なぜスペインは“好調”を維持しているのか?ヤマル、ニコ…若手の躍動とユーロ制覇の可能性。
寝不足の日々が、続いている。
欧州では、EURO(ユーロ)2024が開催中だ。決勝トーナメント一回戦が終了し、優勝候補の一角と目されているのが、スペイン代表である。
■チキ・タカのスタイル
ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)は好調だ。だが今大会のスペインは、これまでとは、一味、違っている。
スペインといえば、「チキ・タカ」である。パスサッカーを意味する言葉で、ポゼッション・スタイルで戦うスペインを指す時、度々、使われるワードだ。
しかし、いまのスペインは、チキ・タカではない。
EURO2024のグループステージ初戦で、スペインはクロアチアと対戦した。この試合、スペインはポゼッション率で、クロアチア(54%)に敗れている。だが結果は3−0。スペインの快勝であった。
スペインがポゼッション率で対戦相手に負けたのは、136試合ぶりだった。
ルイス・エンリケ政権(平均ポゼッション率72%)、ロベルト・モレノ政権(73%)、フェルナンド・イエロ政権(75%)、ユレン・ロペテギ政権(67%)、ビセンテ・デル・ボスケ政権(65%)…。歴代の監督の下、スペインは常にボールを握っていた。
■ボールを握りながら...
2022年のカタール ・ワールドカップで、スペインは決勝トーナメント一回戦でモロッコに敗れた。ポゼッション率77%、パス本数1041本。それでも、勝者としてピッチに立っていたのはモロッコだった。
さらに時を遡る。2018年のロシアW杯で、スペインは決勝トーナメント一回戦でロシアに敗れている。この試合においては、ポゼッション率79%、パス本数1114本。まさに「試合に勝って、勝負に負けて」いるのだ。
ただ、現在のスペインは、パスを繋ぐだけのチームではない。ニコ・ウィリアムスとラミン・ヤマル、この2選手の存在が、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督に多くのバリエーションをもたらしている。
シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、シャビ・アロンソ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス、セルヒオ・ブスケッツ…。過去、スペインには、素晴らしい中盤の選手たちが揃っていた。彼らこそチキ・タカの“主役”であり、チームがポゼッション率を高めるためのタスクを担っていた。
一方、前線では、ダビド・ビジャとフェルナンド・トーレス以降、偉大なストライカーやウィンガーが出てこなかった。その点で、変化が感じられるのが、ニコとヤマルの台頭だ。
■両翼のアタッカーと躍動
ヤマルは、16歳にして、初めてEUROの舞台に挑む“神童”だ。バルセロナのカンテラーノで、シャビ前監督の下、15歳でトップデビュー。そこから瞬く間にスター街道を駆け上がった。
ヤマルは、決勝トーナメント一回戦のジョージア戦で、7本のシュートを放ち、6回、チャンスをつくった。EUROの歴史で、シュート数とチャンス演出数で共に5回以上を記録したのは、ジネディーヌ・ジダン(EURO2004/イングランド戦/5回・5回)だけである。
一方、ドリブルと突破力でヤマルに並び、スペインの攻撃を牽引しているのがニコだ。今大会のスペイン代表で、ヤマル(ドリブル数25回/ドリブル成功数11回)とニコ(24回/9回)が、ドリブルにおいてチームで1位と2位のスタッツを残している。
アトレティック・クルブでプレーするニコは、ガーナ代表を選択した兄のイニャキ・ウィリアムスをよそに、スペインでのプレーを選んでいる。今大会、先のジョージア戦で初ゴールをマーク。グループステージ第2節イタリア戦では、対峙したジオバニ・ディ・ロレンツォを文字通り“チンチン”にして、大きなインパクトを残した。
ヤマルとニコ。16歳と21歳の若きアタッカーが、躍動している。両翼の担い手が好パフォーマンスを披露しており、それがスペインにチキ・タカからの脱却を促すきっかけになっている。
「過去、EUROで、開幕から4連勝を飾ったチームは存在しなかった。我々はそれを知っていた。だが我々の下には最高の選手たちがいて、最高のチームがある」
「我々はタイトルを目指す。クオリティ、コミットメント、確信。そういったものが、このチームには揃っている。次はドイツ戦だ。彼らのことは、みんな、よく分かっているだろう。偉大な選手たちがいる、ポテンシャルに満ちたチームだ。拮抗したゲームになると思う。けれども、我々は自分たちを信じている」
これはデ・ラ・フエンテ監督の言葉だ。
スペインは準々決勝でドイツと激突する。この試合が“事実上の決勝戦”になるだろう。
先述の通り、スペインは今大会のクロアチア戦で、ポゼッション率で敗れた。その前、最後にポゼッション率で敗れたのが、EURO2008決勝のドイツ戦だった。ドイツに始まり、ドイツに終わるーー。スタイルの変化で殻を破り、真のラ・ロハが誕生するかどうかは、開催国との一戦に懸かっている。