「コーヒーは詳しくないから」遠ざかる顧客をどう取り込む?ノルウェー・オスロ初コーヒー祭
9月30日、ノルウェーの首都オスロで国内初のコーヒーフェスティバルが開催された。
コーヒーの消費量が高いことで知られる北欧諸国。浅煎りで、酸味が特徴的な高品質コーヒーのブームの火付け役ともなった。
浅煎りコーヒーを提供するカフェが集中するオスロには、世界中からコーヒー好きが集まる。
無料イベントは以前から多かったが、実は「フェスティバル」は開催されたことがなかった。
その理由を、今回の「カフィカゼ・コーヒー・フェスティバル」(Kaffikaze Coffee Festival)を運営したイングリ・ヨンセンさんに聞いた。
「実際にフェスを企画して実感しました。仕事が多すぎ!この業界で働く人で、本業の傍ら、フェスにボランティアで携わる時間や体力のある人は多くはいないでしょう。よほどの情熱がないと、つらいと思います」。
コーヒーのデザインやマーケティングを手掛けるカフィカゼ社のヨンセンさんは、北欧のコーヒー界では有名人。人脈があったからこそ、今回のフェスに協力者が集まり、実現したともいえる。
出展者は売り上げをあげることはできないが、フェスはよいマーケティングの場となる。
今回のフェスが、これまでのイベントと大きく違ったことがある。
有料チケット制で、「コーヒーおたく」ではない「普通の人」も取り込もうとしたのだ。それは、高品質の豆にこだわる「スペシャルティコーヒー」業界の人々にとっては、大きな賭けだった。
「ノルウェーには課題がありました。この世界にもともと興味がある人にイベントに来てもらうことは簡単ですが、その外にいる人々からは距離を置かれていました」。
「私たちは傲慢で、コーヒーに詳しくない人を見下していると思われていた。私がこの10年間、何度も何度も体験したことがあります。コーヒーの話題を深く掘り下げようとすると、話し相手に引かれるのです。“私はそこまで分からないから”と、手をあげて、“勘弁してくれ”と拒否される。そのような雰囲気が、オスロだけではなくノルウェー中にありました」。
「自分はエキスパートではないからと、蚊帳の外にいると感じている人がいたのです。業界の人は、もっと多くの人と話したいと思っていたけれど、この見えないバリアをどうしていいか分からず、戸惑っていました」。ノルウェー独特のそのカルチャーを、どうにかしたかったとヨンセンさんは話す。
「ノルウェーの人々は、本当は誰もがコーヒーのエキスパートといえます。どこでもコーヒーを飲んでいて、歯医者にいる時でさえも、コーヒーを飲まないかと聞かれる環境ができています。これはこの国独特のものです。誰もがコーヒーのエキスパートだと、気づいていない人が多いだけ」。
「フェスの企画は、賭けでした。距離ができたこの2つのグループを、一緒にさせることができるか?」。
「今日の会場の雰囲気を見ていると、どうやら成功したようです」と、ヨンセンさんは微笑む。
これまでとは違う人々がフェスに来た理由には、直前にノルウェーのテレビ局や新聞社が報道してくれたことも関係している。
会場の出展者はノルウェー国内を代表する人気カフェばかりだった。
「常連客もいるけれど、いつもとは違うお客さんもいるよ」と、コーヒーを淹れるバリスタたちが喜んでいた。
フェスでは「楽しむ」ことがモットーとされていた。コーヒーだけにこだわらず、エスプレッソアイスやお酒コーヒーの提供、卓球で優勝したらドーナツをプレゼントなど、様々な催しが用意された。
昼と夜の部でプログラムは分かれており、チケットは各およそ2500円。それでも想定以上の売り上げを記録した。
会場では、「エアロプレス」と呼ばれる抽出技術の国内大会も開催。北欧のコーヒー界では最も有名なティム・ウェンデルボーさんが審査員長を務めた。
笑顔と笑い声であふれ、大成功のようにみえたフェス。「来年の開催予定は?」と聞くと、「今年の経営が大赤字にならなければ、やる予定!」とヨンセンさんは答えた。
Photo&Text: Asaki Abumi