日本人が初めて15年連続の三つ星レストランで総料理長に! 関谷健一朗氏のインタビュー全文を大公開
「ミシュランガイド東京2022」が発売
2021年12月3日に「ミシュランガイド東京2022」が発売されました。
総掲載店数は432軒で、三つ星12軒、二つ星41軒、一つ星150軒、ビブグルマン229軒となっています。新規掲載店は55軒と入れ替わりも少なくありません。
料理カテゴリーは36種類と幅広く、多様な食文化が体験できることが示されています。星の合計数からしても、東京は引き続き世界有数の美食都市であるといってよいでしょう。
素晴らしいレストランばかりが掲載されていますが、最も注目されるのは、やはり三つ星店。そして同じ三つ星店の中でも特別なのが、2007年の発刊以来ずっと三つ星として掲載されている「かんだ」「カンテサンス」「ジョエル・ロブション」です。
関谷健一朗氏が総料理長に就任
どれも世界的な素晴らしいレストランですが、最近大きなニュースがあったのが「ジョエル・ロブション」。
なぜならば、2021年11月1日に関谷健一朗氏が日本人として初めて総料理長(エグゼクティブシェフ)に就任したからです。
旗艦店の「ジョエル・ロブション」をはじめとして、日本国内で展開するロブショングループのレストラン、ブランジュリーやパティスリー、カフェで提供される全てのメニューを統括する立場となりました。
関谷氏は弱冠26歳の若さでジョエル・ロブション氏に推挙され、パリにある「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」のスーシェフに抜擢された料理人。2010年からは東京・六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」のシェフを務め、同店は「ミシュランガイド東京2008」からずっと二つ星として掲載されています。
料理コンクールでも実力を発揮。「第52回ル・テタンジェ国際料理賞コンクール インターナショナル(パリ)」で、日本人として34年ぶりの世界一に輝いた実績を有します。
トップシェフの名をほしいままにしている関谷氏が総料理長に就任したことによって、美食のロブショングループは今後どうなるのでしょうか。
話題の人である関谷氏にインタビューしました。
関谷健一朗氏へのインタビュー
Q:どういった経緯で総料理長に就任したのですか?
関谷氏:総料理長の話は以前から聞いていたのですが、正式に提案があったのは2021年9月でした。ここ数年は色々な店舗をみるようになっていたので、このための準備期間であったように思います。
Q:総料理長に就任して、どのような気持ちですか?
関谷氏:正直なところ、荷が重たいですね。ただ、六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で11年間働いてきて、そろそろ新しいチャレンジもしたかったのでよいタイミングでした。私がずっといても、下の世代が上がれないので、チームのためにもよかったのではないでしょうか。
歴代の総料理長が何でも相談してくれと好意的に応援してくださったり、ゲストがお祝いの花をくださったりしているので、是非とも頑張りたいです。
Q:総料理長に必要なことは何だと思いますか?
関谷氏:私は社交的ではなく、特に指導力があるわけでもありません。みんなが支えてくれるからやっていけるのだといつも感じています。
みんなについてきてもらうには、自分が見本となり、この人には敵わないと思ってもらうことが必要ではないでしょうか。そのためには下の料理人たちに負けてはいられません。シェフだからといって、腕を組んで指示しているだけではいけない時代だと思います。
常に上を目指し、料理コンクールにも挑戦してよい成績を残すことも大切です。ただし、よい成績を収めたら終わりではありません。結果よりもその先がもっと重要で、よい成績に見合うだけの実力を維持し、よい仕事をしていかなければならないと思います。
Q:ロブション氏は総料理長就任についてどのように考えていると想像していますか?
関谷氏:どのように声をかけてもらえるかは想像つきませんが、きっと応援してくれたのではないでしょうか。ミシュランガイドでは三つ星をとるよりも維持する方が難しいとよく聞かされていました。総料理長に関しても、総料理長になるよりも総料理長になった後の方が重要であるといわれたのではないかと思います。
Q:総料理長の業務を教えてもらえますか?
関谷氏:私のミッションはロブションと名の付く商品やレストランのクオリティを維持・向上していくことです。
夜はだいたいガストロノミー「ジョエル・ロブション」にいますが、平日のランチは営業していないので、その間に他の店舗に足を運んでいます。
食材探しも重要ですが、以前から行っていることなので、総料理長になったからといって変わりはありませんね。人材育成も非常に重要です。
Q:どのように料理人を育てていきたいですか?
関谷氏:調理技術は教えないとわからないので、話したり一緒にやったりして伝えていきたいです。料理はまぐれでできることはありません。日々の営業、ひとつひとつの積み重ねで成長してもらいたいです。
ただ、教えられた通りに仕事することは重要ですが、教えられた通りにだけやっていればよいわけではありません。たとえば、魚を下ろしてから何時間経っているか、気温や湿度がどれくらいなのか、その時々によって食材の状態も違います。自分でよく考えて業務に取り組んでもらいたいですね。
なぜその食材なのか、どうしてその調理法なのかも、しっかりと突き詰めてほしいです。一皿をつくった時に、どうしてこの要素を入れたのか答えられないのなら、ハーブ1枚にしても、それは必要ないものです。
今はコロナの影響でフランス人の料理人が店にいません。これまでは必ずフランス人の料理人がいたので、初めての状況だと思います。日本人が日本でフランス料理をつくるのは特殊なことなので、なぜ他の国の料理をつくるのか、どうしてそれでお金をいただけるのか、料理人としてよく考えてもらいたいです。本物のフランス料理ではないといわれたらそれまでなので、フランス人以上に勉強して、情熱を持って仕事をしてほしいですね。
ロブションさんから教えられた食材との関わり方も伝えていかなければなりません。
生きていた動物や植物が命を失って、食材になります。その食材に改めて命を吹き込んで生き返らせるのが料理です。動物であれば、生きていた時に誰にどのように育てられ、何を食べてきたのかなど、想像することが大切です。そのように考えることで、付け合せの食材やソース、火入れの加減などがみえてくるからです。
フランス料理はもともとサスティナブルな料理。豚一頭にしても肉、血、骨、頭など全ての部位を無駄なく使います。食材に感謝して料理をつくり、少しも無駄にしてはなりません。
Q:日本に展開しているロブショングループの店舗をどのように捉えていますか?
関谷氏:幸いなことに、日本全国で名前を知っていただいていると思います。それに比例してお客様の期待値が高くなっているので、しっかりと応えなければなりません。どこにも負けないものをつくらなければと考えています。
店舗は東京にしかないので、他の地域でも体験していただけるように取り組んでいます。全国にお送りできる冷凍パンを開発していて、配送テストを行っているところです。
Q:ロブショングループに対して、どのような思いをもっていますか?
関谷氏:今後もずっとロブショングループが続いていってほしいと思います。そして常に1番であることを願っています。
私にできることは、ロブションさんの料理を伝えていくこと。同じレシピであったとしても、つくる人の思いによって、目に見えない何かで変わると考えています。レシピは時代と共に新しくなっていきますが、その裏側にある思いを後進に伝えていきたいです。
Q:これまでの料理人生を振り返っていかがですか?
関谷氏:これまで楽な道と辛い道があれば、必ず辛い道に進んで行きました。ただ、辛いという感じではなく、充実していて楽しかったですね。20代はフランス、30代は六本木、40代は恵比寿で働いてきましたが、50代、60代になった時にどこで働いているのか自分でもワクワクしています。どこまでいけばゴールなのか、自分自身に満足することはおそらくないのではないでしょうか。
Q:今後チャレンジしたいことはありますか?
関谷氏:日本人にしかつくれないフランス料理をつくりたいですね。日本人だからこそできるフランス料理をつくって、世界に発信したいです。
以前にフランスから帰国したすぐの頃、あるフランス人シェフが「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に食べに来てくれたことがありました。その時に、日本の食材でつくったフランス料理だといわれたのが嬉しかったですね。
料理コンクールでまた世界一になりたいとも考えています。近いところで大きな目標は、フランス人も認めるフランス料理をつくる職人としての頂点を目指したいです。ロブションさんの弟子でとっている人は多いので、是非とも挑戦したいですね。
日本の食が次のステージへ
ロブション氏の料理哲学は「料理は愛」です。関谷氏の話を聞くと、ゲストへの愛があり、食材への愛があり、生産者への愛があり、チームへの愛があり、これら全ての愛を通して料理をつくっているという思いが強く感じられます。
関谷氏は雄弁なタイプではなく、着実に少しずつ言葉を紡いでいく料理人ですが、その内に秘めているフランス料理と日本に対する愛情も計り知れません。
日本の食は世界的に評価されており、東京は美食都市と称賛されていますが、世界に名を轟かす「ジョエル・ロブション」で日本人初の総料理長が誕生したことによって、日本の食はさらなる次のステージに上ったといってよいのではないでしょうか。