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EURO2020第14日。ウェールズを破壊した「未来の攻撃」、「第三の男」とは何か?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
メーレの3点目。ブライスワイトも4点目を挙げ役者はそろった(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

デンマークの圧勝だった。両チームの巨大な差とは、コンビネーション力の差であり、「第三の男」のようなプレーができるデンマークと、単独あるいは2人のコンビでの打開に留まったウェールズの差と言い換えてもいい。

第三の男とは何か? グアルディオラが師とあおぐ戦術家マルセロ・ビエルサの口から説明してもらおう。

「今ボールを持っている者ではなく、次にボールを受ける者のためにマークを外せる者のこと」

ベイルが前を持った時ラムジーが裏へ抜け出す動きをする。ベイルが第一の男であり、マークを外して受け手になるラムジーが第二の男である。トルコ戦の先制点、42分のゴールがこのパターンだ。パスを出してその間にマークを外しリターンをもらう、いわゆるワンツー(壁パス)も、第一の男と第二の男の2人による打開法だ。

■察知不能のデンマークの高度なコンビ

3人による打開とは、デンマークのこんなシーンをいう。

22分41秒、ストリガーが右サイドでボールを持った。これを見てブライスワイトがダッシュで近づく。ストリガーがブライスワイトにパスを出すのとほぼ同じ瞬間にデラネイがフリーランをスタート。ブライスワイトのリターンをもらったストリガーがパスをデラネイへ送った。ストリガーが第一の男、彼とクサビをしたブライスワイトが第二の男、そしてデラネイが第三の男である。

デラネイのマークを外す動きはストリガーがボールを離した瞬間に始まっていることがポイントだ。これがブライスワイトからのリターンをもらった時に始まっていれば、単なる第一の男と第二の男による打開に過ぎない。

デラネイはゴール前右寄りのエリアでまったくフリーでボールを受けた。これは、ブライスワイトとストリガー間のクサビという、ワンクッションが一枚噛んでいるせいで、ウェールズDFがボールウォッチャーとなってしまい、デラネイを見失ったからだ。

単調・単発ではこれ以上は難しい
単調・単発ではこれ以上は難しい写真:代表撮影/ロイター/アフロ

■先の先まで読むのは難しい

ビエルサは第三の男をマークする難しさを「察知不可能」と評する。同じことを元バルセロナのシャビ・エルナンデスも言っていた。ウェールズが察知できなかったので、誇張ではないのだろう。

ベイルが前を向きラムジーがフリーランをし始めたら、パスを受けるためだとすぐわかる。彼を追い掛けなかったトルコDFが不注意であり、明らかなミスである。

だが、デラネイをフリーにしたウェールズDFにミスがあったとは必ずしも言えない。デラネイがランをスタートした時パスの受け手ブライスワイトは背中を向けている。よって、デラネイにはボールの出しようがない。ストリガーがリターンをもらって初めて、デラネイへの危険なパスコースがあることがわかる。が、時すでに遅し、だった。

■2人は察知可能、3人は不可能。なぜ?

ブライスワイトが下がって空けたスペースをデラネイが使ったことも含め、3人による計算された高度な打開だった。ゴールにはならなかったが、デンマークのヒュルマンド監督が拍手する姿が映った。

50分43秒にもこんなプレーがあった。

右サイドでストリヤーがボールを持つと、デラネイが大きく輪を描きながら近づき遠ざかる不思議なランを始める。ストリヤーからのパス目当てのランではない。ボールは下がって来たドルベリに渡り、ドルベリはワンタッチで横をすり抜けて上がるデラネイに出す。デラネイは当然まったくフリーでゴールへ向かった。この時は下がって来たドルベリをスクリーンに使い、彼とすれ違うことでマーカーを物理的に剥がす、という一工夫もあった。

まとめると、「第三の男」は①一見ボールと関係のないタイミングで、関係のないところへフリーランをする、②第一の男と第二の男のパス交換でDFがウォッチャーとなってしまう。よって、察知されずフリーになる。

このしゃがみ方、叫び方。現在はプレミアリーグ、リーズを率いる
このしゃがみ方、叫び方。現在はプレミアリーグ、リーズを率いる写真:代表撮影/ロイター/アフロ

■ビエルサが未来を託すわけ

ビエルサは第三の男を「未来の攻撃」とまで呼んでいる。

察知不可能でフリーの選手が次々とできる攻撃を阻止することは、論理的にできないからだ。第三の男を使いこなせる者、すなわちサッカーを知る者であり、未来の攻撃を制する者であり、第三の男をマスターさせることを自分の監督としての使命だ、としている。

■未来の攻撃のための練習メニュー

ビエルサには全然及ばないが、私も指導者なのでコンセプトを理解するための非常に初歩的なエクササイズを1つ紹介しておく。

コーンを2つ立てて、一方にボールを持った者(第一の男)、もう一方に彼のパスの受け手(第二の男)を立たせる。第一の男がパスを出した瞬間に3人目(第三の男)が彼の背中をすり抜けるようにスペースへ駆け上がる。ボールを受けた第二の男が第三の男へパスを出して1クール終了。簡単でしょ?

これができたら第二段階として、ボールを受けた第三の男が第一の男として第二の男へパスを出し、さっき第一の男だった者がフリーランをして第三の男に変身、第二の男からのパスを受け取るという、動きを連続して行う。つまり第二の男は固定、第一の男と第三の男の役割がクールごとに交互に変わるわけだ。

第三段階では、パスを出した後に第一の男が斜めにフリーランをし、やはりパスを出した第二の男も斜めにフリーランをすれば、最終的には3人の役割がクールごとに変わるローテーションができる。そうやって頭と体が覚えたら、次にデンマークがやったクサビパターンもやってみる――。

■あの選手はイニエスタそっくり!

試合をするごとにデンマークには発見がある。

ボール出しの名人ホイビェア、その前で面白い動きをするデラネイ、両足でタッチしながらひょいひょいと抜け出しパスを出すダムスゴーはイニエスタを髣髴とさせる。ドルベリは積極的に動いて崩しに参加できるCFで、192cmのコルネリウスの意外な器用さにも驚かされた。大会有数の左SBメーレと、ブライスワイトのスピードも目を見張る。

オランダ対チェコの勝者と当たる準々決勝もどんな集団技と個人技を見せてくれるのか楽しみだ。

※残り1試合、イタリア対オーストリアについてはこちらに掲載される予定なので、興味があればぜひ。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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