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たった「40秒の運動」で大きな健康効果が? 国立スポーツ科学センターなどの研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 適度な運動を習慣的に行うことは健康を維持するための重要な要素の一つだが、1分間にも満たない短時間の運動でもカロリー消費や筋肉の活動などへ大きな効果があることがわかった。

最大酸素摂取量とメッツ

 我々は、呼吸によって取り入れた酸素を利用し、食事によって吸収した糖や脂質を分解し、運動エネルギーを得ている。酸素をどれだけ取り込むことができるかによって、どれだけ身体活動や運動ができるかが決まるといっていい。

 酸素をどれくらい取り入れるかの指標が最大酸素摂取量で、1分間に体重1キログラムあたりに取り込むことのできる酸素の量(ミリリットル(Volume)/キログラム/分、Volume O2 max、VO2max)となる。

 一方、運動強度の単位にメッツ(METs)があり、こちらは酸素の消費量の指標で安静時と比べて身体活動時に何倍のエネルギーを消費するかで求められる(※1)。

 厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人の場合、3メッツ以上の強度の身体活動を週に23メッツ以上、3メッツ以上の強度の運動を週に4メッツ以上することが推奨されている。

高齢者・成人・子どもの身体活動の推奨例。「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」より
高齢者・成人・子どもの身体活動の推奨例。「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」より

最小の効果的な運動を探る

 最大酸素摂取量もメッツも加齢によって低下するが、身体活動や運動、筋力トレーニングなどによって高めることができる。運動習慣が重要ということだが、時間的余裕がなく忙しかったりし、推奨されているような身体活動や運動、筋力トレーニングの習慣的な実行が難しい人も少なくない。

 そのため、効果的な最小の運動はどれくらいか、日常生活で可能な範囲でどれくらい運動すればいいのかについての研究が進められてきた。

 最大酸素摂取量を強化し、全身持久力を向上させるためには、これまで一般的には中くらいの強度の運動を持続する有酸素トレーニング(Moderate Intensity Continuous Training、MICT)が行われてきた。

 だが、短時間の高強度の運動(ジャンプからスクワットの繰り返し、全力での自転車こぎ運動など)を、中程度の休憩時間を挟みながら間欠的に繰り返すトレーニング法(High Intensity Interval Training、HIIT)の効果が注目され、HIITは多くのスポーツ競技で取り入れられるようになっている(※2)。

 ただ、HIITの場合、高強度の運動の時間や休憩時間などに議論があり、30秒間の運動と30秒間の休憩、40秒間の運動と20秒間の休憩など、多様な組み合わせが試行されてきた(※3)。

 これらにより、30分以上のMICTより、休憩時間を挟む20秒間の高強度の運動のHIITのほうが最大酸素摂取量を向上させることがわかっている。

 だが、HIITでは高強度運動の時間を減らすとその効果が減るが、なぜなのか理由はわかっていなかった。また、HIITではエネルギー代謝に関する研究が多く、筋肉への影響を調べた研究はまだ少ない。

 そのため、HIITによる最小のトレーニング量や筋肉への影響を知ることができれば、国民の運動習慣や健康増進、生活習慣病の予防などに寄与する可能性がある。

 国立スポーツ科学センターらの研究グループ(※4)は、短時間で大きな運動効果をもたらすHIITについて調べ、その結果を米国スポーツ医学会の専門学術誌に発表した(※5)。

 同研究グループは、10秒間の全力スプリントを80秒間の休憩時間を挟んで4本(A)、20秒間の全力スプリントを160秒間の休憩を挟んで2本(B)、2種類の運動(総運動時間は同じ40秒間)を酸素消費量と筋肉の酸素の取り込み率、大腿部のMRI横断画像(※6)で比較した。

 どちらも研究参加者が自転車エルゴメータ(自転車こぎ運動)を使用して実施し、総運動時間(40秒間)とスプリント時間と休憩時間の比率(1:8)を統一した。

20秒間×2本=40秒間で効果が

 その結果、Aでは2本目以降の酸素消費量が頭打ちになり、筋肉の酸素の取り込み率はBのほうが大きかった。また、AもBも大腿部の筋肉の活動を増大させた。

比較したAとBのグラフ。早稲田大学のリリースより
比較したAとBのグラフ。早稲田大学のリリースより

 同研究グループは、10秒間以上の高強度運動を反復する場合、全身・筋肉の有酸素性エネルギー代謝を高めるためには2本で十分であること、総運動時間が40秒間なら1本あたりの時間を長くすることで筋肉の酸素消費量を最大限に高められること、わずか40秒間のHIITにより大腿部の主要な筋群の活動が高まることなどが明らかになったとしている。

 こうしたHIITを週に1回から2回程度、定期的に行うことで最大酸素摂取量や大腿部の筋肉量・筋力の改善が期待できると同研究グループは述べている。

 これまでの研究により、全身持久力の指標となる最大酸素摂取量が改善されることでアスリートの能力向上だけでなく、一般の成人でも病気の予防につながることがわかっている。

 また、加齢によって大腿部の筋肉量が減る傾向があり、サルコペニアによる転倒などにつながる危険性があるが、同研究グループによるHIITを行うことで、加齢による大腿部の筋肉量の減少を食い止める可能性もあるという。

 ただ、HIITは短時間でも高強度運動をするため身体的な負担が大きい。実際に始める前には十分な柔軟運動などを行うことが重要だ。同研究グループも、高強度運動に慣れていない人には20秒間の高強度運動を反復するのはハードルが高い可能性があると述べている。

 同研究グループは今後、HIITによる長期間の効果を検証し、15秒間を2本など、さらに強度と時間、回数などの効果的な運動方法を探っていきたいとしている。

※1:メッツ(Metabolic Equivalents、METs):横になって楽にしているような安静時を1(消費カロリー、1分間に体重1キログラムあたり3.5ミリリットルの酸素を消費する状態)とし、身体活動時に何倍のエネルギー量(メッツ×時間×体重)を消費したかを示した運動強度の単位。1メッツから2メッツはゆっくり歩くような低強度の運動、3メッツから5メッツは早足で歩くような中程度の運動、6メッツ以上はランニングなどの高強度の運動となる。
※2:Martin J. MacInnis, Martin J. Gibala, "Physiological adaptations to interval training and the role of exercise intensity" The Journal of Physiology, Vol.595, Issue9, 1, May, 2017
※3-1:Valéria L. G. Panissa, et al., "Magnitude and duration of excess of post-exercise oxygen consumption between high-intensity interval and moderate-intensity continuous exercise: A systematic review" OBESITY Reviews, Vol.22, Issue1, e13099, January, 2021
※3-2:F. Jose Arantes, et al., "Effect of different work and recovery settings during high-intensity intermittent training on maximal oxygen uptake and session volume responses" Science & Sports, Vol.36, Issue5, 415.e1-415.e7, October, 2021
※4:山岸卓樹(国立スポーツ科学センター)、岩田宗也(マツダ株式会社)、大塚俊(愛知医科大学)、一瀬星空(早稲田大学;論文採択時)、川上泰雄(早稲田大学)
※5:Takaki Yamagishi, et al., "Physiological and Metabolic Responses to Low-Volume Sprint Interval Exercises: Influence of Sprint Duration and Reppetitions" Medicine & Science in Sports & Exercise, DOI: 10.1249/MSS.0000000000003420, 11, April, 2024
※6:大腿部の8つ(大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広筋、大内転筋、大腿二頭筋長頭、半腱様筋、半膜様筋)の筋肉。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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