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芸人やテレビ・ラジオ番組の「ファンクラブ」が続々と生まれている理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

1980年代はアイドル文化の全盛期だった。松田聖子、中森明菜をはじめとして、数多くのアイドルが熱狂的な支持を受けていた。この時期、お笑いの分野でも若手芸人をアイドルのように応援する文化が確立した。その証拠に、とんねるず、ウッチャンナンチャン、ダウンタウンをはじめとして、多くの人気芸人が公式のファンクラブを持っていた。

インターネットがない時代に流行したファンクラブというものは、特定の芸能人のファンに向けて情報を発信するメディアとしての価値があった。しかし、ネットが普及して、SNSやYouTubeなどが広まった今の時代には、お笑い界ではその文化は廃れていた。

しかし、そんな状況が一変する出来事が起こった。2020年7月、「チャラ男」芸人として知られるEXITが、音楽アーティストのファンサイト運営を手掛ける株式会社Fanplusの協力を得て、自らのファンクラブを始めたのだ。

EXITはもともと、芸人とはこうあるべきだという不文律に縛られず、ファン目線のサービス提供にこだわってきた異色の芸人だった。そんな彼らが、ファンサービスの一環として、いち早くファンクラブ開設に踏み出したのだ。

その後、彼らが所属する吉本興業では、大勢の芸人が続々とこのような月額制のファンクラブやオンラインサロンのようなサービスを始動させた。それらは「FANYコミュ」と総称されている。NON STYLE、ニューヨーク、蛙亭、空気階段などの人気芸人もサービスを提供している。

2021年には、多数のレギュラー番組を抱える売れっ子芸人のかまいたちがオフィシャルファンクラブ『OMAETACHI』を開設した。入会者は毎月500円(税込)の会費を支払うことで、会員限定のマネージャーブログや特別動画などのコンテンツを楽しむことができる。

最近になって吉本興業が本格的にファンクラブビジネスに乗り出したのには、いくつかの理由が考えられる。1つは、コロナ禍の影響でライブが減っていたことだ。芸人の本業は、舞台の上で観客を前にして芸を見せることだ。ファンはライブに足を運ぶことで芸人を見ることができた。また、出待ちをして直接声を届けたり、交流をしたりすることもできた。

だが、コロナ禍の影響でライブが減り、ファンが芸人に直接触れられる機会が激減してしまった。だからこそ、ファンが芸人と直接つながるためのサービスが双方に求められるようになった。

ファンというのは、自分の好きなものに関するお金の使いみちを探しているようなところがある。ほかのジャンルに比べると、お笑いというのは追いかけるためのコストが低い。ライブの入場料は音楽や演劇ほど高くないことが多いし、テレビやYouTubeのコンテンツは無料で見られる。特定の芸人を追いかけている人にとっては、会費を支払ってファンクラブに入るというのは有力な選択肢となる。

お笑いがライブビジネスだった時代は終わり、いまやコンテンツビジネスの時代になった。芸人の側も、ライブに限らずYouTubeなどいろいろなことをやっていくのが当たり前になってきている。その中の1つとして、ファンクラブやオンラインサロンという形のサービスが始まるのは自然なことだ。

このような月額課金制のビジネスは、軌道に乗ると一定の収入が得られるというメリットもある。浮き沈みの激しいお笑いの世界では、安定した収入があるというのは大きい。

もちろん、月額制のサービスで会員を満足させるというのは簡単なことではない。人気のある芸人はテレビで活躍しているし、YouTubeのコンテンツも豊富にあるため、「お笑いはタダで見るもの」という世間の意識も根強い。キャラクターとして魅力がある芸人や、特定の分野に強みがある芸人でなければ、月額制のサービスは成り立たない。

お笑い業界は、ほかのエンタメに比べるとファンクラブ型のビジネスが遅れているようなところがあった。業界最大手の吉本興業がそこに本格参入したという事実は興味深い。これらが軌道に乗れば、ほかの事務所でも続々とそのようなサービスが始まるかもしれない。

また、最近では、『アメトーーク!』の公式ファンクラブ&動画配信サービス「アメトーークCLUB」、『三四郎のオールナイトニッポン』の公式ファンクラブ「バチボコプレミアムリスナー」のように、テレビ番組やラジオ番組でもそのようなサービスを提供するところが現れてきている。

SNSやYouTubeが存在する今でも、ファンクラブという形式で熱心なファンに向けて情報やサービスを提供することには、大きな意義があるのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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