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【上りと下りのランニングの効果の違い、知ってますか?】文献からみる、その効果から気を付けて欲しいこと

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ
下り坂は楽だけど・・・:写真はPhotoACから

この夏の時期は、山中の涼しいところで練習をしているランナーも多いと思います。山中のコースは坂が急勾配で、上りは大変だけど下りは楽。上りはいいトレーニングになるけど、下りは練習になるの?そんな疑問を持たないでしょうか。そんな疑問に対して、2024年7月にオンライン公開されたフランスの文献を元に説明していきたいと思います。

13人の男性ランナーの研究から

この研究では13人の男性ランナーについて調べています。平均年齢は25歳で、平地における最高酸素摂取量は平均60.1ml/分・kg、その時の走行速度は16.4km/時でした。イメージとしては、フルマラソンを3時間10分くらいで走るランナーでしょうか。そんなランナーを被検者として、斜度-15%(下り)、-7.5%(下り)、フラット、7.5%(上り)、15%(上り)のトレッドミルを走ってもらい、7.5km/時から徐々に走行速度を上げていき、疲労困憊に至った際の最大酸素摂取量を調べています。

トレッドミルの斜度と最大酸素摂取量の関係:Lemire M et al.Sports Med Open.2024
トレッドミルの斜度と最大酸素摂取量の関係:Lemire M et al.Sports Med Open.2024

結果、極端な下り坂でなければ、疲労困憊になるまで速度を上げれば最大酸素摂取量は十分に上昇することが分かりました。心肺トレーニングとしてはいい効果が得られるのではないでしょうか。-15%では心肺機能、つまりは循環・呼吸の限界よりも、足の回転やブレーキングの力が律速要素になってしまうようです。この文献では、-7.5%の下りから15%の上りについてはほぼ変わらないとしていますが、実際には少しだけ上り坂の方が高いのが見て取れます。上り坂の方が最大酸素摂取量が高くなるという研究もあり(変わらないとする研究もあります)、そのような傾向はあるのかもしれません。

では下り坂で走るのはやめた方がよいのでしょうか。文献内にあるデータを用いて利点も考えてみましょう。

下り坂トレーニングの利点・欠点

(上) トレッドミルの斜度ごとのランニングフォームや力の違い、 (下)斜度ごとの神経筋疲労・自覚運動強度・筋肉痛:Lemire M et al.Sports Med Open.2024
(上) トレッドミルの斜度ごとのランニングフォームや力の違い、 (下)斜度ごとの神経筋疲労・自覚運動強度・筋肉痛:Lemire M et al.Sports Med Open.2024

下りのランニングの特徴は、ダイナミックさです。ストライドが長く、ピッチが速くなっています。そしてそれは、速く走るフォーム造りに向いています。ですが神経や筋肉へのダメージは大きくなります。結果、筋肥大にも繋がるので筋肉の耐久性の向上が見込めますが、故障するリスクも高くなります。

斜度の高度な下りは避けた方がいいのですが、軽い下りであればフォームが大きくなり心肺にもいい刺激になります。筋肉もつきやすくいい効果が生まれるのではないでしょうか。文献では-7.5%までとしていますが、筋力のない女性や実力のある速いランナーの場合は、もう少し緩い下りにした方がいいかもしれません。

上り坂トレーニングの利点

(左) トレッドミルの斜度ごと地面反力(ブレーキ・推進力)、(右)斜度ごとの最大強度での酸素摂取量、呼吸および乳酸の変化:Lemire M et al.Sports Med Open.2024
(左) トレッドミルの斜度ごと地面反力(ブレーキ・推進力)、(右)斜度ごとの最大強度での酸素摂取量、呼吸および乳酸の変化:Lemire M et al.Sports Med Open.2024

上りのランニングの利点は「最大酸素摂取量を上げる」、つまりはしっかりと心肺を追い込めることですが、それ以外にも血中乳酸濃度を上げやすいことにあります。血中乳酸濃度が上昇すれば、乳酸の代謝が亢進したり、乳酸が高くても頑張れる体になっていきます。そうして乳酸の代謝・抵抗力が向上すれば、速いペースや終盤の乳酸が溜まりやすい環境で頑張れるようになり、結果としてスピード・スタミナの向上につながります。

結局、平地トレーニングが一番大事!

(上) トレッドミルの斜度ごとのランニングフォームや力の違い、 (下)斜度ごとの神経筋疲労・自覚運動強度・筋肉痛:Lemire M et al.Sports Med Open.2024
(上) トレッドミルの斜度ごとのランニングフォームや力の違い、 (下)斜度ごとの神経筋疲労・自覚運動強度・筋肉痛:Lemire M et al.Sports Med Open.2024

下り上りの利点を述べましたが、やはり大事なのは平地のランニングです。多くの大会のコースで、一番割合が多いのはフラットです。言うまでもなく、その平坦な部分をうまく走れるかでレースは決まります。トレーニングとして走る場合も、ストライド・ピッチともバランスがよく効率のよいフォームが身に付き、一定のペースを保つ練習にもなります。そして神経筋や筋肉へのダメージもほどほどで、一番長く実践的なトレーニングができます。

夏場は暑さでランニングの速さが低下して、小さなフォームになってしまっているランナーも多いと思います。思い切って下りでダイナミックなフォームを作ってから平地を走ってみてはいかがでしょうか。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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