「フグレン」小島賢治さん:北欧が世界のコーヒートレンドを変えた 現地レポ(4)
北欧のスペシャルティコーヒー界の焙煎業者や各国の農園が集まった北欧ロースターフォーラム。
連載4回目となる最後の記事では、ティム・ウェンデルボーさんという存在と、北欧コーヒー界の移り変わりについて、小島賢治さんにお話を伺った。
小島さんは、東京にあるオスロ発のカフェ「フグレントウキョウ」と小規模焙煎所である「フグレン・コーヒーロースターズ」の代表を務める。
小島さんにとって、フォーラムの主催者のひとりであるウェンデルボーさんは特別な存在だ。
今年のプログラムでは、気候変動がどれだけコーヒー栽培と農園に影響を及ぼすかというテーマにまで踏み込んだ。豆は、土や環境が整っていないと作ることができない。世界的な環境破壊によって、コーヒーはダメージを受けている。
北欧コーヒー界のオピニオンリーダーであるウェンデルボーさんが率先して、各国の農園でのリアルな体験談を話すことには意味があるとする小島さん。
気候変動とコーヒーについて考える時がきている
「今年のフォーラムでは、『気候変動が進むと、コーヒーが今後飲めなくなっちゃうよ』とまで話し始めています。『じゃあ、なんとかしようか』と言い始めた場所は、私にとってはここが初めてです」。
ウェンデルボーさんは、最終日のイベントで、自身のカフェが今年の競技でまた優勝したことを受け、スピーチの際に思わず涙を流していた。
「ティムが泣いたのは初めてみました。ここにいた人たちにとっては一番いい終わり方で、『じゃあ何かしなければいけない』と伝わったのではないでしょうか」。
「彼がいるから、私はコーヒーを続けています」
小島さんにとって、ティム・ウェンデルボーという存在は、ロールモデルだ。
「ティムがやっていることをやれば、遠く離れた日本でも、なにかいいことができるのではないか。そう思いながら追いかけてきた人です」。
何かにぶつかった時は、ウェンデルボーさんが過去にどう対応したかを参考にしてきた。そういう意味では、「彼のコピーであり続けたかった」と語る。
「彼がいるから、私はコーヒーを続けています」。
小島さんがコーヒーに興味を持ち始めたのは小学生の時。母親にコーヒーを淹れてあげることを楽しみにして、コーヒー屋さんになりたいと思ったそうだ。
コーヒーを淹れることから始まり、「味」の世界にはまり始めたきっかけが、ウェンデルボーさんとの出会いと、パナマのゲイシャという品種だったそうだ。
「高級豆をお土産に買ったのですが、ノルウェーで飲んだ時はおいしくなかった。こんなに高いお金を払ったのにな、と思いました。ところが、帰国後に東京で飲んだら、とんでもない味がしました。コーヒーじゃない。おいしさとか、判断できない。深いスープのような、フルーツトマトのような。煮込んだような液体。やばい、すごいと思いました」。
「ティムがきっかけで、コーヒーという味を好きになりました。ミルクも砂糖もいらない、コーヒーの味を突き詰めるようになったのは、彼がいたから」。
北欧のスペシャルティコーヒー界の変化については、「少しずつ進化している」と話す小島さん。
同時に「ノルウェーでは変化もしづらいのだと思う」そうだ。
「この国では、コーヒーは毎日飲むもので、特別ではないので。訴えかけても、お客さんから反応があまりなく、コツコツとやっていくしかなさそう」。
『オスロのコーヒーが、世界のコーヒーを変えた』
「でも、ノルウェー国内では影響はあまりなくとも、それは全世界に広がっています」。
「『オスロのコーヒーが、世界のコーヒーを変えた』と私は言えると思います。『それは、浅煎りだった』と、一言でいえる。浅煎りを広め、国内での変化よりも、世界的な変化をうんだのは、ティムであることは間違いないでしょう」。
来年のフォーラムには、もちろん参加したいと話す小島さん。
フグレンは、来年の1月を目安に、オスロにも焙煎所をオープンする予定だ。そうすると競技に参加する条件を満たすことができるため、小島さんが焙煎した豆がフォーラムのテーブルに並ぶかもしれない。
「これまでは審査する側でしたが、競技に参加できれば、さらに勉強になりそう」と、小島さんはわくわくしていた。
来年の催しは、またノルウェー・オスロで開催される予定だ。
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Photo&Text: Asaki Abumi