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【暑すぎて大会が中止?】理由は「暑さ指数」が基準越えだった。暑さ指数を他の大会を含めて検証してみる。

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ

9月18日の高畠ロードレースは、暑さ指数が厳重警戒のレベルを超えたので、途中打ち切りとなりました。そして幸いにも、救急搬送者はなく大会を終えたそうです。反対に8月27日の北海道マラソンでは10人の救急搬送車が出たほか、9月10日の啄木ふれあいマラソン大会では死亡者が出てしまいました。
この暑さ指数とは何なのか、そして高畠ロードレースや北海道マラソン、啄木ふれあいマラソン大会の暑さ指数はどうだったのか、調べてみましょう。

暑さ指数とは

暑さ指数とは1950年代にアメリカの軍隊で、当時頻発していた熱中症の対策の目的で測定が開始・研究が始まった指標で、別名は湿球黒球温度(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)といいます。WBGTは気温のみならず、湿度や日差し、そして地面や周囲の建物から放射される熱(輻射熱)を反映しています。

1970~2018年の運動中に熱中症が発生したときのWBGT分布と運動指針:日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」より改
1970~2018年の運動中に熱中症が発生したときのWBGT分布と運動指針:日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」より改

WBGTの測定機は安価で手軽に測定ができ、また熱中症発生件数とも関連があるので、暑熱下のスポーツイベントには欠かせない指標となっています。このWBGTが25度以上のときから件数が多くなり「警戒」、28度を超えるとさらに顕著に増加して「厳重警戒」、31度を超えると熱中症発生件数は少なくなりますが(31度を超えることが少ないからでしょうか)「原則中止」となります。
※グラフの出典:日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」

今年の高畠ロードレースでは

そのことを踏まえて、暑さ指数で打ち切りになった第72回の高畠ロードレースをみてみましょう。WBGTは環境省の熱中症予防情報サイトから得ています。

今回と直近3大会の大会当日のWBGT:環境省「熱中症予防情報サイト」の山形県高畠のデータから
今回と直近3大会の大会当日のWBGT:環境省「熱中症予防情報サイト」の山形県高畠のデータから

高畠ロードレースはハーフマラソンと10km、2.8kmの部があり、一番最長のハーフマラソンの部は今年、9時30分から9時にスタート時間が変更になっています。環境省のサイトの情報によると、スタート時間の9時のWGBTは29.1度でしたが、10時には31.5度まで上昇しています。そしてその10分後に、大会は中止の決断をしています。
特記すべきはこの大会は、次にあげる2大会と違って前年に高温の過酷な環境を経験していました。そのため高温環境時の対策をしていたようで、スタート時間を30分早めたほか、山形新聞の記事によると公民館前のWBGTが28度以上になった時点で中止にすると決めていたようです。そして実際にスタートから1時間10分後の10時10分に、WBGTが28~29度となり中止にしたようです。環境省の数値とは少し異なりますが、非常に過酷な環境には変わりありません。

北海道マラソン2023

次に10人が熱中症で救急搬送された、今年の北海道マラソンをみてみましょう。

今回と直近3大会の大会当日のWBGT:環境省「熱中症予防情報サイト」の北海道札幌のデータから
今回と直近3大会の大会当日のWBGT:環境省「熱中症予防情報サイト」の北海道札幌のデータから

北海道マラソンは2019年までは9時スタートで制限時間5時間のレースでした。2022年から制限時間が6時間に拡大、2023年から8時30分と45分のウェーブスタートとなっています。
例年と違い今年は気温が高く、特にスタートから1時間30分後の午前10時にWBGTが29.6度まで上昇しています。その後は雨とともに一気にWBGTが低下しましたが、10km地点でリタイアされる方が多かったのは、この環境の変化が原因したものと思われます。

第33回啄木ふれあいマラソン大会

そして60代の男性が亡くなった今年の啄木ふれあいマラソン大会です。リタイアや制限時間オーバーも400人以上いたとのことです。

今回と直近3大会の大会当日のWBGT:環境省「熱中症予防情報サイト」の岩手県好摩のデータから
今回と直近3大会の大会当日のWBGT:環境省「熱中症予防情報サイト」の岩手県好摩のデータから

啄木ふれあいマラソン大会は例年ハーフの部が9時15分、10kmが10時20分スタートでした。今年はハーフの部が10時、10kmが10時15分スタートに変更になっています。11時15分に倒れている方が発見され、その後死亡を確認、そして11時30分頃大会が中止となっています。
現地の岩手県好摩のWBGTを調べると、9時29.5度、10時29.5度、11時29.8度、12時29.6度とのことで、一貫して厳しい環境ではあったものの、原則中止が推奨されてる「危険」というレベルではなかったことが分かります。そして時間変更はさほど影響がなかったのではないか、ということも分かります。

WBGT以外の指標やツール

もちろん地形や、周囲の環境などで熱中症のリスクは全く変わってしまいます。また運動強度や風向きも、熱中症に影響します。WBGT以上の指標をということで、Universal Thermal Climate Index(UTCI)やPhysiological equivalent temperature(PET)というツールも検討されています。近い将来WBGTにとって代わる可能性もあるかもしれません。
また最近は、運動中の深部体温をモニタリングできるCOREという測定機器も発売されています。3-4万円と高価ですが、今後こういうツールで自衛する時代が来るかもしれません。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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