Yahoo!ニュース

JR函館本線、新函館北斗~長万部間が「廃線」なら…北海道と本州を結ぶ「貨物」はどうなる?

小林拓矢フリーライター
本州と北海道を行き来する貨物列車(写真:イメージマート)

 2030年度に、北海道新幹線が新函館北斗から札幌まで延伸される。その際に、新幹線と並行して走る在来線をどうするのかが課題となる。

 JR函館本線のうち「山線」と呼ばれる長万部~小樽間(140.2キロ)は、すでに廃線が決まっている。同区間は、かつては特急の定期列車が走行した区間ではあるものの、現在は定期では普通列車しか走っておらず、ローカル輸送がメインとなっている。

 特急が走らなくなったことで、列車を待ち合わせるための線路などの交換設備を廃止するといった措置が取られている。利用者が少なく、バス代替でも十分問題はないという状況になっているからだ。

 しかしJR北海道の経営状況が厳しい中で、北海道新幹線の延伸に伴う“廃線”は旅客輸送だけではなくなっている。

新函館北斗~長万部間廃線の可能性も

 先月31日に行われた函館本線の函館~長万部間(147.6キロ)の沿線7市町による協議会で、函館~新函館北斗間は第三セクターで存続させるものの、残る新函館北斗~長万部間をどうするのかが課題となった。

 報道によると、全線を鉄道として第三セクターで存続させることは難しいとの空気が支配的だったという。つまり、函館~新函館北斗間以外の区間は廃線となる可能性が現実味を帯びてきたのだ。

 そこで問題となるのが、道内外の物流を担う貨物列車の存在だ。ただ、この協議会では、貨物列車網について議論する状況にはなかった。現在、特急「北斗」が走行している函館本線の新函館北斗~長万部間は、特急の利用者が中心であり、普通列車の乗客は少ない。函館本線の函館~長万部間の2021年度輸送密度は1,636人/日であり、営業係数は管理費込みで421円となっている。

 これだけ見ればJR北海道のほかの特急運行路線と比較しても悪くない状況とは思えるものの、特急がなくなって北海道新幹線が延伸したら並行在来線の利用者は当然がくっと減る。

 地域輸送のことを考えればいい地元の自治体は、廃線にしてバス転換しても問題はないという考え方だ。しかし貨物については、「国や北海道で考えて」と人任せのような考えを持っている。

 北海道は8月31日に、北海道新幹線開業後の函館~長万部間の収支予測を発表した。全線を第三セクターで存続させると、30年間で816億円の赤字となる。いっぽうで、函館~新函館北斗間で鉄道を維持した場合には510億円の赤字に。さらに全線をバス転換すると157億円の赤字に縮小される。

 貨物のために鉄道を維持できるのか、が焦点となる。

重要路線ゆえ国土交通大臣が乗り出した

 この状況を受けて斉藤鉄夫・国土交通大臣は、この区間は農産品などを輸送する、北海道と本州を結ぶ重要な貨物路線だとして、北海道庁やJR貨物、JR北海道と対応を検討する必要があるとし、国を含めた4者で区間の維持を協議すると20日に表明した。

斉藤鉄夫・国土交通大臣
斉藤鉄夫・国土交通大臣写真:ロイター/アフロ

 北海道と国がこの問題に対して積極的に関与し、貨物網の維持に取り組もうとしている。

 もしこの区間の貨物がなくなると、北海道発着の貨物列車がなくなり、その影響で東北方面や日本海縦貫線方面を通る貨物もなくなっていくことになる。

 しかし前述の試算の通り、累積赤字は30年間で816億円に上る。線路の維持を引き受けるための経営体力はJR貨物にはない。

 JR貨物は、旅客鉄道の線路を走る場合には線路の使用料を支払う。しかしその使用料は、「貨物列車が走行しなければ回避できる経費のみ」負担することになっている。たとえば、貨物列車が走るとレールの摩耗が早くなり、そのぶんの費用だけを負担するという具合だ。

 JR北海道から分離され、第三セクター化された並行在来線をJR貨物の列車が走行する場合、JR貨物からの負担に加えて、鉄道・運輸機構が調整金をJR貨物に支払い、そこから線路使用料として第三セクターに支払う。それにより、JR貨物の負担増を回避している。

 JR貨物は、旅客列車も走る路線を安く走らせることで経営を維持できているという状況にある。もし、新函館北斗~長万部間の路線をJR貨物が保有し、路線の維持管理もJR貨物が行うとなると、とても耐えられない負担がのしかかるということになる。

 JR貨物だけ走行して、線路もJR貨物が維持すればいいのでは、と地元自治体などは考えているかもしれないが、それが容易にできる状況ではない。

 いっぽう、北海道経済界は鉄道貨物輸送を維持することを望んでいる。

 この区間の鉄道貨物輸送がなくなれば、トラックや船で輸送しなければならないことになる。とくに深刻なトラックドライバー不足の現状がある中、トラックドライバーの労働時間規制も強化される予定となっており、鉄道貨物輸送の維持が必要となることは明白だ。

 では、どうすべきか?

恩恵を受ける側が負担を

 この区間の貨物輸送は、東京などの大都市圏と、北海道の大部分を結んでいるものである。北海道からは農産品を主に輸送しており、本州各地からは生活必需品を輸送している。宅配便や書籍なども運んでいる。

北海道と本州が線路で結ばれて貨物は便利になった
北海道と本州が線路で結ばれて貨物は便利になった写真:イメージマート

 私には、線路などの設備の所有と維持は北海道や国が設置した第三セクターが行い、貨物輸送だけをJR貨物が行うという方法しか、この区間の鉄道貨物輸送を維持する方法はないように見える。

 しかし、国がこの方法を受け入れるとしても、北海道がそれを受け入れるだろうかという疑問は残る。北海道は収支予測の状況から、北海道の鈴木直道知事が「攻めの廃線」と称してコストカットを真っ先に実施することも予想できる。だが、この「攻めの廃線」は夕張市長時代の石勝線支線だったからできたことで、貨物の大動脈にそれを適用することは慎重にならざるを得ないだろう。

 経済安全保障や食糧安全保障の観点から、物流の機能が果たせない状況をつくるわけにはいかないということもある。

 日本全国にかかわることであり、慎重かつ確実な方法で、この区間の鉄道貨物輸送を残すことが求められている。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事