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また起きた!フォークリフトによる子どもの事故

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(提供:イメージマート)

事例1:フォークリフトからパレットが落下し、小学生の頭に当たって小学生が死亡

2022年8月28日に発生。 

パレットは木と鉄でできており、約1.1m×約2mの大きさ、厚さ約26cm、重さ約100〜150kg。父親が普段仕事で使っていた。そのパレットが子ども(小学校3年生の女児、当時8歳)の上に落ちてきて、子どもの頭に当たり、死亡した。フォークリフトのパレットにベルトをつるし、それを揺らしてブランコのように使っていたと見られる。

参考:リフトでブランコ、小学生が死亡 高さ3mから、パレット落下(2022年8月29日 共同通信 Yahoo!ニュース)

事例2:フォークリフトの爪の部分に乗っていた小学生が転落して重傷

2022年11月27日に発生。

父親が運転するフォークリフトの爪の部分に乗っていた子ども(小学生男児、8歳)が転落し、左足を骨折した。子どもはフォークリフトの2本の爪に足を乗せ、運転する父親と向き合った状態で、進行方向後ろ向きに立っていた。

フォークリフトによる事故

 フォークリフトによる事故は、年間に2000件程度起こっている。フォークリフトは、労働安全衛生規則第151条の14に「主たる用途以外に使ってはいけない」ことが明記されており、多くの場合、それが順守されていると思われる。このような事故が起こると、「あり得ない」「間違った使い方だ」というコメントが寄せられるが、「あり得ない」「間違っている」と切り捨てるだけでは予防にはつながらない。実際に2022年8月に死亡事故が、そして11月に重傷事故が起きたのであるから、「主たる用途以外」に使うケースもあり得る、と考え方を変える必要がある。

「誤使用」について「ガイド50」では

 工学的なアプローチによって子どもの傷害を予防することを目的に活動している日本技術士会登録 子どもの安全研究グループのウェブサイトに、「ガイド50」について次のような紹介がある。

「ガイド50」とは国際規格 ISO/IEC Guide 50 の略称であり、子どもを傷害事故から守るための基本安全規格です。国際規格としては改訂第3版が2014年12月に発行され、日本ではこれを翻訳したJIS規格が2016年12月に制定・発行されました。

 この「ガイド50」には、「誤使用」について次のように明記されている。

子どもは,必ずしも“誤使用”とはみなされない方法で製品と環境との関わりをもつことから,子どもの場合は,特別に追加的な傷害防止の戦略が必要とされている。

 少々わかりにくいが、簡単に言うと、「子どもには誤使用という概念はない」ということである。つまり子どもの世界には、「『あり得ない』という言葉そのものが存在しない」と認識する必要がある。

アフォーダンス

 2022年8月に上記「事例1」のニュースを聞いた時はどういう状況だったのかよくわからなかったが、テレビの映像で事故が起こった状況がイラストで示されていて、状況をよく理解することができた。子どもを楽しませようと考えてのことだと思われるが、用途以外に使用すると危険性が高くなる。

 「アフォーダンス」という言葉がある。ヒトは、目の前に物があると何らかの行動を起こすが、その場合、使用方法が何も示されていなくても、決まった行動を起こす。平板の上に突起物があれば、触って、引っ張ったり押したりする。家の中にはいろいろなものがあり、たとえばソファは一般成人にとっては座るものであるが、乳幼児では、寝転がったり、上で飛び跳ねたり、よじ登ったりするものとして使用される。乳幼児にとって、ソファは単なる家具ではなく、遊具でもあるのだ。そこで、事故が起こる。フォークリフトも子どもにとっては魅力的な道具であり、保護者も子どもを楽しませたいと考え、「主たる用途以外」の使い方をし、その結果事故が起こったのではないか。

フォークリフト運転者に対する安全教育

 フォークリフトを運転するためには、専用の資格や免許が必要である。また、フォークリフト運転業務従事者に対し、定期的に安全衛生教育を実施することになっている。そのカリキュラムには「フォークリフトによる作業と安全」、「災害事例とその防止対策」といった項目があり、フォークリフトの運転者は安全について一定の知識を有している。

 しかし今回のように実際にフォークリフトで子どもが関わる事故が起こっている以上、フォークリフトの使用を労働安全の問題としてだけ考えるのではなく、子どもが興味を持って近づいたり、子どもが乗ったりすることを「あり得る」こととして捉え、

・フォークリフトに子どもを乗せない 

・子どもが運転できないよう鍵の管理を厳重にする

などの教育や、

・フォークリフトの設計を見直し、子どもがアクセスできないようにする

・新たな安全基準の策定を検討する

といった対策が求められる。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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