パラリンピック金メダリストに学ぶ、ネットやSNSの力の活かし方
13日間にわたったパラリンピックが閉幕しようとしています。
コロナ禍で、デルタ株が猛威を振るい開催の是非も議論もある中での開催ではありましたが、大会に出場された選手の方々の活躍は、多くの人の心を動かしたのではないでしょうか。
一つ一つの競技においても、オリンピックの競技に引けを取らない白熱した勝負や、見事なパフォーマンスを見せていただくことができましたし、個人的にも印象的だったのが、子供たちがオリンピックのメダリストと同様にパラリンピックのメダリストに対してシンプルに尊敬の念を見せていたことです。
うちの息子も、毎日の様に水泳の鈴木孝幸選手や、イハル・ボキ選手の活躍に釘付けになっていましたし、車いすラグビーの試合には衝撃を受けていました。
また、後半は日本選手の活躍もあってすっかりボッチャの虜になり、尊敬の目で杉村選手や廣瀬選手のプレイを見ているのが、とても印象的でした。
パラスポーツを通じて、子ども達が選手達を「障がい者」としてではなく、「アスリート」として尊敬の目で見ることができるというのは、改めてパラリンピックの意義を感じる瞬間でした。
また、そうした雰囲気はSNS上も同様。
パラリンピックの選手達を応援する声も、オリンピックに勝るとも劣らない盛り上がりを見せていました。
そんな中で、個人的にも、特に今後につながる活動をされていると感じたのが、今回の東京パラリンピックで見事に二つの金メダルを獲得された、陸上の佐藤友祈選手のSNS活用です。
大会開幕前から積極的にSNSを活用
佐藤友祈選手のSNS活用で、最も印象的な投稿は、オリンピック開催前の7月21日に、オリンピックやパラリンピック開催への反対の声が高まっていたタイミングで、金メダルを取ると宣言したこちらの投稿でしょう。
当時は、長引くコロナ禍に対するストレスや、コロナに対する政府の対応方針への不満が、政府だけでなくアスリートにも向けられてしまっていたタイミング。
そうした中での勇気ある、この投稿は非常に注目されました。
参考:オリンピック選手を悪質な誹謗中傷から守る為に、今から私たちができること
佐藤選手はクラブハウスも積極的に活用していましたし、パラリンピック開催前から、SNS活用に非常に積極的だった選手の一人と言えるでしょう。
オリンピック選手よりも高いツイッター活用率
もちろん、ここまでのアグレッシブな投稿は珍しいとは言え、今回のパラリンピックでは様々なパラリンピックの選手がSNS投稿をされています。
Twitterスポーツのアカウントがまとめている日本選手団のツイッターリストをもとに、ツイッターの活用率を見てみると、オリンピックの日本選手や競技団体のアカウントが197個なのに対して、パラリンピックの日本選手や競技団体のアカウントは合計115個あるようです。
参考:東京パラ日本代表選手(210727現在) / Twitter
オリンピックの日本選手の数が583人で、パラリンピックは254人だったことを考えると、ツイッターの利用率の単純計算で言うと、パラリンピックの日本選手団の方がツイッター活用率は高いことになるのです。
ただ、競技や選手としての知名度は、オリンピックの方が高いですから、パラリンピック選手や競技団体のアカウントは、オリンピック選手に比較するとフォロワーの数はそれほど多くありません。
今大会の車いすテニスで見事に金メダルを獲得された国枝選手でも、フォロワー数は8000人ほど。
もちろん国枝選手がアカウントを開設されたのが昨年の9月と最近なことを考えると8000人は十分多いのですが、テニスの錦織選手や大坂なおみ選手が100万人前後のフォロワーがいることを考えると、意外に思う方も少なくないはずです。
参考:国枝慎吾選手を世界のレジェンドが絶賛したエピソードとは?「日本には…」
フォロワーを増やして自らが応援団に
実は、佐藤選手も例外ではなく、前述の動画が話題になり、宣言通り金メダルを二つ獲得した後も、実はツイッターのフォロワー数は1200人程度だったようです。
ただ、佐藤選手はそこでこのタイミングを捉えるべく、フォロワーの方々に自分が走った1900mにちなんで、閉会式までに1900人のフォロワーを目指すという投稿を実施。
この投稿に刺激を受けたファンが奮起して拡散したり、香取慎吾さんが紹介したりしたこともあり、一気にフォロワー数を増やすことに成功。
1200人だったフォロワーは、この記事執筆時点で7300人を超えています。
そうすると佐藤選手は、SNSの使い方をギアチェンジします。
今度はその増えたフォロワー数を活かして、他の選手の投稿をリツイートしたり、アカウントを紹介したりと、他の競技の応援団に変身。
パラリンピック全体を盛り上げようと活動されているのです。
なにしろ、パラリンピックは4年に1回。
次のパリのパラリンピックまでも3年待たなければいけません。
今回日本で盛り上がったパラスポーツへの注目の火をいかに消さずにつなげていくかというのは、今後に向けて重要なポイントになるはずです。
佐藤選手は、パラリンピックに注目が集まっている間に、自分だけでなくそれぞれのパラスポーツのアスリートへの注目度を少しでも高め、次のパリ大会までの合間のパラスポーツの盛り上げにつなげようとされているのだろうと感じます。
ネットやSNSの力でいかにファンとつながるか
野球やサッカーのように、テレビ放映や有料ネット配信がされるメジャースポーツとはことなり、ほとんどのスポーツは、オリンピックやパラリンピック以外の大会において集客やスポンサー集めに苦労するといわれています。
ただ、実はその状況を変え始めているのが、インターネットやSNSを活用した地道な集客活動。
例えば、男子800mの元日本記録保持者である横田真人氏は、自らが代表を務めるTWOLAPS TCを中心に、さまざまなネットやSNSの発信を行い、EKIDEN Newsなどのメディアの助けも借りながら陸上大会への注目を高めています。
その努力の積み重ねの成果もあり、TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUITという 国内最高額となる賞金100万円を懸けたサーキット型の陸上大会の開催に成功しています。
参考:【陸上】賞金100万円を懸けた「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」
SNSやインターネット上であれば、実は肉体的な障がいがあることはハンデになりません。
今後、佐藤選手のように積極的に発信をするパラアスリートが増えていくことによって、パラリンピック以外のパラスポーツの試合に足を運ぶ人が増えていく可能性は、十分高いと言えるはずです。
パラスポーツのために私たちでもできること
Netflixで「ライジング・フェニックス」というパラリンピックをテーマにしたドキュメンタリーが配信されています。
その中で、今回の東京パラリンピックで圧倒的なメダル獲得数を誇っている中国において、2008年の北京パラリンピック大会が、人々の中に残っていた障がい者に対する偏見を大きく変えることに貢献したという逸話が出てきます。
おそらく今回の東京パラリンピックも、日本における「障がい者」やパラスポーツの位置づけを大きく変える機会になったのは間違いありません。
私個人も恥ずかしながら、これまでパラリンピックの競技は、ニュースで日本選手のメダル獲得を知るぐらいの知識しかありませんでしたが、今回の東京大会を通じて、本当にたくさんの勇気や刺激をいただきました。
パラスポーツを通して発信される価値やその意義を通して、世の中の人に気づきを与え、より良い社会を作るための社会変革を起こそうとする活動のことを「パラリンピックムーブメント」と呼ぶそうです。
佐藤選手が地道にSNSで実施している活動のように、私たちも今回の東京パラリンピックを、「パラリンピックムーブメント」に貢献する方法を考えるきっかけにするべきなのかもしれません。