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宮崎盗伐事件の潮目が変わった! 海外からも向けられる厳しい目

田中淳夫森林ジャーナリスト
盗伐現場が、大雨で崩壊。水田を埋めてしまった

 宮崎県で大規模な盗伐が日常化していることを、これまで幾度も伝えてきた。そして犯人が捕まらないどころか、警察は被害届を受理しない、検察は不起訴にするケースが続出していることも。

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 だが、ついに動き出した。7月3日に宮崎県国富町で起きた盗伐事例の犯人が逮捕されたのだ。

 これは実際に無断で複数の所有者の山を伐採したケース。逮捕されたのは、日向市の素材生産業者「黒木林産」社長、黒木達也容疑者である。私は、この業者の名を以前から悪評判とともに聞いていた。各地に100ヘクタールを超える皆伐を行い、破壊的な作業を行う業者として地元でも有名だったのである。

 さらに19日に宮崎地方検察庁は、偽造されたスギの伐採届出書を宮崎市に提出し行使したとして、宮崎市の仲介業者を逮捕、偽造有印私文書行使の罪で起訴していた。県警は6月5日に同容疑で富永悟容疑者を逮捕していたそうだが、なぜか公表していなかった。

 宮崎県の盗伐で目立つのは、ブローカーの暗躍である。山林の所有者と交渉し伐採届をとりまとめる役割だが、往々にして不適切な手段で届に捺印させたり偽造したりする。そして伐採業者等に転売する。幾度も転売して責任の所在をわかりにくくする事例も少なくない。その仲介業者が逮捕されたことは大きい。

 そして23日、今度は宮崎検察審査会が、一度は不起訴になっていた盗伐事案を「不起訴不当」と議決した。これは、上記の「盗伐しても不起訴」のケースで紹介したもっとも初期に明らかになった盗伐事件だ。

 被害者自らが、偽装された伐採届が出されていることを突き止めて3人の容疑者を告発したのに、検察は不起訴にしていたのである。これを機に、被害者の海老原裕美さんは、「宮崎県盗伐被害者の会」を結成して声を上げ始めるのだが、ようやく報われたわけである。

検察審査会の「不起訴不当」の議決
検察審査会の「不起訴不当」の議決

 明らかに潮目は変わった。これまでかたくなに事件化させないようにしていた警察・検察が重い腰を上げ始めたといえるだろう。

 ただ、不満もある。国富町の盗伐では一目で何千本もの木が伐られていることがわかっているのに、立件されたのは7本にすぎない。同じく海老原さんのケースにしても、数百本伐られているのに、立件されたのは39本だけ。

 ほかにもいくつか立件されたケースが出てきたが、容疑を森林窃盗に限定したものが多い。より悪質な有印私文書偽造や詐欺については取り上げていないものが目立つ。事件を矮小化して、幕引きしようとしているのではないことを願う。

 なお重要なのは、彼ら盗伐関係者の多くが、宮崎県の「合法木材供給事業者」などに認定されていることだ。そして国と県から助成金を受けて、高価な林業機械等を購入しているのである。それが犯罪行為に使われていたことは極めて悪質である。補助金の返還はもちろん、今後の支出も厳しくすべきだろう。

 一方で、まったく新たな動きも起きている。それも海外からだ。中国のNPO法人陽光高齢者福祉産業発展研究センターの代表理事から、盗伐被害者の会に連絡があったという。代表者は日本語が堪能だ。この組織は中国環境保護連合会のメンバーで、北京の環境保護活動に取り組んでいるそうだ。NPOと言っても中国政府とつながりの深い大きな組織である。

 少し抜粋して紹介すると

「先日日本のマスコミより宮崎県盗伐の報道を見て驚きました。」

「調べてみたら最近特に中国向けの角材木は多くて、ひょっとしたら中に違法木材が混同するかもしれない。」

「とにかく異国の北京から宮崎県盗伐被害者の会の活動を応援いたします。日本での森林盗伐事件を聞いたらみんなが心が痛みます。」

 そして日本を訪れた先方の弁護士が、被害者の聞き取りを行ったという。

 この団体が中国国内でどれほどの影響力を持っているのかはわからないが、海外の団体にも日本の盗伐問題が知られ、日本から輸入している木材に混じっているのではないかと疑念を持ち出したのは間違いない。ほかにも国際的な森林環境問題のNGOにも情報は伝わっているから、今後は世界へ日本の盗伐の実態が発信されるようになるだろう。

 近年日本からの木材輸出が急伸している。それを「林業の成長産業化」につなげるという論調も強い。そして中国への木材輸出は宮崎県が非常に多い。日本の木材輸出の先頭を走っているのである。一方で中国は、輸入した木材を加工(製材など)して海外に再輸出しているが、そこで違法木材でないことを証明することが求められるようになった。

 もし中国側が、日本の木材の合法性に疑念を持つようになれば、今後の木材輸出にも響くのではないか。

 これまで違法木材と言えば、発展途上国の行っているもの、国産材は合法であることを自明としてきた。しかし盗伐が相次ぎ、日本の合法証明がいい加減であることが知られるようになったら、日本の輸出政策にもよい影響は出ないだろう。

 盗伐問題を国内の一部の地域で起きていることにすぎないと、甘く見ない方がよい。世界の目は、違法木材に非常に厳しくなっている。国内で抑え込んで知らぬ存ぜぬで通せる時代ではないのである。

(写真は、すべて筆者撮影)

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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