Yahoo!ニュース

なぜスペインはユーロで躍進しているのか?ペドリ、ファビアン、ロドリ…中盤の構成と新たなスタイルの確立

森田泰史スポーツライター
躍進するスペイン代表(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

期待を上回るパフォーマンスを、見せている。

スペイン代表はEURO2024の準々決勝でドイツ代表と対戦した。ダニ・オルモとミケル・メリーノの得点で、延長戦の末にドイツを下している。

ドリブルするペドリ
ドリブルするペドリ写真:Maurizio Borsari/アフロ

そう、大会前、スペインに対する期待値は高くなかった。

フランス、イングランド、ドイツ、ポルトガル…。その辺りのチームが、優勝候補と目されていた。スペインは2022年のカタール・ワールドカップで、決勝トーナメント一回戦でモロッコに敗れ、ベスト16敗退に終わっている。その結果から顧みれば、EURO2024でタイトル獲得に近いと見られないのは、むしろ当然だった。

あのモロッコ戦では、1000本以上のパスを繋いだ。しかしながら戦果を挙げられず、ポゼッションの限界を感じさせた。

■黄金時代を経て

スペインはEURO2008、2010年の南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012で優勝を果たした。主要大会3連覇を成し遂げ、「スペイン、此処に在り」というのを世界中に知らしめた。

スペインの黄金時代は、バルセロナの成功に紐付いている。2010年のW杯では、スタメンの7選手がバルセロナのプレーヤーだった。ヨハン・クライフの哲学の下、ジョゼップ・グアルディオラ(2008年―2012年/バルセロナの監督)が築き上げたものを、個性の強いルイス・アラゴネス監督が叩き上げ、ビセンテ・デル・ボスケ監督が纏めた。

シャビ・エルナンデス、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス、アンドレス・イニエスタはクアトロ・フゴーネス(四人の創造主)と呼ばれていた。そこにシャビ・アロンソやセルヒオ・ブスケッツが加わり、中盤には錚々たるメンツが揃っていた。

ポゼッション。チキ・タカ。パスサッカー。後方から丁寧にボールを繋ぎ、ゴール前に迫っていくフットボールは、多くのファンを魅了した。

一方、そのフットボールからの脱却は、困難を伴う作業だった。

■異なる指揮官と新たなスタイル

カタール W杯の終了後、ルイス・エンリケ前監督が退き、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督が就任した。

新指揮官の下、スペインは昨年のUEFAネーションズ・リーグで優勝している。だが志すフットボールやスタイルというのは、中々、見えてこなかった。

シュートを放つファビアン
シュートを放つファビアン写真:Maurizio Borsari/アフロ

ただ、EURO2024で、ラ・ロハは殻を破った。

スペイン“らしくない”という点では、まず、フォーメーションだ。従来の【4−3−3】ではなく、【4−2−3−1】の布陣が選択されている。

その恩恵を受けた一人が、ペドリ・ゴンサレスである。先のドイツ戦でひざを負傷したペドリだが、大会を通じて、随所で良いプレーを見せている。「10番」のポジションに置かれ、トップ下で攻撃を司る姿は、バルセロナでリオネル・メッシと躍動していたシーンを彷彿とさせるものだ。

そして、ダブルボランチとして、ロドリ・エルナンデスとファビアン・ルイスが躍動している。とりわけ、大部分のメディアとファンにとって、“サプライズ”だったのはファビアンだろう。

従来の【4−3−3】においては、アンカーシステムであるので、どうしても、ロドリの脇のスペースが空いてしまう。かつて、ブスケッツは、この問題に度々苦しめられていた。例えば、マンチェスター・シティで、グアルディオラ監督はジョン・ストーンズを偽CBにすることで、その問題を解決している。だがスペイン代表では、長い間、その問題は放置されていた。そのソリューションを見つけるべく、選ばれたのがファビアンで、ダブルボランチ・システムだった。

ベティスのカンテラで育ったファビアンは、ナポリ、パリ・サンジェルマンでのプレーを経て、ラ・ロハで中核を担う存在になった。左利きで、テクニックとパワーに優れ、高い状況判断力を備えている。大柄なファビアンが重宝されているのも、スペイン“らしくない”と言えるかもしれない。

スタメンに抜擢されたククレジャ
スタメンに抜擢されたククレジャ写真:Maurizio Borsari/アフロ

また、今大会、特徴的なのがスペインの左サイドバックだ。デ・ラ・フエンテ監督はマルク・ククレジャをレギュラーで起用している。ククレジャもまた、ファビアンと同様に、スペイン“らしくない”選手だろう。

戦前の予想では、左SBにはアレックス・グリマルドが入るとされていた。シャビ・アロンソ監督の下、レヴァークーゼンで左翼を担っているグリマルドは、非常に攻撃的なSBだ。ジョルディ・アルバ、ホセ・ルイス・ガヤといった、近年のスペインの左SBと似たプレースタイルを有している。

しかし、デ・ラ・フエンテ監督はククレジャを抜擢した。バルセロナのカンテラーノであるククレジャだ。テクニックについては、申し分ない。だがハードに、タフに、泥臭く相手に喰らいつく様は、スマートさとは程遠い。それでも、1対1に強く、スペースの管理に長けたククレジャの存在は、間違いなくラ・ロハの大きな力になっている。

スペイン代表を率いるデ・ラ・フエンテ監督
スペイン代表を率いるデ・ラ・フエンテ監督写真:Maurizio Borsari/アフロ

「選手たちには、インテンシティと集中を要求している。より重要な試合において、だ。我々は気分次第で変更を加えるような真似はしない。試合によって、対戦相手によって、選手たちのフィーリングによって、プランを決める。選手たちは、全員、私に保証を与えてくれているよ」

「我々は、自分たちの強みを生かさなければいけない。攻撃面で、我々にはいくつかの選択肢がある。縦に速いフットボールが可能になっているが、それは選手たちの特徴によるものだ。相手に応じて、自分たちのスタイルを変えることはない。もちろん、相手のストロングポイントに注意を向けるけれどね」

これはデ・ラ・フエンテ監督の言葉だ。

準決勝でフランスと対戦するスペイン
準決勝でフランスと対戦するスペイン写真:Maurizio Borsari/アフロ

現在のラ・ロハには、シャビやイニエスタのようなタレントーーつまりバロンドールの最終候補に残るようなタレントーーは存在しないかも知れない。

しかしながら、現在のチームには、高い個の能力を備えながら、周囲と調和できる選手が多くいる。それがベスト4進出という結果につながった。

準決勝の相手はフランスだ。新たなスタイルに支えられ、新生スペインが、優勝までの確固たる道筋をつけようとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事