わが社は人が命ですから」
と言うのだから。
■人が学び、成長し、成果を出す順番と時間について
しかし教育をしたからといって、すぐに人材が育つわけではない。誰もが知っている。ましてや成果なんて、そうカンタンに出ない。ただ、だからといって教育を軽視しては企業の未来はない。
だから社員教育の効果に着目する前に、順番と時間についてもう少し知識を身につけてもらいたい。
子どもの教育も、部活での練習も、資格対策の勉強でもそう。どのような順番で人は
・わかる
・できる
・成果を出す
ようになるのか。その知識がないと、正しく社員教育に向き合うことができない。
今後は、社員教育をする企業と、「投資対効果」がハッキリしない限り社員教育をやらない企業とでは、大きく差が開くだろう。
今回は、人が学び、成長し、成果を出すための順番と時間について、ブレイクスルーポイント、成長曲線、成果曲線などの言葉を使って解説する。ぜひ最後まで読んでもらいたい。
■理想と現実を把握しよう
社員教育をしっかりやっている企業の社員や、意識して人を成長させたことがある人ならわかるはずだ。
しかしそのような経験がない人は、努力と成長の関係をよくわかっていない。努力を続ければ、だいたいこのように右肩上がりで成長するものだと思い込んでしまう。
しかし実際は違う。人はどんなに教育を受けても「ブレイクスルーポイント」を超えないと成長しない。スキルアップ研修を受けて、実践に取り組んでいても成長を実感するのは、けっこう先の話だ。
しかも個人差は大きい。
有名な「学習の4段階」に照らし合わせて考えると、もっと理解しやすいだろう。
①無意識的無能(知らないからできない)
②意識的無能(わかってるけどできない)
③意識的有能(意識するときだけできる)
④無意識的有能(意識しなくてもできる)
実際に成長の実感を得られるのは、行動習慣が身についてから(無意識的有能)だ。つまり意識しなくてもできるようになってからはじめて創意工夫することができ、
「ああ、自分もできるようになってきた」
と実感することになる。
■成果を出すのは、成長よりもっともっと先
もちろん、成果を出すようになるのは、もっともっと先のことだ。
「わかる」のがゴールでもないし、「できる」のもゴールではない。ゴールは成果を出すこと。そのように思うからこそ、経営者たちは「投資対効果」という言葉を持ち出すのだ。
しかし人材が成長しても、すぐに成果が出せるとは限らないのだ。どういうことか?
新しいスキルが身につき、「できる」ようになると成長曲線は落ち着く。そうして落ち着くからこそ、ようやく創意工夫や試行錯誤ができるようになる。
このように、試行錯誤を繰り返すことで安定して成果が出るようになるのだ。
副業でカンタンに稼げると思って手を出したら、大変なことになった。YouTubeで広告収入をたくさん儲けられると思い込んでその道に入ったら、とんでもない目に遭った。いくらでも聞く話だ。
才能やスキル不足の問題ではない。このようにブレイクスルーポイント、成長曲線、成果曲線についての知識が足りないからだ。
だから継続できず、途中で諦めてしまう。
今の時代、社員教育は必須だ。しかし教育機会を提供するだけでなく、現場でどのように成長や成果を出すための機会を与えていくのか。ここにも焦点を合わせないと、途中でやめてしまうことになる。
社員教育で成果を出している企業は、ここがよくわかっている。だから「投資対効果」など考えず、淡々と継続できるのだ。いよいよ2023年は人的資本経営時代の幕開けだ。社員教育について、理解を深めていこう。