新オープンの肉割烹が紡ぐ“引き算”の肉料理とは? その魅力と迫力の全15品を紹介
日本が誇る黒毛和牛
黒毛和牛は日本が世界に誇る食材です。
その特長は、きめ細やかなサシによる口溶け感と、豊かな和牛香。食味も食感も香りも、一度食べれば他の肉と違うことが瞬時にわかるでしょう。
和牛は農林水産省が定める、日本ならではの強みを持つ28品の輸出重点品目のひとつにもなっています。2021年の輸出額は537億円。2020年と比較して200億円以上も増加しているなど、海外からの需要が高いです。
「うし富味」が新富町にオープン
この黒毛和牛を主役にした日本料理を提供し、和の趣を持つ肉料理店として有名なのが、麻布十番の「kumasan 麻布」。ライブ感溢れるカウンター席が中心で、プライベート感のある個室も設けられています。
そして、今話題になっているのが、「kumasan 麻布」の姉妹店として、2022年6月14日にオープンした新富町の「うし富味」。
料理長は2018年のオープンから4年間「kumasan 麻布」料理長を務めた永井克宜氏です。
日本料理の基本に忠実な引き算の料理
「kumasan 麻布」が素材と素材を掛け合わせる足し算の料理であるのに対して、「うし富味」は日本料理の基本に忠実に、素材そのもののおいしさをシンプルに引き出す引き算の料理。
「うし富味」で提供されているのは月替りの「お任せコース」(18,000円)だけですが、どのような料理を体験できるのでしょうか。
雲丹 ユッケ キャビア 花穂
キタムラサキウニの殻を用いて、ウニ、ユッケ、キャビアが協奏した贅沢な冷菜です。花穂紫蘇の爽やかなアクセント。
八寸
上ミノ三つ葉浸し 茄子 万願寺とうがらし ハツ黄ニラオイル 稚鮎唐揚げ ローストビーフ
肉と魚介類をバランスよく取り合わせた華やかな八寸。上ミノは三つ葉に浸してさっぱりとしています。とろっとした京都の賀茂茄子は万願寺とうがらしと合わせました。タコのやわらか煮はテクスチャと甘味が、日本酒とよく合います。イチボ肉のローストビーフはしなやかな食感と適度なジューシー感。稚鮎は丸ごとカラッと揚げられ、牛ハツは黄ニラオイルを合わせて中華風のニュアンスが感じられます。
お椀
清汁仕立て 鱧 冬瓜 独活 木の芽
旬のハモとトウガンを大ぶりにカットして、繊細な清汁と合わせました。木の芽が爽やかです。
タン刺し 浜防風
タン元には隠し包丁を入れ、よりやわらかくし、口溶け感も豊かに。希少な浜防風を添え、塩昆布のスライスによって旨味が増しています。
九絵刺し 醤油 山葵
食味の素晴しい、長崎県五島列島のクエ。一週間0度で低温熟成させているので、脂が落ち着き、コクも深まっています。備前焼の器も趣があります。
すっぽん和牛メンチカツ 黒酢ソース
大きなコロッケの中には、黒毛和牛のメンチカツと、スッポンのスープが包まれています。小籠包のように汁を楽しむ一品で、途中で加えてもらえる黒酢ソースによって味変も。
サーロイン、しゃぶ 尊菜 野菜
サーロインをしゃぶしゃぶにしました。たっぷりのジュンサイやミョウガ、ネギなどを加えて、軽やかな食後感に。
皮付きヤングコーン 炭焼き
皮とヒゲの付いたヤングコーンをしっかりと炭焼きにしました。サクサクとした歯触りで、口の中に甘味が広がります。
ヒレカツ巻き 漬け醤油
シグネチャーディッシュのひとつで、赤シャリの上にヒレカツがのせられています。その上には木の芽と生胡椒があしらわれ、顔のように見えて可愛らしいです。仕上げに自分で海苔を巻いて食べますが、厚みがあって大満足のボリューム。
厚切りタン焼き レモン
厚切りしたタンをレモンの上にのせるユニークなプレゼンテーションです。タンは厚みがあって穏やかな火入れでやわらかく、噛みしめる度に旨味が広がっていきます。
ヒレ焼き 醤塩
ヒレ肉を、表面はしっかりと、中はミディアムレアに焼きました。馥郁たる和牛香と妙妙たる赤身の味わいが体験できます。3日間かけて醤油から作られた塩は香り高く、よいアクセントに。
焼き飽 白ダツ 土佐酢
江戸切子のガラス器で見た目も涼しげです。弾力のある蒸しアワビに妙味をもつ白ズイキを合わせ、土佐酢でカツオの旨味も加えています。
新生姜ご飯 枝豆
新ショウガのやさしい辛味と枝豆の豊かな香りの取り合わせが出色。木の芽をたっぷりと散らしています。
ご飯のお供 赤出し
ご飯のお供は、ジャコ、温玉、キャベツとゴボウのキンピラ。どれも濃厚な味で、ご飯にぴったりです。
手打ち蕎麦 薬味
永井氏が自ら手打ちした二八蕎麦。更科蕎麦で軽やかな味わい。薬味はネギ、煎り胡麻、ワサビ。
青梅蜜煮
山形県の青梅を蜜煮して、とろっとした控えめな甘味に仕上げました。
「うし富味」の魅力
肉料理を中心として実に様々なメニューが提供されましたが、改めてその魅力について触れていきましょう。
最大の魅力は、8席のL字型カウンターの向こうで繰り広げられるパフォーマンスです。先に紹介したように、料理長を務める永井氏は肉と日本料理のスペシャリスト。カウンターガストロノミーの経験も豊富なので、立ち居振る舞いに無駄がなく、パフォーマンスが美しいです。
料理の説明はわかりやすく、会話はウィットに富んでいるので、割烹スタイルに相応しい料理長。食材を包丁で刻む音、七輪で肉を焼く香り、鍋から伝わってくる熱気など、臨場感が満載です。もちろん、肉にもこだわっており、取材時には近江牛や山形牛など黒毛和牛のA5等級が用いられていました。
肉割烹にしてはワインが充実しているのも特長です。グラスのシャンパーニュでは高級なヴィンテージシャンパーニュとして知られる「サロン」の姉妹メゾンである「ドゥラモット ブリュット」が用意されています。フランス・ブルゴーニュの「ジャン・クロード・ラモネ ブーズロン 2019」、フランス・ラングドックの「ジェラール・ベルトラン シガリュス ブラン 2020」など、素晴しいワインがグラスで提供されていました。
どっしりとして趣のある備前焼などの陶器、色使いが鮮やかな九谷焼をはじめとした陶器など、食器を愛でるのもまた一興。
「うし富味」がオープンした背景
「うし富味」はどのような経緯で誕生したのでしょうか。
永井氏は答えます。
「以前から日本の四季を表現した料理をつくりたいと考えていました。肉に季節はありませんが、魚や野菜には季節があります。それぞれの時季に最もおいしい食材を、シンプルになるべく手を加えず、お客様にお届けしたかったんです」
このように考えた結果、もっと日本料理に寄った新しい業態をオープンすることになりました。
「この場所は寿司屋の居抜きで、以前から押さえていた物件でした。昨年11月に『かにじぇんぬ』を銀座にオープンしましたが、実は同時進行で『うし富味』のオープン準備も進めていたんですね」
最後に永井氏は、真摯に述べます。
「華やかな銀座とは違って、八丁堀や新富町はとても落ち着いた街です。なので、お客様は本当においしいものを求めて、こちらまでいらっしゃるのだと思います。みなさまが求めてくださったり、喜んでくださったりするものを、ご提供していきたいですね」
肉を知り尽くした永井氏の“引き算”による肉割烹が、ゲストに素晴しい食体験を与えてくれることは間違いありません。