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米中の参謀トップ、事件直後に緊急電話 恐れていたのは“パールハーバー”だった 米議事堂襲撃から1年

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
大統領選は不正に行われたと訴え、議事堂を襲撃したトランプ支持者たち。(写真:REX/アフロ)

 米連邦議会議事堂襲撃事件から1年。

 1年前の今日、アメリカでは、大統領選は不正に行われたと訴えるトランプ支持者たちが米連邦議会議事堂内に乱入、選挙人の投票結果を認定し、選挙に勝利したバイデン氏の大統領就任を確定しようとしていた議事が一時中断される事態となった。

 FBI長官のクリストファー・レイ氏は暴動を「国内テロ」とまで呼び、これまでに700人以上の人々が、議事堂の制限区域への侵入や器物破壊、窃盗、暴行、警官に対する危険兵器の使用など様々な容疑で逮捕、起訴され、150人以上が罪を認めている。

 全米を震撼させた議事堂襲撃事件。

 しかし、それを深く懸念していたのは米国民だけではなかった。中国側も動揺し、恐怖を感じていたようだ。ボブ・ウッドワード氏とロバート・コスタ氏の共著『PERIL (ペリル) 』には、中国側が議事堂襲撃事件に不安を感じていたことや、米中が“パールハーバー”のような奇襲攻撃を受けることを懸念していたことも指摘されている。

アメリカは崩壊しているのか?

 同著によると、議事堂襲撃事件が起きた2021年1月6日の2日後、米軍制服組トップである統合参謀本部議長のマーク・ミリー氏は、中国軍の李作成・連合参謀部参謀長に、トップシークレットであるブラック・チャンネルを通じて、午前7時3分、緊急電話を入れている。

 ミリー氏は、李氏や中国の指導者層が米国の議会が前代未聞の攻撃を受けているテレビ画像にショックを受けて混乱していることを、幅広い報告を受けて把握していたという。

 同著は、両者間で行われた緊急電話について、以下のように描いている。

「李氏はミリー氏に質問を浴びせた。超大国アメリカは不安定なのか? 崩壊しているのか? 何が起きているんだ? 米軍は何かするつもりなのか?」

 それに対し、ミリー氏はこう答えて、李氏を冷静にさせようとしたとある。

 「状況は不安定に見えるかもしれません。しかし、李将軍、それが民主主義の特質です。我々は100%安定しています。万事大丈夫です。しかし、民主主義はずさんになることがあるのです」

 しかし、李氏はミリー氏の説明ですぐに納得することはなかったようだ。

 同著には「李将軍を納得させるのに1時間半かかった(通訳してもらう必要があったため、実質的には45分だった)。電話を切ったミリーは、状況は深刻だと確信した。李将軍は異常なほど混乱し、2国は大惨事が起きるきわどい状態にあると考えていた」とあり、中国側が大きな恐怖を示していたことがわかる。

いわゆる“パールハーバー”を恐れていた米中

 もっとも、中国側は、議事堂襲撃事件の2ヶ月前から、米国に対する警戒感を高めていたようだ。中国のような超大国の警戒感が高まると戦争のリスクも高まることがわかっていたミリー氏は、10月30日、李氏に「私はアメリカ政府が安定しており、全て大丈夫だと保証したい。我々はあなた方を攻撃したり、キネティック作戦をしかけたりしません。我々が攻撃することになったら、事前に電話を入れます。奇襲攻撃はしません。青天の霹靂にはなりません」と電話で伝えていた。アメリカは中国に奇襲攻撃はしないと告げたのである。それに対し、李氏は「わかった。あなたの言葉を信じる」と言ったという。

 しかし、その2ヶ月後に起きた議事堂襲撃事件による大混乱。ミリー氏は、中国は混乱する米国に対する恐怖を高めているに違いないと思ったようだ。しかも、米国には、大統領選後、精神状態が悪化し、核兵器という“引き金”をひくことが懸念されていたとも指摘されているトランプ氏がいた。

 トランプ氏のことを危険視していたミリー氏は、それを阻止しようと、1月8日、ペンダゴンのオフィスで高官らと秘密の会合を開き、自身の手順に従うようこう命じた。

「何を言われようとも、この手順に従ってもらいたい。私がこの手順の一部となっている」 

 つまり、トランプ氏が出すすべての命令(核使用も含まれる)について、必ず自分に知らせるよう高官たちに指示していたのだ。

 議事堂襲撃による混乱。そして、“引き金”をひくかもしれないトランプ氏の存在。中国は、そんな米国からの奇襲攻撃を恐れていたのか。

 米国もまた中国からの奇襲攻撃を恐れていたようだ。ミリー氏は軍隊での経験から、敵対国は怖がり、攻撃されると感じている時が最も危険であることを知っており、「中国のような敵対国は、欲すれば、いわゆる“先発者優位性“があること、あるいは“パールハーバー”のようなことをやろうと決めて、攻撃を行うかもしれない」と同著で述べている。

 ミリー氏はまた、同著で「我々は中国を理解していない。そして、中国も我々を理解していない」と米中がお互いに理解していない状況であることが危険で、議事堂襲撃事件のような混乱は大惨事に繋がる偶発的事件を誘発する可能性があり、状況は米ソが戦争に突入しかけたキューバミサイル危機時の緊張状態に似ていたと指摘している。

 議事会襲撃事件後、米中間で交わされた緊急電話には、“パールハーバー”のような奇襲攻撃、ひいては、それが米中戦争に繋がる可能性を防ぐ意味があったのだろう。

議事堂襲撃のような出来事はまた起きる

 今、米国民の多くが、再び、議事堂襲撃事件のような出来事が起きると考えている。 Axios-Momentiveが2022年1月1日〜3日に行った世論調査によると、調査した米国民の57%が、議事堂襲撃事件に似た出来事が、今後数年以内に起きると思うと回答している。また、米国は今、これまで以上に分裂しており、分裂はこれからも続くと考えている人々は53%と、これまで同様、半数以上の人々が米国は分裂していると回答。

 また、議事堂襲撃事件は、少なくとも一時的に民主政府に対する米国民の考え方を変えたと回答した人は63%と、半数以上が、事件は民主主義に影響を与えたと考えている。

 いわゆる“パールハーバー”が起きることを米中に懸念させた議事堂襲撃事件が象徴した民主主義の危機。アメリカの民主主義はこれからどこへと向かうのか。

(参考文献)PERIL

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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