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ニンジン畑の貴婦人と言えば?=市民農園でキアゲハ幼虫を探せ#イモムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
黄色い肉角を出して威嚇ポーズを取るキアゲハ幼虫。

 キアゲハの幼虫は、アサギマダラ幼虫、アオバセセリ幼虫などと並んで、日本一美しいイモムシの有力候補だ。それなのに、見つけるのは割と簡単。郊外の市民農園などのニンジン畑にはたいてい、この美しいキアゲハ幼虫の姿がある。その見事な色柄は、まさに「ニンジン畑の貴婦人」と呼ぶにふさわしい。

 キアゲハ幼虫の好物はセリ科の植物の葉。ニンジンの葉以外では、セリ、パセリ、ミツバなども食べる。

ニンジン畑にいたキアゲハ幼虫。
ニンジン畑にいたキアゲハ幼虫。

 それならば、スーパーで売っているパセリなどを餌にすれば、キアゲハ幼虫の飼育は簡単と思う人もいるだろう。しかし、そこには大きな落とし穴がある。

 虫食い跡が全くないパセリ、セリなどには、害虫被害を防ぐ農薬が使われていることがあり、そうした野菜の葉を与えられたキアゲハ幼虫は、すぐに死んでしまう(ニンジンは葉を食べる野菜ではないので、その葉は飼育に使えることが多いようだが、葉の付いたニンジンはあまり売っていない)。

 では、どうしてもキアゲハ幼虫を自宅で育てたいという人(ほとんどいないと思うが)は、どうすればいいのか。

 その答えは簡単だ。自宅のプランターで、無農薬でパセリを育てればいい。そのパセリを餌にキアゲハ幼虫を育てつつ、時々香草としてパセリを収穫すれば一石二鳥である。

 パセリを育てるのは面倒という人はどうすればいいのか。その場合は、野外でセリ科の雑草を探せばいい。

 自然度の高い野原には、シシウド、ノダケなどセリ科の大きな雑草が結構多く生えている。海辺なら、巨大な雑草のハマウドが餌に使える。

雑草のノダケにいたキアゲハ幼虫。
雑草のノダケにいたキアゲハ幼虫。

海辺のハマウドにいたキアゲハ幼虫。
海辺のハマウドにいたキアゲハ幼虫。

キアゲハ成虫は、ナミアゲハによく似た蝶。
キアゲハ成虫は、ナミアゲハによく似た蝶。

 しかし、そこまで苦労して幼虫を育てて、素晴らしい見返りがあるかと言えば、そうでもない。成虫のキアゲハは、ナミアゲハとあまり変わらない姿であり、特別美しいとは言えないからだ。

 やはりキアゲハの一生のうち、一番華やかな時期は、幼虫期(特に終齢幼虫期)なのだ。市民農園のニンジン畑で、幼虫の艶姿(あですがた)を堪能するだけにとどめるのがお勧めだ。自宅に連れ帰って、スーパーのパセリで育てようなどとは、ゆめゆめ思ってはならない。昆虫記者自身も何度か、大失敗を犯している。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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