石破内閣の2020年代に最低賃金1500円への引き上げ目標は現実的なのだろうか?
石破茂首相が「2020年代に最低賃金を全国平均で1500円に引き上げる」という公約を掲げたほか、与党では公明党が5年以内の全国平均1500円、野党では、立憲民主党、共産党、れいわ新選組も1500円の実現を訴えるなど、衆議院選挙の公約では各党から最低賃金を引き上げるとしています。
相次ぐ「最低賃金1500円」公約、現実的な方策は聞こえず…「しわ寄せは中小・零細に」(2024年10月22日 読売新聞)
最低賃金1500円に引き上げ 経団連会長「乱暴な議論すべきでない」(2024年10月23日 毎日新聞)
現在最低賃金は全国平均で1055円ですから、石破首相の公約が最も遅い2029年に達成されるとしても、1500円に達するためには毎年7.3%で増加していく必要があります。
最低賃金を引き上げる必要性は多くの経営者が認識しているものの、引き上げのペースが問題との見方もあります。
例えば、ここ最近の都道府県別の最低賃金の引き上げ幅を用いて2029年の最低賃金の全国平均を機械的に試算してみると1235円となり、1500円という目標には届かないことが分かります。
そこで、各都道府県の最低賃金を全国平均と同じく2025年から2029年まで毎年7.3%で伸ばしていくとしたらいくらになるのか、その水準は一般労働者の平均時給(以下、平均賃金)と比べて合理的な水準なのかを機械的に試算してみました。
その結果、2024年時点で最低賃金が全国最低の秋田県では951円から1352円、最も高い東京都では1163円が1654円となることが分かります。
また、2024年では一般労働者の平均賃金に対する最低賃金の相対比は全国平均で55.0%、最低が栃木県の52.2%、最高が青森県の63.3%と、地方ほど最低賃金の相対比が高くなっており、2029年では全国平均で74.7%、最低が栃木県の65.1%、最高が鳥取県の86.4%となりますから、大幅な生産性の向上がない限り、毎年7.3%もの高い率で最低賃金を引き上げていくとすれば、地方の中小零細企業ほど倒産するリスクが高まることが懸念されます。
さらに、地方ほど最低賃金の平均賃金に対する相対比が高くなっているということは、最低賃金水準の賃金で働く労働者が多い状況にあることを意味するため、最低賃金の引き上げによって、そうした低賃金労働者の雇用環境が悪化することにもつながります。
人手不足の中での最低賃金引き上げ連鎖倒産もあり得るかもしれません。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は下記TBSの報道にもありますように「最低賃金が今後上がっていくという予見の中で、企業の経営をするのが予見性。できない企業は退出する。それを払える企業に(労働者が)移る方が間違いなく人々の生活は上がる。払えない企業はダメなんです」と仰っておられますが、さすがに度を越したペースの最低賃金の引き上げにはついていけない企業も多く出てくるでしょう。
「中小企業潰し」「現実味ないけど嬉しい」 “最低賃金1500円”への引き上げが衆院選の争点に 「混乱を招くだけ」「払えない企業はダメ」経済団体も賛否【news23】(2024年10月23日 TBS)
地方創生を重視する石破内閣が進める最低賃金の1500円実現が、かえって地方経済を支える地場企業の倒産をもたらすとすれば、地方創生に悪影響となってしまうことには十分留意する必要があります。